ラジオの現場から

オールドメディアの連携で新たな価値を

放送レポート300号(2023年1月)
石井 彰 放送作家

 朝日新聞第2ラジオ・テレビ番組頁の連載コラム「ラジオアングル」が、10月いっぱいでひっそり幕を下ろしました。同コラムの終了は、放送だけでなく動画配信などにも紙面をさきたい、という理由のようです。
 同欄は1990年代から(前コーナー名は「ラジオ交差点」)30年以上続いてきた長寿コラムです。主に山家誠一、森綾、仲宇佐ゆり、3人のラジオ好きなフリーライターが、各地のラジオ番組を取材して、番組や担当パーソナリティーの魅力を紙面で伝えてきました。
 全国102のラジオ局、340のコミュニティFMそれぞれで100近くある番組の中から、1つの番組やパーソナリティーを見つけるのは並大抵ではありません。熱心な彼らの取材と筆により、たんに番組の広報にとどまらず、ラジオの現在と未来を浮き彫りにして読み応えがあり、読者にとっても大事なコラムでした。さりげなく書かれた筆者たちの番組への感想にうなずいたり、それは違うのではと感じたり、貴重なラジオ批評にもなっていました。
 放送局の限られた番組宣伝だけでは決して届かない、多くの人たちが同欄を読んでいました。同欄で私が携わった番組を知って聴いたという、大きな思わぬ反響にいつも驚かされてきました。個人的な感謝の気持ちだけでなく、ラジオそのものの魅力の伝播に貢献した、素晴らしいコラムだったのです。
 ラジオも新聞も(そしていまやテレビも)オールドメディアです。ネット社会の到来によって、これまでの勢いを急激に失い、どんどん影響力を失っているのはまぎれもない現実です。でもどちらも終わったコンテンツでは決してありません。
 ラジオと新聞には思わぬ親和性があります。ラジオを聴きながら新聞を読む、新聞を読みながらラジオを聴くことも可能だからです。また新聞記事そのものを取り上げるコーナーがラジオ番組には数多くあります。そして新聞記者が出演して詳しくニュースを解説する番組も少なくありません。これをさらに進めてオールドメディア同士でもっと連携して、新たな価値を生み出すこともできるのではないでしょうか?
 人員削減によりラジオ局からは広報担当者が減らされ、新聞社からはラジオ担当が消えつつあります。これでは悪循環です。むしろもっと新聞は、仲間のラジオに紙面を割くことが必要ではないでしょうか?
 同欄がなくなり、私が知る限りですが、全国紙でラジオ番組をピックアップして紹介するコラムは、読売新聞火曜日連載「ラジオON!」と、月1回ですが赤旗のやきそばかおる「ラジオの歩き方」だけになってしまいました。寂しいですね。
 アメリカでは、日本以上に地方ラジオ局や地方新聞社の淘汰・寡占化が進んでいます。その結果、ラジオや地方新聞がない地域で顕著に起きたのは、「トランプ現象」でした。ラジオや新聞が民主主義の担い手であったことを、皮肉なことに実証したのがトランプ=民主主義の危機でした。
 メディアの主流ではなくなった今だからこそ、むしろはっきり少数派の立場に立ち、主流メディアでは紹介されない社会の片隅の出来事や当事者たちの声をすくい上げていく、新たな役割があるはずです。
 最後にお知らせを。放送コンクールで受賞した民放ラジオの優れた番組を再放送するNHK・FMの番組『ザ・ベストラジオ』が12月26日、27日の午後4時から6時まで放送されます。
「ラジオアングル」があれば、ぜひ取り上げてほしかったのに残念でなりません。

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