「空白の30年」を問う 〜有田芳生さんに聞く統一教会とメディア〜

放送レポート299号(2022年11月号)
放送レポート編集部

報じない新聞・テレビ

――「空白の30年」を考えるにあたって、30年前の統一教会報道からお話いただきたいんですが。
有田 僕は『朝日ジャーナル』で統一教会批判キャンペーンのチーム―藤森研さんと僕の二人だけだったんですけど――で、1986年12月から10回やりました。当初は、編集委員だった伊藤正孝さんと藤森さんのチームだったのが、伊藤さんが編集長になったので、その代わりに僕が入りました。
『朝日ジャーナル』が91年に廃刊になってからは『週刊文春』で仕事をするようになりましたが、その最初は、統一教会信者が国会議員の公設秘書・私設秘書に入っている問題でした。当時のデスクが後に文藝春秋社の社長になる松井清人さんで、定期的に企画を出してくれと言われて、送ったFAXの追伸のところに、元体操選手の山崎浩子さんが統一教会の合同結婚式に出るらしいということを書いた。するとすぐ松井さんが電話してきて、その追伸をやろうということで、チーム2人くらいつけてくれて、92年6月に3ページの記事が出た。それが見本刷りになった段階からテレビ局が動き始めて、週刊誌が出る日に合わせて、テレビのワイドショーやスポーツ新聞が報道し始めました。そして、歌手の桜田淳子さんも出席すると表明して、ますます芸能ネタとしてワイドショーを中心に盛り上がったんです。『週刊文春』はそのキャンペーンの中で、単なる芸能ネタじゃなく、統一教会は霊感商法のように反社会的なこともしていることを報じて、ワイドショーなども元信者らを登場させて霊感商法の実態を報じました。それがしばらく続きますが、一般の新聞やテレビのニュースは全くというくらい報じなかったんです。
 
 94年に山崎さんが脱会し、ワイドショーも統一教会問題を報道しなくなって、そして95年1月に阪神大震災があり、3月20日の地下鉄サリン
事件があって、そうするともう一挙にオウム真理教報道一色になった。
それ以降は『週刊文春』に統一教会の企画を出しても通らなくなりました。オウムの衝撃が大きいものですから。ましてや一般のテレビニュース、一般の新聞などは、統一教会なんて全く報道しませんでしたから、92年の合同結婚式報道等から30年と言いますが、テレビニュースや一般紙は「空白の30年」よりもっと長いんですね。実態は、全く報じられないノーマークのもとで、統一教会は引き続き政治と接点を持っていったし、一般社会、地方議会、草の根の家庭教育運動、純潔キャンペーンなどがずっと浸透していったのです。
―― 一般紙の報道がなかったのはなぜでしょうか?
有田 芸能ネタから続いたという印象が強かったんじゃないでしょうか。朝日が霊感商法を最初に報じたのは1985年で、その時は朝日新聞社に無言電話が集中したのですが、他のテレビや新聞が報じることはなかった。87年に『朝日ジャーナル』がキャンペーンをしたときも、朝日新聞は「霊感商法の背後に統一教会の存在が推認される」というような報道をしましたが、他の新聞が扱った記憶はありません。
 統一教会問題を報じてきたのは朝日だけで、最初に、子供が家出するなど原理運動の問題を報じたのが1967年7月7日の夕刊でした。僕が80年代から統一教会を取材して、江川紹子さんが坂本弁護士一家が亡くなる前からオウムを報道していたときも、何か気持ち悪い宗教を取材している二人、という印象でした。
 
 92年の合同結婚式騒動のときにはフリーのジャーナリストなどが取材しましたが、それも山崎浩子さん脱会を頂点にして誰も取材しなくなった。オウム真理教もあれだけの事件だから、いろんな人が取材しましたが、持続的に追っている人は、ほぼいなくなりました。その時はワーッと群がって季節の風物みたいな騒ぎになるけど、結局何も深めていかない。 
 ただ、この10年近く、発表のあてもなく、鈴木エイトくんが独自に取材をしていた蓄積があったからメディアがもっているところがあります。でも、それは個人的な努力の賜物であって、新聞社・週刊誌・テレビ局などは組織として何もやってこなかったですね。
 逆に言うと、一般紙も含めて今バンバン出ているのは、統一教会68年の歴史で初めてのことです。今回、安倍元首相銃撃事件をきっかけにテレビも新聞も動き始めましたが、蓄積は何もない。合同結婚式のときには生まれていない、という記者がほとんどですから。そこから各新聞・テレビの記者たちが一斉に努力を始めたのだから、しょうがないんです。
 朝日も、ほかのメディアも、かつてのことを知っている人がまだ残っているから、成り立っている。例えば日本テレビでは『ザ・ワイド』という番組がありましたが、92年の合同結婚式やオウムの問題を放送の現場で追っていたディレクターたちが後継番組の『ミヤネ屋』のプロデューサーになっていたりする。その人たちがいると少々の抗議文が来たって、へこたれない。

議員秘書を送り込む

―― 抗議・妨害の電話もかつては相当あったそうですね。
有田 『朝日ジャーナル』が85年にキャンペーンをしたとき、1日に数万本の無言電話が朝日新聞に来ました。一定の時間に集中して何万本も電話が来るので、朝日や築地のがんセンターなどの電話は全部パンクしたんです。当時の朝日が、そんなことを続けるなら記事にするぞ、と統一教会に言ったら、ピタッと終わりました。
 
 87年に伊藤編集長と藤森研さんが行ったキャンペーンのときは、朝日新聞じゃなくて伊藤さんと藤森さんの自宅に、夜中の一定の時間に、何百本も無言電話が来ました。藤森さんの小さな娘さんの名前を言う電話がかかってきたり、家の周りに不審な人物がいたり。92年のときも、日本テレビに3万本くらい嫌がらせ電話が来ました。でも、今回は何もないんです。それだけの力がなくなったのか、余計に刺激をすると見ているのか。今回、抗議文は来ます。僕に対しても質問状が来ましたけど、嫌がらせ電話とか、あからさまな尾行とか、脅迫の手紙というのはないですね。
 韓国では、8月30日にMBCが『PD手帳』という番組で統一教会を取り上げたら、翌31日に1000人以上の信者がMBCの前で抗議行動をして、偏向報道や宗教弾圧をやめろ、とやっていましたが、そういう動きは日本ではないですね。統一教会は90年代から、日本人の幹部の上に韓国人の幹部がいて、そこが指示を出して日本の統一教会を動かしています。そこの指示がないから、日本の統一教会は、今、過激な行動に打って出てないと思うんです。日本の統一教会が独自に何か指示を信者に出すシステムにはなっていない。
 韓国のMBCが『PD手帳』で「統一協会」批判の番組を放送したらすぐ抗議が来た話をしましたが、MBCがすごいのは、その抗議が終わった途端に予告もなく、その番組を再放送したのです。何千人抗議が来ても、ひるまないのです。7月18日にテレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』で、僕は統一教会の捜査を阻んだのは「政治の力」だと発言しましたが、すると他のテレビ番組に出たとき、「政治の力は話さないでください」と言われたこともありました。逆に、テレビ西日本に呼ばれて生番組に出演したら「政治の力について説明してください」と言われました。
―― 空白の30年と「政治の力」はどういう関係にあるでしょうか。
有田 統一教会について警察が全国の公安幹部を集めて「オウムの次は統一教会を摘発する」と説明したというのを聞いたのは95年の秋でした。その後10年、大きな動きがなかったので2005年に警視庁の幹部に聞いたら「いや政治の力で」…と、それ以上の説明はなかったのですが、警察はかなりの捜査の準備はやっていて、現場の捜査員は何か事があれば動く組織だと思うんです。09年の「新世事件」では印鑑販売会社が霊感商法で摘発され、会社や社長に高額の罰金刑と執行猶予付きでしたが懲役刑が出ました。民主党政権のときまでは摘発は行われていたのですが、それが最後でした。2010年以降も霊感商法などは行われていたので、なぜ摘発されないのか疑問です。
 統一教会の07年の内部文書に、ひと月に15億ぐらいのお金が韓国に送られていて、日本でも日韓トンネルなどのために使われている、というのがあります。その中に毎月1億円の対策費が予算計上されていて、内部の人に聞いたら、霊感商法の裁判対策に加えて、警察に強い国会議員への対策も入っているというのです。それは領収書をもらうようなお金じゃないので、その動きは見えないままです。警察官僚出身の国会議員が動いた可能性は否定できないけど、証拠がない。政治の力はずっと噂になってきましたが、少なくとも事実として、2010年以降、警察による統一教会の摘発は止まっています。
 国会議員との繋がりということで僕が確認したのは、1986年の中曽根内閣のときから国会議員への接触が強化され、全国から91人の女性信者を集めて「秘書養成講座」をやって、86年7月の衆参ダブル選挙で自民党が300議席で大勝しましたが、そこに秘書が送り込まれていくんです。その構造は今も続いていますが、見えないんです、かつては内部の名簿に基づいて個人の特定ができたのですが、今は名簿を出さなくなった。この間、ある大臣経験者に聞いたら「今でもいっぱいいるよ」と言っていました。
 全国各地で家庭教育支援条例や青少年健全育成条例を草の根運動として広げようとする延長で、自民党が出そうとした家庭教育支援法のようなものに統一教会が力を注いでいるのはこれまでも明らかになっていて、そういう動きは今も続けていると思います。
 大きな統一教会摘発の動きが止まった原因として、オウム真理教のような大きな事件がなかったから、という人もいます。時効になってしまった朝日新聞阪神支局襲撃事件も、赤報隊は統一教会の信者がやった、ということがわかれば、そこから一気に捜査が入っただろうと思います。警視庁は新右翼とともに実際に捜査していたのですが、時効になりました。

信教の自由の問題ではない

――統一教会関連の支援を受ける「勝共議員」という議員がいますね。
有田 勝共推進議員が国際勝共連合の『思想新聞』で報道されるようになったのは86年です。ダブル選挙で勝共推進議員が130人当選したと出ていて、それが後に150人に増えた。90年3月25日の『思想新聞』で105人の名簿が発表されましたが、それが最初で最後です。今回の安倍元首相銃撃をきっかけに、自民党がアンケート調査をして139人という数字は出てきましたが、第二次安倍政権になって統一教会との関係が深まったというのは間違いで、80年代からそういう繋がりがずっと続いていたのが事実です。
 そういう繋がりが、この間ほとんど全く報道がない。92年の合同結婚式問題のときも、政治との関わりなんて全く報じられていない。政治家の秘書のなかに信者がいる、と僕が『週刊文春』で書いたのは91年で、それが最初で最後じゃないでしょうか。
 取材はやはりたいへんです。韓国で内部の機関紙を手に入れて、合同結婚式の名簿と秘書の名前を照合して、戸籍を入手して、本人に当たって確定するという取材プロセスですが、今はそういうのがやりにくい。だから逆にすごく雑になっていて、テレビのワイドショーなどで、山際大臣の事務所には統一教会関係者が出入りしているという話がある、というような噂話で報道されてしまっています。
 時間と労力のかかる取材はちょっと敬遠してしまうし、宗教団体、とくに統一教会は気持ちが悪いから触らない方がいい、という見方をする人も多かった。それと、信教の自由をすぐ議論の入り口に持ってくるから、報道もやりにくいと思います。バブル時代のフリーライターは、もっと他のことで稼いでいましたよ(笑)。
 自民党議員と統一教会の接点を発掘するジャーナリズムは重要ですが、いつまでも続かないでしょう。オウムの事件でも、あれだけのことが起きて、団体は解散・破産して、事件から30年近くなりますが、日本社会として何も残っていない。これから臨時国会で宗教法人を解散させるかどうか質疑があるでしょうが、文化庁はそれに乗ってこないでしょう。岸田政権も、創価学会との関係もあるからやらない。消費者契約法の改正も野党は出すでしょうが、それでどこまで実効性があるのか。
 仮に宗教法人の解散命令が出たとしても、日本の幹部の上に韓国の幹部がいて、そこから指示が来て献金要求があるわけです。その構造を壊すための手立ては今、何もありません。今、形式的には「関係を絶ちます」と議員たちは言っていますが、また報道の空白が起きたら、人間関係ですから、すぐ復活しますよ。だからそうさせないための手立てを一つでも二つでも作らなきゃいけない。
 気になっているのは信仰二世の問題で、親が信者でそのもとで生まれた子供あるいは親が結婚した後に信仰を持った子供たちの問題はすごく大きくて、そこに救いの手を伸べるような仕組みを作るべきだと僕は思っていますが、国会議員たちは今のところあまり考えていない。あるテレビ局の人が言うには、やはり信教の自由の議論が出てくるからなかなか難しい、と。安倍元首相銃撃の動機に関わる問題なのに。

ノーマークにしないこと

―― 「カルト規制法」の議論も出ていますが。
有田 無理だと思います。2001年のフランスの「反セクト法」は指標を決めてブラックリストを上げていますが、未だに解散命令はゼロです。そのブラックリストも、フランスの首相が否定しました。日本にそういうものを持ってきて、実効性のあるものができるでしょうか。今は指定解除されたけど、ついこの間まではフランスでは創価学会がカルト認定でした。そんなことで日本の与党が議論を進めるはずがありません。
 霊感商法は現行法で対処できますが、問題は過度の献金をどう止めるか、です。それは消費者契約法の改正で、出しすぎた献金は取り戻すことができるような規定にすればいいと思います。それはおそらくやると思いますが、カルト全般については難しいと思います。
 でも明らかに人生や家庭を破壊された人が大勢いるわけで、一人で10億円ぐらい出している人もいるようです。そういう高額の献金を信仰に基づいて出したということは、信教の自由のレベルになってしまう。統一教会は特殊な宗教で、教義に基づいてお金を出すので、そこをどう規制していくのか、相当難しいんじゃないでしょうか。
―― メディアの課題についてはどうお考えでしょうか。
有田 空白を作らないために、ノーマークにしないことです。ただ、結局フリーランスの仕事になってしまう。今はまだ序盤戦の最初が終わりつつあるぐらいだと思っています。これからまだ自民党との関係も報道があるでしょうし、何よりも銃撃事件の裁判が来年以降で、動機は何かとか、統一教会と政治家の関係が法廷の場で明らかにされていくので、92年当時とは相当違うとは思っています。この件で何を残すか。まだ時間はあると思っています。

有田芳生ありたよしふ
1952年京都府生まれ。フリージャーナリストとして霊感商法、統一教会、オウム真理教による地下鉄サリン事件、北朝鮮拉致問題に取り組む。1995年〜2007年日本テレビ系『ザ・ワイド』にコメンテータとして出演。2010年~2022年、参議院議員を務める。
著書に『統一教会とは何か』『ヘイトスピーチとたたかう!』他多数。

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