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書評「フレームワークで考える内科診断」

評者:山田徹 東京医科歯科大学病院 総合診療科


バランスのとれた入門書であり,診断学の名著である

後期研修医として飯塚病院でトレーニングを開始した頃,毎朝行われていた臨床推論のカンファレンスでうまく鑑別を挙げることができず,苦労した記憶がある。当時の上司に普段どうやって診断しているかを質問したところ,「まず最初に主訴を聞いた時点でずらっと鑑別疾患が挙がる。その後の病歴からキーワードが出てくるたびにどんどん鑑別が狭まり,やがて診断に行きつく」と教わったのを覚えている。それを聞いた当時,それならまず主訴を聞いた時点で網羅的に疾患が頭に浮かべられる必要がある,そのためにはまだ圧倒的に基礎知識が足りないなと思い,ことあるごとに診断学の教科書を開くようにしていた。
基礎疾患が十分にあり,網羅的な鑑別が挙げられるのであればベストだが,そうでなければ診断できないというわけでもない。私の好きな,初心者~中級者でも使いやすい診断方法に,鑑別疾患を本命・対抗・大穴の3群に分けて考える方法がある。これは今でも敬愛する飯塚病院のあるメンターがよくカンファレンスで用いていた方法だが,「本命:最も可能性が高そうな疾患」「対抗:鑑別として有力な疾患」「大穴:可能性は低いが見逃すと影響が大きい疾患」の3つに分けて鑑別を考える方法である。これだと「網羅的に」とはいかないものの,後期研修医レベルがその時もっている知識でもある程度は鑑別疾患を整理することができた。これをひたすら繰り返しているうちに,キーワードを聞くと鑑別疾患が並び,病歴や検査の情報が増えるたびにそれが絞られていくという診断の流れを徐々に実感するようになった。いわゆる診断のフレームワークができてきたのだと思う。
本書は12のSectionと50のChapterがあり,症候別に診断のフローチャートが示してある。日常診療で遭遇する症候としては十分な項目が網羅されており,各Chapterもすっきりとわかりやすく整理されている。診断学の初学者は,1つの症候から鑑別を考えるときにまず最初にどこまで範囲を広げてから絞り込んでいくかについて迷いやすいが,本書では最初に大枠を示し,そこから徐々に細部に分かれていくという点が徹底されており,非常にわかりやすい。各鑑別疾患についても診断のポイントとなる点が端的に整理して記載されている。情報量と簡潔さのバランスがよく,診断学の入門書としてもお勧めである。
入門書というと簡単な薄い本を想像しがちであるが,個人的にあまりそういう本はお勧めしない。入門書というのは初学者でもわかりやすいこと,知識の整理がしやすいことが重要であるが,イコール情報量が少ないことではない。そういった点で本書はわかりやすくも十分な情報量が詰め込まれており,とりあえず困ったら手にとる1冊に仕上がっている。また,日常診療での鑑別診断時に用いるだけでなく,後期研修医や若手指導医として臨床推論カンファレンスを企画するうえでのネタ本としても有用であると感じた。
私が後期研修医のときに本書があればよかったなと率直に思う。診断学の名著は多くあるが,本書もおそらくその仲間入りをするであろう。研修医から指導医まで,ぜひ一度は目を通されることをお勧めしたい。
(Hospitalist2021年2号掲載)

フレームワークで考える内科診断
著:Andrè M. Mansoor
監訳:田中竜馬

BookCover3021オビ付き

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