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民放労連 新委員長に聞く ~ききて・砂川浩慶メディア総研所長~

                 (放送レポート編集部)

会社と話ができる関係に

砂川 まず、民放労連委員長に就任して、早急に取り組みたいことは何でしょうか?
髙木 民放労連ばかりではありませんが、労働組合が弱ってきていると思います。TBS系列の労働組合では、年に2回、JNN情報交換会を開いて情報交換をしているのですが、ちゃんと残業代が支払われていなかったりなど、まともな交渉ができていないところが結構あるのです。これを健全な状態に直すには、ちゃんとした労使関係を築かなければならない。そのためには、会社側の人たちともっとコミュニケーションを取れるようになっておく必要があると思います。
 僕がいちばんやりたいことは、組合の力を強くしたいということ、そして組合が必要とされるもの、便利で使えるもの、というふうに認識してもらえる存在にしたい、ということなんです。とくに、35歳以下の若い世代からそう思われるようになりたい。組合が必要とされるようになれば、そういう需要の高まりとともに会社ときちんと話ができるようになって、そうすれば組合員も増えて、力も増してまともな交渉ができるようになると思うのです。
 これから放送の激動の時代、開局以来初めての事態がいろいろと起きると思います。僕は労働組合を、そういう時代にも対応できるような組織にしたい。
 35歳というのは、世代の分水嶺の1つだと思っています。高度成長期を経験していなくて、お父さんや労働組合が頑張っているような世界を見ないで育って、生まれた時からインターネットがあって、あらゆる情報はネットから得られて、僕らよりももっとドライに物事を捉えている。給料が安ければ社長に対しても「もっと働かせてくれ」って平気で言えるような人もいるし、20代でもどんどん会社を移ってキャリアアップすることを考える人もいる。僕らが想像もつかないような世代の感覚に対応できる組合にしなければならない。
 そういう人たちに組合が必要だと思ってもらえるために、どうしたらいいかはわからないけれど、少なくとも便利だったり、使えたり、自分の給料を守れたりするところが組合だ、ということになっていかないとだめじゃないかと思うのです。
 本当は、労働組合は企業別じゃなくて職能別でなければだめだという思いはあります。アメリカでは、ディレクターや放送作家や俳優たちの横断的な組合がそれぞれあって、最低賃金を引き上げたり最低労働時間を決めたりしていますよね。そういうほうが結束できると思います。でも、日本ではそれがなかなか定着しなかった。それでも日本ではそれほど困らない状態で来られた。いい時代だったのではないかと思います。
 僕は、会社の人事労政畑の人たちとお茶やランチをいっしょにするような関係から始めればいいと思っています。そういう関係になれば、突き詰めた話ができるようになる。いきなりそうしろと言われても無理なこともわかっていますが、誰かが一歩を踏み出さなければ変われないと思います。
 JNN系列の労組でも、そういうふうに変わったところもあります。
「話してみたら、会社も思うところがあって」という話をしてくれた労組もありました。もちろん、労使で訴訟を抱えている組合などはちょっと無理だとは思いますが。

関連の労組をサポート

砂川 民放労連には放送局労組だけでなく、関連会社の労組もありますが、そういうところは同じようにできるでしょうか。
髙木 会社の規模が小さくても大きくても、基本的なスタンスは変わらないと思います。ただ、関連会社の場合、親会社の放送局が関連の社員の給料を決めているようなことがあれば、局の労組が出て行って話をすればいいと思います。
 TBSでは、構内の関連会社を整理統合してTBSスパークルとTBSグロウディアという2つの会社になりましたが、そこの労働組合の結成は僕も手伝いました。それで、そこの団体交渉に僕も出席したことがあります。会社側からは非常に嫌がられますが(笑)、もし何か関連会社が問題あるようなことをやれば、組合ニュースで「こんなひどいことがある」と書ける。いま企業がいちばん気にしているのは、社員や株主よりインターネット上の評判だと思います。
 中小のプロダクションの組合活動については、基本的には自主性にお任せすれば良いと思いますが、放送局の労組としてはそれをサポートするようなことはできると思いますし、TBS労組では実際にやっています。

髙木1

髙木盛正(たかぎ もりまさ)―1986年東京放送(現 TBSホールディングス)入社。1997年に東京放送労働組合中央書記長、2004年から同労組中央執行委員長に。2012年から2016年まで慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科研究員も務める。2020年7月から民放労連中央執行委員長。

キイ局は強くなければ

砂川 放送局は、国民の共有財産とされる電波を独占的に利用している企業ですが、そういう放送局の公共的性格については、どう考えますか?
髙木 会社の規模が大きくなると、それなりに公共性が出てくると思います。鉄道会社などは、勝手に路線廃止というわけにはいかないでしょう。放送の場合は、国民の電波を預かっていて、公共の福祉や利益に貢献しなければならないという意味で、一般の企業よりも公共性が強いと思っています。
 放送局の番組には大きく制作と報道という枠組みがあって制作がつくる娯楽番組はエンターテインメントとしてみんなに楽しんでもらう。一方で、報道は真実を伝えるという使命がある。そういう報道の根幹が崩れると、電波を預かっている資格がなくなると思います。
砂川 いま、キイ局・準キイ局などは持株会社でホールディングスとなって、かつてはTBSの傘下にマキシムドパリがいたりしましたが、関連会社の業種が広がっていることは問題ありませんか? そういう関連企業が問題を起こしたとき、ちゃんと報道できるのかと外部から言われるようなことはありませんか?
髙木 それは問題ないと思いますね。言われているほど、権力の直接介入はないと感じています。ただ、忖度しているんじゃないかと言われているということについては、僕はわかりません。でも、報道にはまだ気骨のある人はいますよ。問題があれば報道しなくちゃいけない、という感覚は、報道にはちゃんと残っていると思います。
砂川 放送というのは、そういう志の部分と、広告収入で儲けている部分とが永遠の課題としてあるわけですが、それがホールディングスになっているキイ局と、そうではないローカル局とでは違ってきていませんか。
髙木 それは会社の規模も、扱っているテリトリーなどもずいぶん違ってきていて、民放労連というところでそれを1つにまとめるのはたいへんだったし、なかなかまとめられるものでもないと思っています。

労使対等のための労使協調

砂川 テレビとラジオでも違いますよね。
髙木 TBS労組では、ラジオ支部として独立の考え方でやってもらっています。要求書は労組委員長の僕と支部長の連名で出しています。でも、ラジオは厳しいですよね。賃金交渉も難しいから、ストライキやビラまきなど、何とか闘争していくしかない状況ですね。僕自身もいっしょにビラまきに参加しています。
 でも、テレビ局も、いちばん旧態依然としている業種なのではないでしょうか。他業種との競争がなかったからパラダイムシフトが起きていない。いま、ゲームのオンライン配信では世界中で100万人規模のユーザーがいたりして、放送の利権が食われているのに、昔気質の社員は新しいものをなかなか理解できないのではないでしょうか。
 放送に関係している人は、若い人がやっているものには首を突っ込んでおいた方がいいと思います。僕はインスタグラムやユーチューブ、ポコチャやゲーム配信なども理解しようと努力だけはしています。若い人はレストランを調べるのに、「食べログ」などのサイトよりインスタで検索していますよ。
 放送はこれまで本当の意味で傾いたことがないので、経営者はまだ大丈夫だと思っているのかもしれません。僕は、キイ局は強くなければならないと思っています。キイ局が強くないと、ローカル局も共倒れになってしまうと危惧しています。
砂川 髙木さんは委員長就任あいさつで「労使協調」と言っていますが、それでいいんでしょうか?
髙木 労使対等のための労使協調です。組合は組合員の利益になるために動けばいいと僕は思っていますが、そのための手段として、会社と話ができるチャンネルを作っておかないとだめだ、という意味です。私の言い方が悪かったのかもしれませんが、決して会社におもねるという意味ではないです。会社とは仲良くもするけれど、きちんとケンカする関係でなければいけないと思う、ということです。
 TBSでは、組合は若い人の意見を吸い上げている、ということで、会社の役員なども組合ニュースに注目しています。かつて分社化したときなどは、組合と敵対的な関係になって、組合ニュースにも「社長辞めろ」などと書かれていました。その後、TBSホールディングスとTBSテレビの賃金体系の一本化を2016年に実現しましたが、そういう交渉を経て、組合は会社と何でも話ができるようになったんです。

定期大会

今年はオンラインで開かれた民放労連定期大会

民放連と政策協議を

砂川 それから、今後は政治的課題についても控える方針でしょうか。
髙木 思想信条はあって当然だし、政治的取り組みも行って良いと思います。ただ、今後は給与など労働環境が大変な時期になるので、組合は賃金などについて、もっとこまめにケアする仕事に重点を置くことになるのかなとも思います。
砂川 テレビ朝日労組が民放労連を脱退したことについては、どうですか?
髙木 同じキイ局労組として、仲良くしていました。彼らの気持ちもわかるので、すぐには戻ってくるわけにはいかないと思いますが、何かできないか、ということは考えています。
砂川 メディア総合研究所は民放労連が設立しましたが、こういうシンクタンクのようなものの必要性はどう考えますか? 民放連でも、外部委員による研究などをやっていますが。
髙木 それは必要だと思います。これから民放がどう生き残っていくのか、組合員から意見を吸い上げて、どういう展望が見えるのか、もしくは現実的に今後の収支の見通しはどうなのか、そういうことを具体的にシミュレーションした資料などを出してもらえると、すごく役に立つでしょう。キイ局とローカル局、プロダクションは同じような要求を出して同じように闘争するというのは難しくなるかもしれないので、詳しく分析した資料などあれば、対策も考えられて賃上げにつながるかもしれないです。
砂川 民放連と政策協議をしたい、ということもおっしゃっていますね。
髙木 ほかの業種では当たり前のようにやっていることを、放送業界はやっていません。民放連と民放労連が半年や1年に1回くらい、懇談会をやればいいと思っています。そこは、やはり信頼関係がないと難しいと思います。
砂川 政治的な問題を取り上げると若い人がついてこない、というお話がありましたが、いま菅政権になりました。菅さんは第1次安倍内閣で総務大臣を務め、1年間で8件も放送局に対して行政指導を出しました。その中にはTBSの番組も含まれていました。2年前には、官邸からの文書ということで、インターネットに統合して「放送は不要に」と書かれた資料も明らかになりました。こういうことも政治的な課題になりますか?
髙木 こういったものには物申すべきだと思います。これは組合員の利益に直接関与する話です。労働環境、労働条件に遠からず関わってくる話、放送業界の存亡に関わる話は組合として物申すべきです。
砂川 ほかのメディアの労組との関係はどうでしょうか。新聞労連や、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)、NHKの日放労などとの連携については、どうお考えですか?
髙木 それは皆さんと付き合えばいいと思います。必要なところと連携していくということでいいんじゃないでしょうか。
砂川 わかりました。ありがとうございました。

砂川1

砂川浩慶メディア総研所長(立教大学教授)

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