10年後「自家用車激減」の衝撃――オワコンになる意外な業界とは?

自動運転技術の発達とシェアリング・エコノミーの普及によって、自動車業界は100年に1度という変革期を迎えている。2021年中にもエリアを限定した自動運転システムが実用化される可能性が高まっており、所有から利用へというクルマのパラダイムシフトが一気に進む可能性が高い。

 こうしたパラダイムシフトの影響を真っ先に受けるのは、個人所有の自家用車といわれており、10年後には自家用車を所有する人が大幅に減少するとの予測もある。自動車を巡る私たちの生活環境は一変するだろう。

●自家用車、最大25%減少も

 PwCコンサルティング(東京・千代田)によると、今後、カーシェアやライドシェアなど、いわゆるシェアード・カーの比率(走行距離ベース)が全世界的に急上昇し、30年には米国で14%に、欧州では17%に、中国では24%に達する見通しである。しかも、こうしたシェアードカーの半分以上が自動運転システムになると予想している。

 シェアード・カーを積極的に利用する人は、当然のことながら自家用車を手放す可能性が高く、自家用車の保有割合が減ることになる。同社では、手動運転による自家用車の比率(走行距離ベース)は、米国では17%、欧州では24%、中国では29%下がると予想している。

 同社の予想に日本市場は含まれておらず、日本の場合、自動運転システムやライドシェアに消極的なので、各国と同じレベルで推移するのかはまだ分からない。ただ、国内の法規制がどうあれ、グローバルなトレンドは同じなので、基本的には米欧中に近い状況になると考えた方がよいだろう。

 つまり今後10年の間に、従来型自家用車の比率が15~25%減るという話だが、これはとてつもない数字といってよい。

現在、日本国内には約6200万台の自家用車が登録されているが、最大で25%、自家用車が減るということは、1500万台の自動車が世の中から消滅することを意味している。


一連の変化は経済や社会に対して大きなインパクトを与えることになる。

 意外に思うかもしれないが、自家用車の減少で大きな影響を受けると考えられているのが不動産と金融である。

●「物件に駐車場不要」の時代に

 近年、クルマを手放す人が増えていることから、郊外における一戸建住宅の販売が不振となっており、駅に近い利便性の高いマンションに人気が集中している。現状ですら、これだけの影響があることを考えると、カーシェアと自動運転が本格化した時の影響は極めて大きい。

 これからのマンション開発は、カーシェアの利用を大前提にする必要が出てくるほか、運送事業者のトラックも自動運転になることを想定しておく必要がある。駐車場の有無や台数は重要なファクターでは無くなり、自動運転車両の取り回しが容易なエントランスを備えていることが資産価値のカギを握るだろう。

 一戸建ての住宅についても、クルマを保有しない世帯が増えてくるので、駐車スペースをどう位置付けるのかデベロッパーは悩むことになる。
経済の貧困化が進む日本の現状を考えると、駐車場が要らなくなる分だけ、さらに敷地面積を減らし、安価な住宅にするという流れが加速するかもしれない。

●損保業界に大打撃

 金融業界では損害保険業界が大打撃となる可能性が高い。自動運転の場合、最終的に誰が事故の責任を負うのかについては100%法的に固まっているわけではないが、仮に自動運転車の所有者が責任を負う場合でも、事故の発生確率は今と比較して大幅に下がるはずなので、保険料は引き下げざるを得ない。

 損害保険業界は、個人が加入する自動車保険で成り立っている。
19年、損保大手の損保ジャパン日本興亜が、
20年度までに国内損保事業の従業員数を4000人減らす方針を示した。
介護サービスを手掛ける関連会社への転籍もあり得るという厳しい内容だったことから業界には激震が走ったが、この事例は損保会社が置かれている現状がいかに厳しいのかを物語っている。

 自動運転については懐疑的、批判的な声も多く、日本における自動運転の技術開発はかなり遅れている。だが諸外国では驚異的なペースで開発が進んでおり、レベル4(一定地域内での完全自動運転)で、時速50キロ未満の低速度車両であれば、2021年には本格的な自動運転サービスがスタートする見込みである。あっという間に新しい時代はやってくると思った方がよい。

●実は地域経済にも打撃

 場所にもよるが地域経済への影響も大きい。自動車メーカー各社は、地域ごとに販売代理店を組織し、個人客に対して営業活動を行っているが、各地に展開している販売店は地域経済の要となっている。

 自家用車が減っても、その分だけカーシェアの台数は増えるので、自動車メーカーにとってはカーシェアへの販売を強化するという策が残っているが、主に一般顧客を相手にしているディーラーにとって、2割以上も市場が縮小するというのは大打撃である。もし本当にこれだけのペースで自家用車が減った場合、経営体力の弱い販売店は、経営を維持できないかもしれない。

 トヨタは、すでに国内販売店網の本格的な再編に乗り出しており、販売店をカーシェアの拠点にしたり、場合によっては介護サービスの拠点にするといった大胆なプランも検討中と言われる。

 自動車に対する価値観の転換は想像以上のスピードで進んでおり、10年後の自動車は今とはまったく違った姿になっている可能性が高い。何らかの形でクルマに関わっているビジネスパーソンは、従来の常識は全て捨てるくらいの感覚を持たなければ、時代に取り残されてしまうだろう。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)