2023/4/7からのこと

【このお話の前はこちら


全く眠れないままに、次の日の朝になった。
心臓のドキドキは、ずっとおさまらないままだったけれど、生きていた。

今日またメッセージを送るにしても、何て送ろう……?
何時頃に送るべき?
午前中だと、張り切っているみたいかな……?

起きてからずっと、そんなことで頭が一杯だった。

午後一に送ってみることにした。
まずは挨拶。
そして、その日は風が強かったから、
「桜が散ってしまいそうですね。」と。
そして、お誕生日を聞いてみた。

マッチングアプリのサービスでは、LINEのような既読確認の機能があった。
普通は有料なようだけれど、入会してから《1度だけ・1人だけ》に無料で使えることになっていた。
私は、この彼にその機能を使うことにした。

私が送ったメッセージは、すぐに既読がついた。
「何のお仕事をしているのだろう……?
仕事中に携帯をいじれる環境なんだな…。
ただのLINEやメールならわかるけど、デスクの上でマッチングアプリを開くことが平気でできるのかしら?
周りに人がいないようなところで働いているとか?」

彼からの返事は15時頃だった。
お茶の時間にくれたのかもしれない。
私もOLのときに、15時はお茶をいれて、
一息つく時間だった。

彼の誕生日は、嫌いな友達と同じ日だった。
その星座の友達は、ほとんど私の周りにはいなかった。
星座の相性はあまり良くなさそう。
あくまでも占いでのことだけれど。
誕生日大全を広げて、基本的な性格を調べてみた。
12星座の中で、1番優しいと書かれていた。
彼に当てはまるなら素敵だけれど、
嫌いな友達には当てはまらないと思った。
他には、邪魔をされることが大嫌いだと書かれていた。

夜に、またメッセージを送り、自分の本当の下の名前を教えた。
アプリでは、ニックネームにしていたから。

『お名前ありがとうございます。
○○さんですね。
お名前知る事が出来てとても嬉しいです。

やりとり沢山してみたいです。』

私はもう、羽が生えて飛んでいきそうなくらい舞い上がってしまった。
彼とやりとりをしていると、本当に自分が漫画の中のキャラクターになったような絵が頭に浮かんでくる。

私はアプリのプロフィールに、離婚歴があることや、子供がいることを書いているけれど、この人はそんなことについて、何も質問してこない。
それどころか、仕事は何をしているのかや普段の生活についても、何一つ聞いてこないのだ。
名前もこちらから教えるまで聞いてこなかった。
質問するのは私ばかりだ。
それがまた、とても心地良かった。
何者でもない1人のただの女性 としてみてもらえている。
そう思えた。

メッセージのやりとりの途中で、

『○○さんとやりとり嬉しいです』

などという一言を挟んできたりする。
一人称は常に「私」。
そんな男性も身近にはいない。
言葉遣いもとても丁寧だし、
やりとりのテンポも、早すぎず遅すぎず、1度に小刻みに何通も送ってくることもなくて、ちょうど良かった。

どんなにやりとりが嬉しくて楽しくても、何時間も続けるほど暇ではない私は、適当なところで切り上げるけれど、彼は何時間続けても良さそうな雰囲気だ。
一人暮らしで暇なのだろうか…?

昼間、派遣の仕事で働きながら、
いつ、どんなメッセージを送ろうか、と、考える。
たった2日間だけで、
彼とのメッセージのやりとりが1日頑張る活力になってしまった。

彼に会ってみたい……

私は8日に、彼に伝えた。
「お会いしてみたい」と。

『お会いしたいとは、いつでしょうか?』

と、返事がきた。
会うなら20日、ということも決めていた。
満月に出逢った彼。
会うのは、新しい事を始める新月がいい。
しかも、4月の新月の日は日食だった。
最強パワーの日ではないか。

すると、

『今週は忙しい感じでしょうか?
20日はラジオを聴かないとで。』

という返事。
ラジオを『聴かないと』とは……?
聴かなければならないラジオ番組とは……?
ハガキ職人なのだろうか……?
何かラジオで勉強しているとか?
熱心な推し活をしているとか?

予定や都合がどうとかではなく
《新月で日食だから》という理由で20日に決めていた私は、途方に暮れてしまった。
マッチングした女が、初めて会いたいと言っているのに、それを断るほど大切なラジオ番組。
毎週なのだとしたら、その曜日は避けてまた考え直さなければならない。
自分の予定はなかなか詰まっていた。

次の日、私は正直に、その日に会いたい理由を伝えてみた。
「実は、
20日にお会いしたかったのは、その日が日食だからだったのです……
満月に出会えたので、初めてお会いできる日が日食の日だったらすてきだなっておもいました」

すると、

『○○さん おはようございます。
丁寧なメッセージありがとうございます。

毎回丁寧なメッセージで、繋がれている事を嬉しく感じます。
お会いしてからも、仲良くいられたらいいな……

4月20日は日食なのですね!
では、4月20日に会うのが良いかもしれませんね。』

《聴かなければならない》ラジオ番組を諦めて、
私に会おうとしてくれている……!
何て優しい人なんだろう!
ブレスレットを作ってから2週間で出逢った彼。
初めてマッチングしたのに、こんなにも理想にピッタリの男性に出逢えてしまうことなんてあるのだろうか?
   【ブレスレットについてはこちら

マリに言われて、出逢いたい理想の男性を書き出したとき、
身長は175cm以上と書いていたけれど、彼は172cmのようだ。
3cmくらいはどうってことはない。
あくまでも理想だから。
自分も元夫も高卒だったから、
今度は大卒の人に出逢いたかった。
世の中のことをよく知らない私に、いろいろなことを教えて欲しかった。
出来ればせめてMARCHくらい…
   【なぜ書き出したのかはこちら

彼のプロフィールには、《大卒》と書いてあったけれど、大学名までは書かれていなかった。
色白で細身の人が好きな私。
彼は自分の体型について、
『やや細め』と紹介していた。
毛深い人が苦手だけれど、写真を見る限り
毛も薄そうだ。(頭髪は普通)
毎日17時半〜18時頃には、仕事が終わる様子。
私は勝手に「事務職の公務員かもしれない」と、思っていた。
細かく書き上げた理想にも合う点が多い。(想像を含めてなのだけれど)
しかも満月にマッチングして、新月に初めて会うことが叶うのだ。
もう、運命でしかない。

私は毎晩、ほとんど眠れなくなってしまった。
寝ようとして布団に入っても、彼の事を考えてドキドキしてしまう。
やっとウトウトしても、2〜3時間後には目が覚めてしまい、覚めた瞬間からまた彼のことを考えて、ドキドキが止まらなくなってしまう。

無理やり布団で朝まで過ごす日々。
そして、どんなに寝不足でも、昼間も眠くならなかった。
ずっと興奮状態だ。
ドーパミンがダダ漏れだ。
覚醒剤を打つと、こんな感じになるのだろうか…?

彼はいつも早起きだ。
土日祝日は仕事が休みのようだけれど、
休みの日でも6時頃には起きている。
平日5時頃に返信がくることもあった。
また、仕事中と思われる時間にメッセージを送ってもすぐに既読になり、
そんなに間をおかずに返信がくる。
冷静な状態の私なら
「集中して仕事しろよ」
と、思うだろう。
何なら
『仕事時間は返信できないんだ』
と言ってくれるくらいがかっこいい、と思うはずだ。
盲目になってしまった私は、どんな時間にメッセージを送っても
彼がすぐに返信をくれることが、ただただ嬉しくて仕方なかった。
こんなにまめに私とやりとりしているのだから、他の女性とはしていないだろうな。。。

眠れないことの他に、私の体には大きな変化があった。
毎日全くお腹がすかないのだ。
《覚醒剤はダイエットが出来る》という理由で始めてしまう若者がいると聞いたことがあるけれど、やはり同じ状態なのかもしれない。
眠れず、毎日ほぼ1日中心臓が激しく動いていて、お腹がすかない私は、
2週間後には2kg体重が減ることになる。
毎日3kmの距離のwalkingを続けても、
食事制限や糖質制限をしても、
リンパ流しをしても、
《○○ダイエット》という流行のいろいろなダイエットを試しても、
全く減らなかった体重なのに!

会う約束をしたのが10日も先だったので、それまでに毎日メッセージのやりとりは続いた。
朝起きるとまず携帯を確認する。
彼から「おはようございます」とメッセージが届いていたり、
私から先にそう送ったり。
彼はよく空の写真を送ってきた。
空や雲をよく見るところも、私にはツボだった。
私も大好きだ。
仲良くなっても、メッセージはいつも丁寧語なのも魅力のひとつ。
朝、天気や気温の話をして、お仕事頑張ろうと励まし合う。
夜に、夕食を食べ終え、メッセージを送ると、待ってましたといわんばかりに瞬間に既読がつき、

『やりとりしたかったです』

などと言ってくれる。
この人とのやりとりには、駆け引きなど全く必要ない。
この人ではなくても、マッチングアプリでの出会いだとこのようなものなのだろうか?
メッセージのやりとりが嬉しい!待っていた!
そんな気持ちを素直に伝えてかまわないようだ。
寝る前に「おやすみなさい」と伝える相手がいる毎日。

『○○さん、おやすみなさい。
また明日。』

と言われると
「明日も送っていいんだなぁ〜」
と、それだけで嬉しくなってしまった。

会う日にちは決めたけれど、会う場所はすぐには決まらなかった。
お互いの住む市町村の間に60km距離があるので、中間地点の市で会うことにはしていた。
最初からお店などの名前をあげると、
奢られることが目的と思われてしまうかもしれない。
でも、平日の夜に、車を停めて話せる公園や駐車場があるだろうか?
彼からお店などを指定してもらえるとありがたいのだけれど…
「待ち合わせに良さそうな場所をご存知でしょうか?」と聞くと
彼は

『お車で話すでも、ベンチで話すでも、お茶でも、ご飯でも、どれでも大丈夫です。
初対面で食べるところ見られるの少し緊張して苦手ではありますが』

『食事』は1番最後に書かれているあたり、本当にあまり食事はしたくないのだろう。
お互い仕事が終わるのが18時頃だったので、会うのはだいたい19時だ。
夕食の時間だ。
それでも食事はしたくないのは、
本当に初対面の人との食事が苦手なのか、
お店を探すのが嫌なのか、
男性として奢ることになりそうなのが嫌なのか……?

ある日、
私が一人暮らしだという話をすると、
『20日はお部屋で会いたい』
と、彼が言ってきた。
初めて会うのに、いきなり?!
私は、
ジョーダンで言ったんですよね?という気持ちをこめて
「心臓が止まるかと思いました。私を殺す気ですか?」
と返事をした。

一度断られたら、それで引くのが一般的だと思うけれど、彼は

『初めて会う日がお部屋って、なかなかない経験なので、大丈夫でしたらしてみたいです。

相当信頼がないと出来ない事なので、出来たらすごいですね。

部屋が散らかっているとかは気にならないです。

お部屋にご招待してもらえた気持ちが嬉しいのです。』

毎日とても紳士的な人だと思っていたのに、断っても引かないとは!
彼の違う一面を見て、盲目になっていた私の目が少し開いた。
毎日 仕事・仕事の私の家の中は本当にグチャグチャで、何かをちょっと片付ければ人を呼べるというレベルではない。
カーテンやソファーもボロボロで、
気になる男性に見せられるような部屋ではなかった。

私はマリに相談してみた。

マリは
「マッチングアプリでの出会いがどんなもんか知らんけど、やっぱり家を教えてしまうと逃げ場がなくなっちゃうから、やめた方がいいんじゃないのかな。今のところ良い人そうだと思うけど、実際どんな人かわからないんだし。」

ですよね〜
と言いたくなる、当たり前の答えだった。
私がもし他の友人に同じ相談をされたとしたら、全く同じ事を言うに違いない。

どのように断ろうか、よく考えた。

まず、しっかり考えたという事をハッキリさせるため、
毎日続いていたやりとりを、1日置いてみた。
私は、手紙を書いて写真を撮り、それを送った。

「私は浮ついていたので、友達に相談しました。
お部屋に招待するのは、やめた方がいいと言われました。
私も逆の立場なら同じことを言ったと思います。
まだあなたの名前も知りません。
そんな方を部屋に招待するような女ではなさそうだから、
私を気に入っていただけたものと思っていました。
初対面の人と食事をするのが苦手だとおっしゃっていましたよね?
夜7時頃に自宅に来ていただいた人に、夜ご飯を出さない、なんてことはありません。
好意は持っていますが、まだ信頼する心までは持っていません。
慌てずにゆっくり信頼関係を深めていきませんか?」

それまで毎日やりとりが続いていたのに、1日空けたことで、彼も少し考えたようだ。

いつもすぐに返信が来る彼からも、すぐには返信が来なかった。
3時間ほど経った頃、彼の方からも手紙の写真が送られてきた。

『好意を持ってもらえていたので、無理を言ってしまいました。

お部屋の件、承知しました。』

わかってもらえた!

本当に嬉しかった。
3時間程度、きっと、どのような返事をするか、熟考してくれたのだと思うと、それも嬉しかった。
上手ではなかったけれど、丁寧に書かれた文字だった。
誠実な感じに、また惹かれた。

でも……
私が勝手に彼を良く想像しているだけで、
本当の彼は、私が思うような誠実な人ではないかも……?
本当の本当は、マッチングアプリで、性的な関係を持てる相手を探しているのかもしれない……
彼は未婚だ。
どんな理由で未婚なのだろう?
現在の年齢で未婚なら、遊び放題だろう。
一回り年上の女だと、そういうことに飢えているからすぐにのってくる、
と思っているのかもしれない……
もしかしたら、今までも、年上の女性に いいね を押しまくり、
マッチングしてはお部屋に行きたいと言い、そこで一晩を過ごす事に成功してきたのかもしれない……

こんなに好きになってしまったのに、会ってからフラレてしまったらどうしよう……
部屋は教えないにしても、この人と性的な関係を持つことは、嫌ではない。
だいたい、一回りも年下の男性がお相手してくれるなんて、
よく考えたら光栄なことだ。
たとえ、その日一晩でも。
世の中には、それにお金を払っている人だっているのだから……

そんなこんなを考えた私は、勇気を出して彼に伝えてみた。

「あの、
もしもなのですが……

もしかしたらMさんは、このアプリで大人の関係を持てる方をお探しなのでしょうか……?
もし、そうなのであれば、私はそういう関係になってもいいと思っています。
20日も、それでも大丈夫です」

どんな返事がくるか、ドキドキだった。
メッセージは、おそらく彼も寝ているであろうと思われる夜中に送った。

朝の6時19分に返信が届いた。

『○○さん おはようございます。

今日は気持ちの良い青空です。

○○さんのことは欲しいですが、恋人になって欲しい気持ちが強いので、普通にお会いしてみたいです。』

私はまた、アニメで頭が噴火するような自分の絵が浮かんだ。
それは怒りのシーンだったっけ…?
でも、自分の頭の中は爆発したようだった。

欲しい?
この私のことを?
でもそれより、恋人になって欲しい?
私のことを?



その後、会うお店を考えた私は、
落ち着いた雰囲気の、少し高めの珈琲店を提案してみた。
お茶だけでもいいけれど、もしも話が弾んでお腹もすいたら、
そのときの気分で食事もできる。
安いお店ではないけれど、お茶だけで終わるなら、贅沢なほどではないだろう。

『いいですね!』
という返事がくると予想していたのだけれど、

『サイゼ△△や○○○のドリンクバーでもいいですよ。まぁ、K珈琲でもいいですけど。』

との返事。

またまた
「ん……?」となった私。
私と彼の年齢で、サイゼ△△はないでしょう。
お客が若者だらけの、にぎやかな店だ。
初めて会うのに、そんなところで落ち着いては話せない。
高い店が良いというわけではないけれど、
初めて会うのにサイゼ△△って……

私は、中間と思われる○○○にしましょう、と返事をし、やっと会う場所が決まった。



【このお話の続きはこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?