「霊感商法」を、私はこう取材した

放送レポート300号(2023年1月)
藤森 研

“組織的詐欺”の手口

 安倍元首相銃撃事件を機として、「霊感商法」などで知られる旧統一教会への批判が起き、その反社会性が改めて問われている。
 1986年~87年に、『朝日ジャーナル』という雑誌で、私は霊感商法追及キャンペーン報道に携わった。昔話を書くのは気が引けるが、旧統一教会の体質は昔も今もあまり変わっていないように見えるので、取材の何かのヒントになればと、私のつたない取材経験を書いてみたい。
 霊感商法は、1980年前後から統一教会(当時の正式名称は世界基督教統一神霊協会)の信者たちが大々的に行ってきた悪徳商法だ。言葉では「霊感」云々を言うが、教団を脱会した人たちが当時、その舞台裏を赤裸々に明かしてくれた。こんなからくりだ。
 主に女性を狙い、「手相を見てあげる」などと近づく。「大変だ、先祖の霊が地獄で苦しんでいる。偉い先生に見てもらおう」などと言って一室に連れ込む。客から聞き出した身の上や悩みは、「先生」役の信者(彼らは内部で「トーカー」と呼ぶ)に前もって伝えてあるので、先生は霊能者かのように、「すべてお見通し」だ。「先祖を救うために」と、数百万円の多宝塔などの購入を迫る。
 客が「そんなお金は」と抵抗すると、先生は「神様に祈ってきます」と別室へ。別室には「タワー長」と呼ばれる上司の信者が陣取っており、報告に対して「なら100万円の壺にしておけ」などと指示する。戻って来た先生は、「神様は100万円でいいと仰っている」と告げ、脅し文句を並べて、客が買うまで帰さない。
 組織的詐欺とも言うべき手口である。

▲『朝日ジャーナル』霊感商法追及第一弾

教会や弁護士と連携して

 86年秋、朝日ジャーナルの編集委員だった伊藤正孝さんが、編集部員の私に声をかけて来た。「統一教会の連中が変な商法をやっているようだ、一緒に取材しないか」
 まず手掛けたのは、全国の公立消費生活センターへの相談・苦情から、被害の量的規模を調べることだ。全国258ヵ所のうち218ヵ所が答えてくれた。弁護士連絡会もまだ結成されていない時期で、手探りの調査だったが、直近2年半で少なくとも約40億円もの被害が持ち込まれていることがわかった。
 並行して、センターなどの伝手を頼り、被害に遭った人たちに話を聞いた。不慮の事故で夫を亡くした人、視力を失った女性、見るからに人のよい一家など、境遇はそれぞれだったが、人を信じる優しいタイプの人が多いように感じた。
 鈍感な私は、被害を受けた人と向き合って初めて、悪徳商法への怒りや取材意欲がわくタイプ。「被害者もアホなんだよ」などと高みから言う人もいるが、まずは被害者に実際に会うことだと、私は思う。見え方が違ってくる。
 この商法を、消費生活センターによっては「開運商法」に分類していたが、「こんなひどいやり口で、開運もないだろう」と、『朝日ジャーナル』の追及キャンペーンを始める際には「霊感商法」と名づけた。
 86年12月5日号の追及第一弾の見出しは「霊感商法の巨大な被害 豊田商事をしのぐ冷血の手口」となった。伊藤・藤森の連名で、全国被害調査結果のほか、いくつかの具体的な事例、脱会者の明かした「舞台裏」で構成した。
 統一教会は、霊感商法に対する組織としての関与を否定する。実態を知る上で脱会者の取材は必須だった。統一教会はキリスト教をベースに独自の教えを作っている。教えに疑問を感じた人は既存の教会の牧師と聖書解釈などを論じ合い、マインドコントロールを脱する場合が少なくない。熱心な牧師や支援者のいる教会には、自然に脱会者が集まっている。そうした教会を訪ね、多くの元信者たちから話を聞くことができた。
 現在では全国組織の霊感商法対策弁護士連絡会ができているので、その弁護士たちと連携することも有効だろう。
 統一教会幹部の立場にあって脱会し、内部告発をした人は、私たちが追及報道を始めた時点では極めて少なかった。国内では、統一教会系日刊紙『世界日報』の副島嘉和元編集局長、井上博明元営業局長の両氏が『文藝春秋』84年7月号に書いた「これが『統一教会』の秘部だ」がほぼ唯一、知られていた。文鮮明教祖の世界統一の野望、「韓民族」選民思想などが書かれており、霊感商法についても、霊験を信じ込ませる「ヨハネトーク」という手引書があることなどを明かしている。この『文春』は、今でも必読資料と言えるだろう。

信者が恐喝罪で有罪確定

 追及第二弾は「家・土地にも仮借ない手が伸びる」の見出しで、「献金」「献財」の実態を書いた。霊感商法の淵に落ちて教団に引き込まれると、「神の側へお金を復帰することが大切だ」との教えを受ける。やがて「住んでいる家と土地を神にささげてほしい。そう神の啓示があった」と幹部から迫られる…。そんな体験の事例を複数載せた。
 現在、安倍銃撃犯の山上徹也容疑者が、母の統一教会への高額献金で家庭が破壊されたのを恨み、教団に近い安倍氏を狙ったと供述したことが報じられているが、高額献金問題はすでに80年代から、霊感商法と並行して起きていた。
 第三弾では、霊感商法をした統一教会信者が恐喝罪で摘発された事件を取り上げた。有罪が確定した裁判の記録は、青森地検弘前支部に保存されていた。検証調書なども含む分厚な書類束だ。「閲覧はいいがコピーはだめ」と言われ、弘前市内に泊まり込み、毎朝支部に通って、書き写し、写真を撮った。
 被害者は50歳の主婦だ。前夫はがんで死に、再婚した夫も交通事故で言語障害となった。ある日、男の声の電話が来た。「以前に印鑑を買ってもらった会社の者だ。先生(霊能者)があなたの先祖を拝んだら、悪い霊がついていた。先生から手紙を預かっている」と言う。翌日その男Aがやって来て、先生に会うよう執拗に勧めた。
 Aにホテルの一室に連れ込まれた主婦は、9時間半にわたって退出を阻まれ、「先生」なる女性から「全財産を投げ出して成仏させないと不幸が続く」などと迫られた。
 主婦が首を縦に振らないと、「前夫の霊が乗り移った」と称する男が現れて室内を暴れ回ったり、「あなたの水子の霊が乗り移った」と言う数人の女が「寒いよ、寒いよ」と畳の上を這い寄って来たり。憔悴しきった主婦は、夫の交通傷害保険1200万円の定期預金を渡すことに同意してしまった。
 裁判記録の中には家宅捜索結果などに基づく警察の捜査報告書があり、「本件は被疑者Aの所属する会社ぐるみの犯行である。この会社は、統一教会および異名同体の国際勝共連合の思想教育を受けた者の集まりであり、Aが統一教会の信者であることは明白である」と書かれている。
 刑事確定訴訟記録法で、判決文や捜査記録類は、今も原則3年以内は閲覧が可能なはずだ。利用したい。

壺や印鑑の原価を調べる

 霊感商法の印鑑や壷の値段が「法外な高額」と言えるか。その裏付けには、少し苦労した。
 印鑑については、印章製造で有名な山梨県六郷町を歩いた。「原価はちょっと」「品質によっても違うしね」と言葉を濁す印章業者が多かったが、中には重い口を開いてくれる良心的な人もいた。「原価を言えば、真面目な問屋や小売業者に迷惑をかけかねない。あえて明かすのは、何十万円なんて値で買わされる消費者は気の毒、と思うからだ」。
 その人によれば、統一教会系の企業とされるある会社で扱っているメノウの印鑑は、印材の形にまで加工して納める際、直径16.5ミリの単価は2000円、13.5ミリが1600円、10.5ミリが1400円。この価格には原石代や手間賃を含む。したがって3本セットの印材価格は合計5000円となる。次に彫り賃、さらにケース代…と、詳細に積算を教えてくれる。結論的に、輸送コストを加えても「東京の会社が完成品3本セットを仕入れる価格は1万5000円を上回ることはないはずだ」と言った。
 別の彫り職人は、象牙製品の原価を詳細に教えてくれた。これも生産者原価は、1万7000円ほどだった。
 一方の霊感商法で、印鑑はいくらで売られているのか。宮城県消費生活センターでは「相談のあった印鑑はほとんど象牙で、買値は3本セットで平均30万円ぐらい。中には70万円という例もあった」。神奈川県消費生活課のまとめによると、「平均購入金額は多宝塔911万円、高麗人参615万円、壺147万円、印鑑54万円」。霊感商法の印鑑が「法外に高額」であることは、明白だった。
 壺や多宝塔の原価を知るには、韓国へ行かなければならなかった。統一教会系と言われる一信石材工芸株式会社は、ソウル市の真新しいビルに本社がある。貿易部長がいちおう応対してくれたが、答えは全く要領を得なかった。
 しかし、同社は前年に新規上場していた。そのため別の場所で当局への報告書類を閲覧することができた。「所有株式比率変動報告書」によると、発行株式総数の44.52%は、「世界基督教統一神霊協会維持財団」が持っていた。韓国統一教会の財団本部とされる団体だ。
 やはり公的に出された「一信石材工芸株式会社事業報告書」も読むことができた。86年1年間で花瓶(日本では「壺」)の販売実績は2万3900個で、10個を除く2万3890個が輸出されていた。石塔(日本では多宝塔や釈迦塔)は2454個の販売実績すべてが輸出だ。これらは「主に日本に輸出されている」(韓国誌『新東亜』)。
 さて、原価である。販売実績の個数と金額から平均価格を計算すると、壺1個は約14万ウォン、当時のレートで3万円弱だった。石塔は同様に、60万円程度。先の神奈川県消費生活課のまとめと対比すると、霊感商法によって、壺は約50倍、多宝塔は約15倍で売りつけられていたことになる。
 取材で学んだのは、国を超えると、オープン・ソースつまり公開資料での事実把握がいとも簡単な場合があることだ。統一教会は日本以外に韓国や米国、欧州諸国などでも活動しており、外国での調査が有効な場合は少なくないと思う。

嫌がらせの撃退法

▲「 霊が乗り移った」と被害者(左)を脅す状況の再現(検証調書より)

「霊感商法」の特徴はこれまで、ずっと変わっていない。
①正体を隠して接近し
② 「霊感」などの虚言で人を不安や恐怖に陥れ
③法外な金を奪う
④それを、常習的に行う
 そうしたやり口は、まず統一教会の「カタい」信者にしてから献金の名で金を搾り取る「高額献金」問題にも、本質的に共通する手法のようだ。
 嫌がらせがあった場合にどう対処したらいいのかについても、参考の一例として触れておこう。
 霊感商法追及キャンペーンを始めて間もなく、キャンペーンをやめさせようとしてか、私の自宅(三鷹の借家)に嫌がらせが始まった。一日中、家の前に止めた車から、男たちがこちらを見張る。黒眼鏡の男たちが我が家の前をうろつく。嫌がらせ電話も来た。「この世界でめし食えなくしてやる」「今から行くからな」。娘の名前も調べていて、「〇〇ちゃん元気? フフ」と思わせぶりに言う。頼んでいない特上寿司や天重も届いた。
 警察は動いてくれないから、私の場合は個人的に反撃した。
 電話機には録音装置を取り付けた。「さあ証拠収集するから、なんでも言ってみろ」と言うと、途端に無言電話に変わった。それでもひっきりなしに鳴り続けるため、夜は電話機を布団蒸しにした。
 外をうろつく輩に対しては、カメラを手に出て行って、「証拠集めだ」と正面からレンズを向けた。可愛いことに彼らはくるりと後ろ向きになる。こちらは図に乗って、だんだん黒眼鏡を追いかけ回すようになった。
 効果なしと見たのか、嫌がらせは数日間でやんだ。稚拙な嫌がらせはかえってやる気に油を注いでくれ、霊感商法追及キャンペーンは87年秋の第10弾まで続けた。
 以上が私のかつての取材の、ざっとした手の内だ。

 今回、安倍銃撃事件後に新たに浮上してきた課題も多い。政治家と旧統一教会の驚くほど広範な癒着はその1つだ。
 多くの自民党議員が統一教会側と関わった1つの契機は、2009年と思われる。この年、霊感商法の販社「新世」に捜査の手が入り、有罪判決が出た。他方、2009年の総選挙で自民党は大敗し、政権交代が起きた。東大名誉教授(宗教学)の島薗進氏は、「教団はさらに庇護を得るためか、政治家への働きかけを強めた。下野した自民党は、選挙に勝つためには何でもやるような時期。双方が合致した」と指摘する。
 政治家の後援者には「統一教会とつきあって何が悪い」と言う人もいるが、霊感商法や、高額献金を強いる集団にお墨付きを与え、違法行為を再生産するから悪いのだ。世界平和アピール7人委員会の声明は、「搾取・収奪常習を問われる集団に寄生する政治家の即退場を求める」と、端的に本質を突いている。
 宗教二世の問題もクローズアップされている。幼少時から極貧の境遇に置かれた人も多い。相談窓口、自立支援などを充実させることが必須だ。
 高額献金の再発を予防するには、実効性のある新法の制定と、その着実な運用が大切になる。
 事実が未解明のまま残されている点も多い。霊感商法や高額献金で収奪された金の流れはどうなっているのか。外為や脱税の問題はなかったか。安倍元首相や細田衆院議長らと教団の関わりの実態はどのようなものだったのか。当時の下村博文・文科相に異例の事前報告がなされた2015年の教団の名称変更の経緯も闇の中だ。
 大手メディアが沈黙しがちだった「空白の30年」の間にも、単身、統一教会の闇に切り込んできたフリーの鈴木エイトさんのジャーナリスト精神には、頭が下がる。逆に言えば、組織力や国際調査力を十分に持つ大手メディアが、いま力を発揮すべきだ。与野党の調査には限界がある。霊感商法対策弁連の弁護士の1人は「頼みはメディア」と言った。そう言ってもらうのは有難いことだ。期待にぜひ応えていきたい。

藤森 研ふじもり けん
 元朝日ジャーナル編集部員、元朝日新聞論説委員・編集委員。元専修大学教授、日本ジャーナリスト会議(JCJ)代表委員。著書に『日本国憲法の旅』、共著に『追及ルポ霊感商法』『新聞と戦争』など

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