見出し画像

Choose Life Project の挑戦

                       (放送レポート編集部)

~自由で公正な社会を目指して~

チャンネル登録3万人
「#検察庁法改正に抗議します」
今年5月、このようなハッシュタ グをつけたツイートが短期間のうちに何百万件と投稿され、「ツイッターデモ」と称される事態となった。 公務員の定年延長の一環として国会に上程された検察官の定年延長のための法案は、安倍政権に近いとされた黒川弘務・元東京高検検事長を検事総長に据えようという狙いがあるのでは、と指摘された。司法権の一角である検察庁の人事に、行政権力が支配の手を伸ばそうとしていたと言うこともできよう。
折しも、新型コロナウイルスの感染拡大で、政府は4月7日に発した「緊急事態宣言」を同月16日に全国に拡大。「ステイホーム」が叫ばれて人々は外出を自粛し「巣ごもり」状態となった。このため、例えば法案採決反対で人々がデモ行進を行ったり、国会周辺で抗議集会を開いたりすることができないような状況を迎えていた。また、人との接触を制限しなければならないとされる状態では、報道機関による取材行為も大きな制約を受けた。
 そのように身動きが取れない中で注目されたのが、インターネットやSNSでの情報発信だった。
 冒頭で触れた「ツイッターデモ」は、「笛美」というハンドルネームを持つ女性会社員の書き込みから始まったということだが、文化人や著名なタレント、芸能人などがハッシ ュタグをつけて次々に投稿し、瞬く間に拡散していった。これは、総計すれば1000万ツイートに上るとも言われる一大ムーブメントとなったのだった。
 もう一方で、検察庁法改正案の問題点を深く掘り下げて解説し、政党の代表がじっくり議論するという、良質な判断材料を提供するメディアの取り組みも現れた。それが「Choose Life Project(チューズ・ライフ・プロジェクト)だ。
 同プロジェクトは、動画共有サービス「YouTube」のライブ配信を精力的に行って、後段の表のように連日、検察庁法改正案をめぐる問題に関する独自の番組を発信し続けた。ステイホーム期間中だから、出演者はいずれも自宅などからウェブ上で参加し、オンライン会議のシステムを利用して複数のゲストが画面上でそれぞれ意見を交わす。ジャーナリストの津田大介氏らが司会者となって進行し、問題点を整理しながら順番に発言を促していくので、 民放の討論番組のように議論が白熱して聴き取りにくくなったり論点がずれたりしないで、視聴者は落ち着いて議論を聞いていられる。時にはYouTubeのチャットの機能を利用して視聴者からの声を議論に反映させることもできる。
 表にあるとおり、時には政党間の討論会だったり、検察OBによる問題点の解説だったり、タレントや文化人による評論だったりと多彩な番組が配信された。中には、最初の投稿者「笛美」さんも、顔出しなしで登場したりした。
 このように、深みのある内容を機敏に分かりやすく提示した「Choose Life Project」 はすぐに多くの支持を受け、YouTubeのチャンネル登録も3万人を超えている。今回、同プロジェク トの代表を務める佐治洋さんにイン タビューを行った。

得意分野をそれぞれ生かし

―― Choose Life Project(CLP)は、いつから始められた取り組みでしょうか? CLPを始めた時期と、始めた理由・動機をお答えください。
C Choose Life Projectは、2016年7月の参院選を前に始めた取り組みです。
 ここ数年の傾向だと思うのです が、テレビの報道現場では、選挙前、特に公示日を過ぎると、選挙報道がかえってやりにくくなります。 例えば、各候補者の登場分数を計ってほぼ同じにしなくてはならないなど、「問題を起こさないようにしよう」モードとなります。選挙に関連する放送時間数が減っているという調査結果もあったかと思います。
 しかし選挙は、その時々の政権運営について振り返り「チェック」する機会です。それなのに、放送時間が少ないとチェックのための材料を多く提供できません。そのことが、結果として低投票率を招いていると感じていました。
 同時に、それもメディアに責任の一端があるのかもしれませんが、「なんだか政治のことは話しにくい」という社会の空気が存在するように思います。まずはそこから変えていきたいと、著名人や文化人の方々にお願いし「投票に行こう」と呼び掛けてもらう動画を作ったのが始まりでした。
―― スタッフは今、何人くらいおられますか。役割分担のようなものはあるでしょうか。また、スタッフの皆さんはそれぞれ本業をお持ちかと思いますが、どのような仕事を普段はされているのでしょうか?
C 「スタッフ」と明確に区切って考えるのが難しいほど、いろんな現場にいる人たち――例えば、テレビや新聞の記者、ディレクター、映画監督、デザイナーなど――が緩やかにつながって、それぞれの得意分野をその時々のプロジェクトで生かし、発信してきたのが実状です。
 現在は、3月末で退社した私が法人化の準備をしている最中です。継続的な活動を続けられるように人員や態勢を少しずつでも整えたいと思っていて、クラウドファンディングで皆さんにご支援をお願いしているところです。
―― CLPは次々と意欲的な企画を実現されていますが、企画はどのように決定していますか? また、司会者を含め出演者の魅力も注目を集めていると思いますが、人選はどのように行っていますか?
C ふりかえると、選挙の呼びかけ動画を発信していた頃から今年の5月初め頃までは、メンバーで相談して準備をして…というスタイルでし た。今年5月中旬から10日ほどは「検察庁法改正案」をめぐる生配信を連日行いましたが、きっかけは「今この問題を生配信でとりあげるべきでは!」という若いメンバーの呼びかけで、その日からは走りながら企画を出す感じでした。特に戦略があったわけでもありません。ただただその日ごとに「これを出すべきなのでは?」と湧き出る思いから出していったような形です。
 そのため、出演者の方々にはいつも急なお願いとなってしまい、ご迷惑をおかけしていました。でも皆さん、快く出演依頼を受けて下さいました。
Choose Life Projectは、メンバーだけではなく、そうして協力くださる皆さん、 ご覧になってくださる皆さんと一緒に作り上げているような気持ちでいます。
 今も、いろいろな形で「この問題をやったらどうでしょう?」とお声がけを頂くことが多く、自分たちだけで作っている感じがしません。
 出演者の方については、その時々にこの方のお話を聞きたいと思う方にお声がけしています。一つだけルールを決めていて、出演者の男女比が半々になるようにしています。

つながっている政治と生活

―― 技術的にはどのようなweb上のサービスを利用されていますか?
また、番組の内容面でも、注意していること、心がけていることがありましたら、教えてください。
ストリームヤード」という配信ソフトを使っています。
 私たちは「自由で公正な社会のために」という目的を掲げています。微力な存在ではありますが、自由な議論が行える場を提供できる、いわば「公共のメディア」になれたらいいなと思っています。
 日々のニュースからはこぼれおちるかもしれない、でも大事な問題というものを、今後も取り上げていければと思っています。
―― コロナウイルスの拡大で外出自粛・制限があり、その中で、在宅でもいろいろな情報に接することができるCLPが支持されたという関係もあるかと思います。こうした中で、人々の政治意識も変化したと受け止めていますか?
 また、検察庁法改正案をめぐるムーブメントでCLPは重要な役割を果たしたと思いますが、これについてはどのように自己分析されていますか?
C 新型コロナによって「おうち時間が増え“考える時間”が増えた」 ことは大きかったと思います。それにより「政治と自分の生活はつながっている」と思う人が増えたように感じます。
 あのタイミングで私たちが生配信を始め、各界の方の言葉をお届けしたことで、お一人お一人が考える際の材料を提供できたならば嬉しい限りです。でも、それほど「日々の忙しさ」がじっくり社会の問題を考える時間を奪っていたのだな、とも思いました。
―― クラウドファンディングでは 一日で目標を上回る1000万円を超えましたが、このように人々の期待を集めている理由を、ご自身ではどのように考えていますか?
C 正直、これほど多くのご支援や温かいメッセージを頂くとは想像していませんでした。心からお礼申し上げたいと思います。
 私たちは、微力すぎる存在で、もちろん、すべてに手がまわっていないような状態です。クラウドファンディングでも、市民スポンサー型をお願いしているところですが、冒頭でも申し上げたとおり、皆さんと一緒に、自由に政治や社会の問題を語れる場を作って拡げていけたらいいなと思っています。

聴診器のようなメディアに

―― CLPの人気の背景には、今のマスメディアへの批判があると思いますが、今のメディアに欠けている点、改善すべき点があるとお考えでしたら、それはどのようなことでしょうか?
C やはり大きな組織ほど「報道とはこうあるべきだ」という固定の観念、手法があるかと思います。でも、もしかすると、もっと自由であってもいいのかもしれません。若い人たちをはじめ、現場の記者、ディレクターは、熱い思いもアイディアもたくさん持っています。私はテレビ局からこちらに場所を移りましたが、今でもテレビには無限の可能性や力があると信じています。
―― 資金も集まって新しい段階に突入しますが、今後、目指す方向について教えてください。
C 今は専従であたっているのは私一人なので、少しずつでも人員を増やすことができ、一つでも多くの企画を出せ、一日でも長く活動ができたらうれしいです。
 そして、拡声器ではなく、声なき声を拾っていける聴診器のようなメディアになっていけたら、と思います。

「Choose Life Proj ect」は、この他にも「国会ウオッチング」「コロナ時代を生きる」「表現の自由を考える」など、意欲的な企画の配信番組をすでにいくつもアップしている。今後の取り組みに、さらに注目したい。

ChooseTV ライブ配信 #揺れる検察庁法改正案

画像1



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?