マッチングアプリで出会った男性のこと⑩

その男性は、同い年だった。
結婚していた時に住んでいたことがある都道府県の出身の人で、
ちょっと引いたところから撮った自分の写真を載せていた。
結婚の経験は無いとのこと。
顔がハッキリと分かる程ではなかったけれど、生命保険会社に勤めていたときに憧れていた副支社長に何となく似ていたので《いいね》のお返しをして、マッチングした。

すぐにお礼とよろしくのメッセージが送られてきた。丁寧で良い感じ。
『どこに住んでいるの』とか『写真送って』とかも全く言ってこなかった。
数日やりとりを続けていても言ってこないので、こちらから写真を送り、
住んでいる市も知らせた。
彼は、車で1時間くらいの距離の北の方に住んでいた。

少しずつ、お互いわざとらしくない質問をやりとりして、会うことにした。
会う事にすると、自然に仕事の話をしなければならない。
休みがいつとか、都合の良い時間がいつとか。

彼は三交代制の仕事らしく、夜勤もあり、休みは平日とのこと。
平日の昼間だと、ランチも出来るし、自然に会ったりお別れしたりしやすそうと思ったけれど、たまたま彼の直近の休みと、自分の都合が合ったのは土曜日だった。

休日の過ごし方として『カラオケでストレス発散する』と書かれていたので、
「私はめったに行かないけれど、カラオケでもいいですよ」
と、言ってみた。
『それはハードルが高いですね』との返事。
初めて会う全然知らない人との方が、気をつかったり格好つけずにすみそうだと思ったのだけれど……

会う約束をした日は、マッチングしてから、ちょうど3週間後だった。

その間、特に「なんだこいつ」と思うようなことは無かった。
ただ、
とにかく誤字が多かったし、メッセージがあきらかに途中で切れていることもあり、
「途中で切れてますよね?」
と言っているのに、読み返さないのか、それに気づかない様子。
そして、
『誤字脱字が多くてすみません』などと言っている。
自分でわかっているなら、送る前に読み返そうよ……
そんなに慌てて送るようなメッセージじゃないんだからさ……

長くやりとりを続けることになるならストレスになりそうだから、
会った時に言おうと思った。

約束の日は、午前中からお昼をまたいで、仕事関係のミーティングがあったから、「3時以降で、自分の在住している市の隣の市以北ならどこでもいいから、時間と場所を決めて欲しい」とお願いした。
自分の在住の市で会うと、知り合いに会ったり見られてしまう可能性もあるし、あまり遠くまで行きたくはなかったから、できれば隣の市辺りで会いたかった。

すると、彼の住んでいる市にあるカラオケ店はどうかと言ってきた。
とたんに行く気がなくなった。
こちらは仕事の後だと言っているのに。
そのカラオケ店までは我が家から1時間10分かかるとGoogle Map様が教えてくれた。
そっちは休みなんだから、近くまで来てくれよ……

正確な時間を教えて、自宅のだいたいの場所が特定されても困るので
「そこまで1時間20分かかるので、もうちょっと南下してもらうか、時間を3時半にしていただきたい」と送ってみた。
「自分から決めて下さいとお願いしたのにすみません」というメッセージと共に。

すると、南下したのはいいけれど
『パチンコ屋の駐車場でもいいですか?』とのこと。
やりとりが面倒だからもういいけど、なぜにパチンコ屋……?


当日、約束の時間にそのパチンコ店へ行くと、わかりやすい場所に車を停めて待っていてくれた。
やっぱり写真の印象とは全然違う……
でも、優しそうな人ではあった。
『自分(彼本人)の車で移動しますか?』と言ってきたので、
「まぁ、だから車を長時間停めておけるところとしてここだったんだろうな」と思い、彼の車に乗った。
『どうしましょう?』というので、ビックリ。
決めてないの!?

『ほんとにカラオケとかでいいんですか?』というので、
「はい」と言うと、
『じゃあ、行ってみましょうか。予約とかしてないけど』
と、車を走らせた。

アプリには登録してまだ2ヶ月程しか経っていなくて、女性と会うのは初めてだとのことだった。
彼は、自分が何か言葉を発した後に
『あっははは』と言ってしまうタイプの人だった。
実際に会ってみないと分からないのは、こういうところだ。
メッセージに
『今日はすごく暑いですね。あっははは』と書く人なんていないから。
多分、癖で無意識なんだろうけど、やっぱり気になってしまう。
何も面白くないのに。

カラオケ店に着くと、駐車場はいっぱいだった。
『ちょっと見てきますので待ってて下さい』とエンジンをかけたまま車を降り、『お茶でもどうぞ』と言ってくれた。
指をさした助手席と運転席の間のドリンクホルダーを見ると、麦茶があった。
「麦茶か……」
全く上がらない飲み物だ。
しかも超暑い日だったのに常温だった。

好き嫌いはあまりないだろう。
「麦茶は苦手です」なんて人はほとんどいない。
でも、麦茶を選ぶにしても、少しはブランドを意識して欲しかった。
その麦茶は、あまり自販機でドリンクを購入しない私が、
どうしても喉が渇いてしまい仕方なく買う事がある、とっても安い麦茶だった。
なぜこれを選んだんだろう?
家にたまたまあったものを持ってきたのだろうか?

車に戻ってくると
『すごく混んでいるからやめましょうか』とのこと。
別にカラオケがしたかったわけではないから
「はい」と返事をした。

『車でブラブラしてもいいですか?』と目的も無いドライブをすることになった。
今までやりとりしてだいたいわかっていることなどを細かく聞いたり話したり。
あっははは
が、どうしても気になる。

会う前のやりとりで、彼が三大成人病と言われている病気の1つを患い薬を飲んでいる事を知って、まずガッカリした。
やっぱり、申し訳ないけれど、パートナーは健康な人がいい。
それに、SE〇はできるんだろうか?
今の私には、そこもなかなかに大事なことだった。
会ってみて、
「そんなことはどうでもいいと思えるくらい良い人!」
と思えたらいいなと思ったけれど、どうでもいいとは思えなかった。

以前、住んでいたところのすぐ隣に図書館があり、よく本を読んだそうだ。
『本を読むと、メッセージのやりとりで、普通の人は書かないような気の利いた一言が書けるようになる』と言っていた。
「……それって、自分の事……?
気が利いたメッセージだなと思ったことなんか一度もないけど……。
それに、とにかく誤字だらけなのに。
でも、今日それを指摘する必要はなさそうだな…」

どこで停まるでも降りるでもなく、土曜日で混んでいる道を、本当にただ走るだけだった。
景色が良いわけでもない。
彼の住む市内を1周するような感じだった。

車を停めたパチンコ店の近くまで戻って来ると
『そろそろ小腹でもすきましたか?』
と聞いてきたけれど、時計を見るともう6時を過ぎていた。
夕飯を食べる程にはまだお腹もすいていないけれど、今からスイーツなど食べたら夕飯が食べられなくなりそうな半端な時間だ。
「いいえ」と言うと
『自分もダイエット中なので』とのこと。

例えダイエット中でも、ドライブ中にどこかに寄ってくれれば、
何かを食べたり飲んだりは出来ないほどでも無かったけれど……
『自分はダイエット中だからいらないけど、お好きな物をどうぞ』と言ってくれればいいのに。

多分、ただ単に経験が無く気が利かないだけなんだろう。
職場には男性しかいないと言っていたし、彼女がいた時期も、だいぶ昔のようだった。
ケチなわけでもなさそうだし、とにかく優しそうな人だし、きっとこちらから「ああしたい」とか「こうしたい」「あれが食べたい」と言えば応えてくれそうだ。
でも、私の好きなタイプとは違う。

『お疲れでしょうから、今日はこのくらいにしておきますか』と言ってくれて、ホッとした。
そのままお別れした。


次の日、私は正直に
「もう会えません」というメッセージを送った。
もちろん、そう思った理由を、傷つけない程度に細かく書いた。
『お互い目指してる方向性が違うようですね。ありがとうございました』といったメッセージが届き、お互い嫌な気持ちはせずに終わることが出来た。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?