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崖っぷちからの立て直し

町からの繰入金約18億円、約8億円の借入金。その巨額な赤字体質は長く問題視され、町の財政を圧迫してきた町立中標津病院。平成29年3月には「町立中標津病院 新経営改革プラン」を4ケ年計画でスタートさせ、独自に経営改善に取り組んできたが、NPO法人病院経営支援機構に協力を依頼、6月にプロジェクトチームを立ち上げ、外部の専門家を交えた経営改革に乗り出した。

地域医療を守るため
町立中標津病院の経営改革が本格的に始まった

病院経営02城西大学 経営学部マネジメント総合学科 教授 伊関 友伸

病院経営03特定非営利法人 病院経営支援機構 理事長・薬剤師 合谷 貴史

病院経営04特定非営利法人 病院経営支援機構
連携支援パートナー・社会福祉士 塚本 洋介


崖っぷちにある中標津病院の経営

伊関 私は12年前ほど前に、夕張市の財政破綻に伴って、夕張市立総合病院(現 夕張医療センター)の医療再生に関わりました。現在の中標津病院の経営状況は、夕張市の病院に並ぶぐらいまずい状況です。中標津町本体の一般会計から1年で約16億円の繰出金を受けて、それでも約8億円の一時借入金(短期借入)が生じています。

中標津町本体も、貯金である財政調整基金(※1)が減少している状態ですので、これ以上病院に繰り出しを続けるのは相当厳しい状態です。ただ、夕張のケースと違うのは、夕張は市が財政破綻して病院も破綻しましたが、中標津町の場合は、病院の経営を再建できれば町の財政もなんとか維持できるのではないかと考えられるところです。

もし、中標津病院がなくなれば、町民の皆さんはすべて釧路の医療機関にかかることになりますが、相当厳しいと思います。中標津病院は中標津町民だけではなく、隣接の町の患者さんを受け入れる道東のセンター病院です。なくてはならない病院です。それがゆえに経営を再建することは絶対に必要です。そのために本気で再生しなければなりません。

中標津病院の経営が悪くなった要因は色々あるのですが、一番大きいのが医師不足です。2004年の新しい医師の研修制度(※2)の導入以降、大学医局に属する医師が減り、医師を派遣する力が落ちています。地域にとって必要な数の医師を派遣できない状況にあります。特に、中標津病院のような、交通の便が悪い地方の医療機関に医師が勤務しなくなり、結果として患者さんが他地域に流出し、収益が悪化しています。

私は自治体病院の経営について研究する学者です。中標津病院のような自治体病院は、経営的に甘いところがあり、病床がなかなか埋らない傾向があります。病院として、やれることを一つ一つやっていく必要があります。

町民の皆さんも中標津病院がどうなるか心配だと思います。むりやり給与カットなどのリストラを行って収益改善しても将来はありません。必要な投資を行いつつ、職員の意識変革を行い、患者さんに病院をもう少し利用していただいて、入院患者を増やし、収益を改善することが病院の経営再建のポイントになります。

NPO法人病院経営支援機構(東京/以下NPO)さんとはよく仕事をさせていただくのですが、病院再生で最も大切なことは病院職員の皆さんとの対話です。NPOのスタッフが職員の皆さんと積極的にコミュニケーションを取り、対話を通じて病院の経営再生をしていく。これはこのNPOさんの特色でもあります。コミュニケーションを通じて職員の皆さんの意識を変えていただき、やる気を向上させる。実際、少しずつですが病院の雰囲気が変わってきたかなと感じています。

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