見出し画像

書評「2週間で学ぶ臨床感染症」

2週間後のあなたはきっと変わっている
「感染症は苦手です」「微生物や薬の種類が多すぎて覚えられません!」「教科書を読んでも頭に入りません!」
 私の勤務している大学病院の感染症内科に,実習や研修で回ってくる医学生や研修医の皆さんの口から日々出る言葉である。今でこそ偉そうに指導医として勤務している私も,振り返れば不真面目な医学生時代の試験前夜に同じ思いを抱いていた。その気持ちはとてもよくわかる。しかしその後,感染症医を志し,今も日々感染症医として楽しく働き続けられている最大の理由は,「臨床感染症は面白い」という点にある。そしてこの本を読めば,「苦手」から「面白い」にぐっと近づくであろう。
 感染症が苦手だという方の多くは,きっと体系的にまとめられた教科書を1ページ目から読んでいるような感覚なのではないだろうか。臨床感染症は,微生物学や薬理学でもないし,暗記して対応するものでもない。大げさに言えば,それぞれまったく異なる背景・歴史(この本の原著のタイトルは“Oxford Case Histories in Infectious Diseases and Microbiology”である)をもった一人一人の患者さんの,あらゆる臓器・システム(しばしば複数にまたがる)で,バラエティに富んだ微生物が起こす諸問題を,解き明かし(診断し),解決し(治療し),問題が起きないようにする(予防する)営みである。
 それが臨床感染症の醍醐味であり,目の前にいる患者さんを診ることで一番理解できる。原著者による前書きにも,そのことが熱く述べられている。学生さんや研修医の皆さんに,短い期間のなかでも実際に患者さんを診てもらうと面白さの一端を理解いただけるのだが,どうしても経験できる範囲に限りがある。この本は,日々教育に携わっている立場からみても憎らしいくらい非常にバランスよく選ばれた47の症例で構成されており,それがスムーズに2週間で読めるようにまとめられている点も素晴らしい。
 各症例は,病歴で始まり,複数の質問,その質問に対する答えがついている。写真や画像も豊富である。これらがまた秀逸である。多くの医学生,研修医,感染症を学んでいる医師の皆さんには,こういうところが学ぶポイント(疑問に思うべきポイント,理解すべきポイント)であるということを是非知っていただきたい。一方,若手を指導する立場の先生方にとっても,ベッドサイドで教えるポイントが理解できるようにもなっており,かつ厳選された参考文献が記載されているのもうれしい。原著が出版されたのは2020年であるが,多くの参考文献がこの10年以内のものであり,それぞれのトピックに関連して読んでおきたい重要文献やよくまとまった総説が選ばれている。
 監訳をされた的野先生が指摘されているように,ところどころ英国の本らしい記載もあり,日本や,しばしば日本でも紹介される米国の診療ガイドラインとも異なるところがあるが,そのこともまた正解となるアプローチが1つではないことを意識させ,自分自身のアプローチを見直すきっかけにもなるのではないかと思う。
 感染症が苦手な人も面白いと思う人も,医学生からベテランの医師まで是非手にとって読んでほしい。きっとあなたの2週間を充実したものにしてくれるし,もっと患者さんを診て,他の教科書で学ぶモチベーションが高まるはずだ。私自身この本を手に,臨床感染症を面白いと感じて,もっと学びたいと思う人を増やす布教活動に勤しもうと思う。

(岡本 耕:東京大学医学部附属病院 感染症内科)

『2週間で学ぶ臨床感染症』
 著:Hilary Humphreys
 監訳:清田 雅智・的野 多加志

BookCover3033オビ付き

MEDSi
4,840円(本体4,400円+税10%)
A5/392頁
ISBN978-4-8157-3033-8

画像2


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?