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クラフトビールに魅せられて。富山で描き始めた僕らの未来

近年、日本でも人気の高いクラフトビール。クラフトビールとは、「小規模な醸造所がつくる、多様で個性的なビール」のことです。クラフト(craft)とは、英語で「技術」「工芸」「職人技」などを意味する言葉。麦芽やホップの種類やその配合量など、組み合わせ次第でビールの「色・香り・味わい」などが大きく変化するため、職人の個性がしっかりと感じられます。

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今回はそんなクラフトビールに魅せられ、富山でブルワリー(醸造所)を立ち上げた2人をゲストに迎え、「富山クラフトビアラウンジ@京都 ~氷見・高岡のブルワリーから学ぶ、ローカルの食と暮らし~」をcoffe and wine ushiroで開催しました。なぜ醸造家を目指したのか、なぜ開業の地に「富山」を選んだのか。なりわいづくりや富山での暮らしについてお話しいただきました。

二拠点生活で見えた富山の魅力/加納亮介さん

ゲストトークに入る前に、まずはゲスト2名をコーディネートしてくれた、加納亮介さんからお話いただきました。昨年はゲストとしてmeets富山に登壇、今回はサポート役としてイベントに携わってくれています。千葉県千葉市出身の加納さんは、田舎暮らしに憧れがあり、2014年に高岡市へ。築80年の町家を改装して作られたゲストハウス「ほんまちの家」の管理人として、5年ほど高岡で暮らしていました。
(昨年のmeets富山はこちら→ミツカルHP

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現在は一時的に東京に戻り学業に専念していますが、1年ほど前まで高岡で暮らしながら東京の大学院へ通うという、二拠点生活を送っていました。今でも月に1度は必ず高岡に戻り、行きつけの食堂や銭湯に顔をだすそう。自分の心をひきつける富山の魅力について、加納さんはこんな風に話していました。

「僕が移住したのは、富山には心地よいと思えるところがたくさんあったからです。地域の手仕事を大切に向き合う姿勢、楽しそうに自分のまちのことを教えてくれる人…その土地で暮らす人たちの想いを垣間見れる風景がある。富山は日常の中に魅力を感じることができる場所なんです」

コメント 2019-11-08 092129

学業を終えたころ、また高岡に戻ることを予定している加納さん。きっとまちの人たちも加納さんの帰郷を待ちわびているのだと思います。第二の故郷があるって、素敵なことですね。

氷見の幸をビールに込めて/山本悠貴さん

続いてお話いただいたのは、氷見市で「Beer Café BREWMIN(ブルーミン)」(以下 ブルーミン)を営む山本悠貴(ゆうき)さんです。
氷見市で生まれ育った山本さんは、東京の大学を卒業後、IT系ソフトウェアの会社でソフトウェアのエンジニアとなります。しかし2015年に都内のブルワリーに転職し、大好きなビールの道へ。2018年には地元でブルーミンを開業しました。

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醸造所兼店舗となる建物は、空き家バンクで見つけた民家をリノベーション。山本さんと奥さま、山本さんとそっくりな弟さんの3人で、可能な限り自分たちの手で取り組んだそうです。ガラス越しにビールの醸造タンクを見ることができる店内の写真を見た参加者からは、「おしゃれ!」という声も上がりました。グラスにはビールの泡をイメージしたお店のロゴマーク。とっても素敵です。

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「屋号のBREWMINは、 BLOOMING(咲く) と BREW(醸造する)という単語を組み合わせた造語なんです。一般的にビールって、黄色くて、ジョッキに入っているものを想像すると思うんですが、実は赤や茶、オレンジ、もっといろんな色があるんですよ。僕は色も香りも味も豊富なビールって、多様性の象徴なんじゃないかなと捉えていて。だからこそ、定番ビールを作り続けるというより、様々な種類の、自分が好きだと思えるビールを作ることを大切にしています

山本さんの言葉通り、ブルーミンには「煮干しブラック」や「すだちウィート」などほかでは見られない多様なビールが揃っており、個性的なビールを楽しみに遠方からのお客様もみえるそう。

コメント 2019-11-08 093000

氷見の海や山の恵みを活かしたビールを作りたいと思っていて。『煮干しブラック』はその代表作ですね。黒ビールの本場であるアイルランドのオイスターを使ったビールにヒントを得て、イワシの出汁と黒ビールと合わせました。名前だけに『ラーメンですか?』なんて聞かれることもあります(笑)」

イベントの企画・運営や飲食店とのコラボ、家でビールを楽しめるテイクアウト用ボトルを作るなど、クラフトビールの魅力を伝える手段を広げる一方で、ビールが飲めない人やお子さまのためにフードメニュー、ノンアルコールドリンクを充実させるなど、飲めない人向けの工夫も凝らしています。その姿勢からは、山本さんの「ブルーミンをたくさんの人が楽しめる場にしたい」という思いが伝わってきます。

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お話の最後に、山本さんにとって思い入れのある場所を紹介してくれました。

「はじめは、氷見でブルワリーをはじめることに不安があったんです。こんな人の少ない場所でやっていけるのかなって。でも氷見市の飲食店やクラフト、アートなどが集まる『海のアパルトマルシェ』に参加したときに、出展者も来場者もすごくおしゃれな人が多くて、アクティブな人、いけてる活動をしている人がこんなにもいるんだ!って気づいたんです。自分もこの人たちの輪に入って、クラフトビールをやっていこう、そう自分の背中を推してくれた場所です。みなさんもぜひ訪れてほしいです」

今では氷見のイベントにかかせない存在となった「Beer Café ブルーミン」。大好きなビールを通じて、地元の盛り上げ役を担う山本さんの活躍を応援していきたいですね。ぜひ、山本さんの個性と地元愛がしみわたるビールを飲みに、氷見を訪れてみてください!

実直に、ビールづくりと向き合う/大島紀明さん

最後は高岡市で「Latticework brewing」を営む大島紀明(おおしまとしあき)さんのお話です。ブルワリーがあるのは高岡市の重要伝統建造物群保存地区である「金屋町」。石畳の道と格子造りの古い家が立ち並ぶ美しいまちです。大島さんも、奥さまの実家がある金屋町に訪れるたびに「あぁ、いいまちだなぁ」という思いをもっていたそうです。

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「“ラティスワーク”という名は、格子という意味です。金屋町の格子の縦と横がぴしっと交わっている感じが、実直なものづくりを表現しているし、私が作ったビールを通じて色んな人が交わるといいなという二つの意味を込めてつけました」

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もともとは大手自動車メーカーに勤めていた大島さん。小さいころから車が大好きで、大学院では車の研究に没頭し、卒業後は念願だった車の開発に従事しました。大島さんの転機となったのは、二年間のアメリカでの赴任生活でした。アメリカでは当時から毎月新しいブルワリーができるほどクラフトビールが大人気!毎日かかさず飲むほど、その魅力にはまっていきました。

「親が自営業ということもあって、もともと人生の半分はサラリーマン、半分は自分で事業をおこしたいと思っていたんですね。それでどんな事業をしようかと考えたときに、『ものづくり』がしたいと思って。ものづくりの要素がぎゅっと詰まっているビールの世界に興味をもったんです」

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帰国後、15年ほど続けた自動車メーカーを辞め、地元の栃木のブルワリーで修業をスタート。修業が終わると、奥様の実家である高岡へ移住し、1人でもくもくと開業準備にとりかかります。大手企業を辞め、1人で未知なる世界へ飛び込むことに不安がなかったわけではないと、大島さんは当時の心境を話してくれました。

「よく、『思い切ったね』と言われるんですが、自分の中では一大決心したつもりはなくて。とにかくものづくりをしたかっただけなんです。今まで車だったものがビールになった、そのぐらいの感覚なんですよ。ただ準備期間中はほぼ収入がないので、不安でいっぱいになりましたね。でもその時『自分で稼いだお金じゃないと遊ぶ気にもならない』ってことに気づいて。だから早く稼げるようになろう。そう思い、準備期間を乗り切ることができました」

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工場からお店までほぼ自分でリノベーションしたという大島さん。瓦部分などを地元の人にお手伝いいただいきながら、こつこつと1年をかけてブルワリーを完成させました。2018年5月からようやく醸造を開始し、今年の1月には併設のパブもオープンしました。

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最後に大島さんが大切にしているルールについて教えてくれました。

「まず『人目を気にしない』ということです。赴任中に知り合ったアメリカの人たちは、どうみられるかなんて気にしていなかった。まず自分はどう思うかを一番大切にしていました。その考えは素晴らしいなと思っていて。自分はやりたいのに、人の目を気にしてやらないなんてもったいないじゃないですか」

小さいころからずっと、真摯に自分の好きなものに向き合ってきた大島さん。自分の気持ちに実直な大島さんの話を聞いていてまさに「職人」だと感じる言葉がたくさんありました。大島さんの職人技を感じるクラフトビールを飲みに、格子造りの古い家が立ち並ぶ金屋町を訪ねてみてください。

富山の幸とクラフトビールのマリアージュ

クラフトビールを際立たせる、今回の料理を担当してくれたのは「料理と暮らし Bran※(ブラン)」を主宰する吉田千佳さん昨年のMeets富山に引き続き、おいしい料理を作ってくれました。旦那さんの転勤で富山に10年ほど住んでいた吉田さん。現在は京都市内でフードコーディネーターとして活躍されています。

今回は富山県一押しの「富富富」の新米で作ったおむすび、白海老の唐揚げ、ホタルイカの炙りなどを用意してくれました。新鮮な富山の幸と吉田さんがタッグを組んだ料理は、最高!クラフトビールも料理もあっという間に完売してしまいました。

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飲み口はまろやかだけど、コクのある山本さんのビール。しっかりとした苦みの中に豊かな香りを感じる大島さんのビール。同じ種類のIPAでもこんなにも違うんだと、感動しながらビールを味わっていました。

どんな味で、どんな香りで、どんな色で…と考えを巡らせデザインされたビールは、世界中でたった1つのオリジナル。2人の職人が生み出すクラフトビールと富山の幸のマリアージュを味わいに、ぜひ足を運んでみてください。きっと、富山の新たな魅力に出会えるはずです。

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(文章・三上由香利/写真・橋野貴洋

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