低倍率入試の陰でひたひた 国立大「序列化」の波。2018年1月8日 10時00分(最終更新 1月8日 10時00分)


今春の国立大入試は、7年連続の志願者減となることが確実だ。現時点では、どの予備校の模試の結果を見ても、志望者数は前年を下回っている。今春のセンター試験の出願者も減少している。駿台教育研究所進学情報事業部長の石原賢一さんは言う。

 「大きな入試変更点がなく、理系学部を中心に極端に志望者が増えている大学もありません。来春の国立大入試は落ち着いた入試になるでしょう」

志望者が増えない要因は大きく分けて二つ。一つは、国立難関大を中心に後期日程の廃止・縮小が進んでいること。推薦入試の導入に伴い、2016年に東大が後期を廃止し、今春は大阪大がAOや推薦で選抜する世界適塾入試の導入により後期をなくした。来春は一橋大が推薦入試に定員を回すために後期を縮小し、実施するのは経済のみになる。

志望者が減少しているもう一つの要因は、センター試験の科目負担増。現行の教育課程になり、文系は基礎理科が2科目必要になり、理系は学ぶ範囲が旧課程より広い専門理科になったことにより、理科の負担感が増しているのだ。

もっとも、国立大入試は志願者減少の要因を除いても“安定した入試”だ。センター試験の成績で志願者が割り振られるため、一部の学部や学科を除くと、それほど倍率は高くない。「倍率が1倍台の有名国立大(前期)」の表には、東北大・経済や新潟大・理、岡山大・理、長崎大・環境科などが並ぶ。下の「倍率が高い国立大(学科)」を見ると、東京芸術大や島根大・人間科(人間科)や富山大・理(生物)など、後期を中心に高倍率の学科もあるが、センター試験の科目数が少ないなどの要因によるものであり、国立大全体をならしてみれば倍率は高くない。そうした状況を考えれば、志願者が減少するのは、5教科7科目を頑張った受験生にとって歓迎材料といえよう。

国立大の魅力は、大学自体の安定感にある。大学の予算は授業料と国からの運営費交付金でほぼ賄われている。そのため、私立大のように入学者の多寡に左右されず運営ができ、大学のレベルを一定に保つことができる。

 しかし、そうした国立大の優位性が揺らいでいる。04年の国立大学法人化以降、運営費交付金が年に1%程度ずつ減らされているためだ。17年は国立大学法人機能強化促進費が上乗せされ、運営費交付金の減少は止まったが、ほぼ毎年の減少により最低の水準にあることに変わりはなく、財政の厳しさが解消されたわけではない。代々木ゼミナール教育総合研究所主幹研究員の坂口幸世さんは、こう話す。

「運営費交付金の減額が続くと、専任が減って非常勤の教員が増えたり、実験設備や書籍購入などの資金が抑えられるかもしれません。教員数や施設面など教育研究環境面で私立大より充実している国立大ですが、そうした私立大に対するアドバンテージが小さくなる可能性があります。研究志向や大学院進学を視野に入れている受験生に影響が出るかもしれません」

国立大を取り巻く予算措置の変化はまだある。文部科学省は16年度から、大学を3類型に分けて、運営費交付金の重点支援を始めた。各大学が運営費交付金のうち基幹経費の1%程度を拠出してできた約100億円を、選択した「重点支援」の枠組みに即したビジョンや戦略などの評価を反映して再分配するものだ。重点支援の類型と選択した大学は次の通りだ。

 ●重点支援(1) 主として地域に貢献する取り組みとともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界・全国的な教育研究をする取り組みを中核とする国立大学を支援する。北海道教育大や岩手大、埼玉大、横浜国立大、新潟大、鳥取大、高知大、熊本大など、3類型の中で最多の55大学が選択した。

●重点支援(2) 主として専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色ある分野で地域というより、世界・全国的な教育研究を推進する取り組みを中核とする大学を支援する。東京外国語大や電気通信大、九州工業大など、工科系大学や女子大を中心に15大学が選択した。

 ●重点支援(3) 主として卓越した成果を創出している海外大学と伍(ご)して、全学的に卓越した教育研究、社会実装を推進する取り組みを中核とする大学を支援する。東大や京大など旧七帝大と東京工業大や広島大など日本のトップクラスの16大学が選択した。

重点支援(1)で17年度の「反映率」が最も高かったのは、福島大と浜松医科大で113%。拠出金が13%上乗せされて戻ってきたことになる。逆に拠出金が減った大学を見ると、旭川医科大、富山大、京都教育大などが90%未満。最も低かったのは富山大の80.5%で、拠出金の20%分が運営費交付金から減額されたことになる。こうした状況をどう見たらいいのか、代ゼミの坂口さんに聞いてみた。

 「地域貢献は大半の大学が進めており、取り組みを始めるのが早いか遅いかの差が反映率に表れているのかもしれません。現時点の反映率の低さが、大学の力を表しているとは限りません」

重点支援(2)の反映率は東京医科歯科大が110%と最も高く、90%未満の大学には、奈良女子大(81.3%)と鹿屋体育大(78.3%)がある。重点支援(3)で110%を超える大学はなく、最高は京大の108・5%。90%未満の大学には、広島大(88.1%)、千葉大(87.8%)、一橋大(87.6%)がある。

 「重点支援(3)を選んだ大学は、科研費など外部資金が潤沢な大学が多いので、反映率が低いことによるダメージはないでしょう」(駿台教育研究所の石原さん)

 重点支援(1)や(2)の大学にとっても、拠出金は基幹経費の1%なので、大学運営への支障が少ない可能性があるが、石原さんはこう指摘する。

「単年度の評価が低くても挽回の余地はあり、それだけで評価をするのは早計ですが、低評価を繰り返すようなら、これから予想される、国立大の統廃合の対象になるかもしれません」

 重点支援の結果が、今すぐ国立大の評価に結びつくものではないが、先々は国立大学の序列を決定づける要因になる可能性があるということだ。

トップ大学の中でも二極化が進むのか!?


大学の序列化という点では、重点支援(3)を選択したトップ大学でも進みそうだ。文科省は17年6月に「指定国立大学法人」を指定した。指定大学は、国内の競争環境の枠組みから出て、国際的な競争環境下で世界の有力大学と伍していくことが求められ、「研究力」「社会との連携」「国際協働」の領域で国内最高水準にあると、文科省が認めた大学だ。

 申請した大学は東北大、東大、東京工業大、一橋大、名古屋大、京大、大阪大の7校。そのうち、東北大、東大、京大の3校が指定された。予備校関係者は言う。

「旧七帝大のうち、北海道大と九州大は申請せず、大阪大と名古屋大は見送りとなりました。旧七帝大の中で、東大、京大、東北大と他大学の二極化を印象づけました。東大と京大は別格として、東北大の評価が高いことを受験生は敏感に感じているようで、志望者が増えています」

 ちなみに、指定から漏れた4校は、指定候補として再審査の結果待ちとなっている。

国立大は機能の明確化が求められ、その結果として序列化が進む可能性がある。今はその過渡期ではあるが、3類型の重点支援により大学が進む方向が見えてきた。地域に残るのか、日本全国を視野に入れるのか、世界を意識するのか……。志望校がどの方向に進もうとしているのかを知っておいたほうがいいだろう。国立大学入試が落ち着いている今だからこそ、在学中に大学が大きく変わることも視野に入れて大学を選びたい。【大学通信・井沢 秀】