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『がんサバイバーシップ学 がんにかかわるすべての人へ』書評

「がんサバイバーの時代における教科書」

評者:勝俣範之(日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科 教授)

がんサバイバーとは,「がんと診断されたときから,人生の最期までサバイバーである。家族,友人,介護者もサバイバーシップの経験によって影響を受けるため,サバイバーに含まれる」。これが,全米がんサバイバーシップ連合の定義です。
日本人のがん罹患数は年々増え続け,現在では年間 100 万人以上ががんと診断されています。がん治療の進歩により,がんの治療成績が向上し,がんをもちながらも,より長く共存できる時代になりました。したがって,現代は,「がんサバイバーの時代」となったものと思われます。
がん治療の進歩の一方で,がんサバイバーたちは,数多くの問題を抱えています。治療・ケアの格差,加齢,経済的困難,症状,認知機能障害,就労,対人関係,生活習慣,プライマリケア・包括的ヘルスケアといった問題などです。サバイバーが増えてきているにもかかわらず,こうしたサバイバーが直面する問題に関しては,これまで日本では問題視されることがあまり多くなく,また,がんサバイバーシップについての研究も少なかったといえます。一方で,患者さんや患者アドボカシーのかたがたからは,「サバイバーシップの充実を」と必要性が叫ばれていました。日本では,がん治療医の不足がサバイバーシップへの取り組みが遅れている原因となっているとも思われますが,今後は,がんサバイバーシップに関するアプローチは日本においても,必須のことであると思われます。
この『がんサバイバーシップ学』は,がんサバイバーが直面する問題について記載しています。米国の第一人者が,それぞれ,詳細な文献を元に,現時点での「がんサバイバーシップ」について,現状・最新のエビデンスと,推奨できること,今後の方向性まで,包括的に述べています。まさに,「がんサバイバーシップの教科書」といえます。このような素晴らしい教科書を監訳してくださった髙橋都先生,佐々木治一郎先生,久村和穂先生,また翻訳チームに感謝いたします。
この本は,がん治療医だけでなく,がんにかかわるすべての医療従事者,また,アドボカシーのかたがた,がん政策にかかわるかたがた,にも手に取ってほしいと思います。この本が,日本の「がんサバイバーシップ学」の基本となり,がんにかかわる医療従事者の知識を広め,研究を促進することによって,がん患者さんの生活の質が少しでも高まり,がん患者さんが安心して暮らせるような社会になることを願います。

(「癌の臨床」第66巻第3号202〔90〕,2020年より)

がんサバイバーシップ学 - がんにかかわるすべての人へ -
Handbook of Cancer Survivorship, 2nd Edition
監訳:髙橋 都(NPO法人日本がんサバイバーシップネットワーク代表理事ほか)・佐々木治一郎(北里大学医学部新世紀医療開発センター横断的医療領域開発部門臨床腫瘍学教授)・久村和穂(金沢医科大学医学部腫瘍内科学学内講師)
定価6,820円(本体6,200円+税10%)
B5 頁420 図27 2022年 MEDSi刊


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