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ソラを見上げて #38 青天の霹靂

何にも手につかない。思いつかない時ってあるよね。けれど、迷いや躊躇があるのは成長している証拠だよ。<進む>という事は、一歩踏み出すだけじゃない。今はただ、立ち止まって見つめ直すのも<進む>という事だ。

―hio株式会社・会議室―

社員:ではこの案で先方に提案してみます。

桃:よろしくね。

(会議資料を映していたプロジェクターの電源を切る社員)


桃:彼の様子はどう?

社員:優秀ですよ。手先も器用ですし、教えた事を飲み込んで自分のモノにするスピードが速いです。

桃:あら、すごい。

社員:中でも素晴らしいのは観察眼です。ウチの商品を見ただけでコンセプトやターゲット層を言い当てました。

桃:おぉ~

社員:しかし、研修を始めて一週間。実習や見学の時間以外は、ずっと自分の作品を眺めています。肝心の制作の方は動き出せていないようです。

桃:ぶつかった壁をどう壊そうか考え中……かな?

社員:こんな事を言っては元も子もないんですが、私なら絶対に断ります。専門学校に入ったばかりで、乃木坂46から仕事の依頼なんて怖くて受けられません。

桃:普通はそうだよね。ん~

(椅子に座ったまま大きく伸びをする桃子)


社員:社長。何かアドバイスしてあげた方がいいんじゃないですか?

桃:それは駄目。

社員:え? どうしてですか?

桃:今、彼がぶつかっている壁は知識や技術で何とかなるモノじゃないの。私達がアドバイスしたところで、自分で考えて生み出した答えじゃないと前に進めない。

社員:とはいえ専門学校1年生ですよ? なにかきっかけでもないと……

桃:梅が彼に依頼した仕事だもん。まずはしっかりと自分の作品に向き合う時間が必要だよ。

社員:……どうして梅澤さんは彼に任せたんでしょうか?

桃:さぁ? 乃木坂には衣装担当のスタッフが大勢いるのに、梅はラストステージの衣装を彼に託した。この件は普通じゃない状況が色々と重なってる。私達はあくまで彼が製作する環境をサポートするだけでいいの。

社員:このまま何もせずに終わるって事もあり得ますよ?

桃:あるねぇ。

社員:なにを呑気に言ってるんですか。

桃:さてさて、どうなることやら。



―hio株式会社・リフレッシュルーム―

〇:はぁ……

(コンビニのサンドウィッチをかじり、うなだれる○○)


桃:下向いて食べるとむせちゃうよ?

〇:え? あ、社長。


桃:いい加減、その社長って呼び方やめてよ。

〇:無茶言わないで下さいよ。研修生ですよ、俺。

桃:どう? 壁は壊せそう?

〇:……

桃:なるほどぉ。

〇:まだ何も言ってませんよ。

(テレビに乃木坂46のCMが流れ始める)


【今年もやってきました日本の夏、乃木坂の夏! 乃木坂46 真夏の全国ツアー2025。配信チケット好評発売中! 今年の夏も一緒に盛り上がりましょう!】


桃:噂をすれば、なんとやら。

〇:会った時とは別人だな。

桃:当り前でしょ。

〇:え?

桃:アイドルはね、ファンの皆が楽しんでもらえるように全力なの。それこそライブなら全力で笑顔、全力で踊って、全力で走って息切れなんて見せずに歌うの。


〇:結構重労働っすね。

桃:そうだよ。前日まで何回もリハーサルやって大変なんだから。

〇:そういえば社長も乃木坂でしたね。

桃:もう四年前の話だよ。懐かしいなぁ。

〇:正直アイドルって、歌って踊って笑ってるだけってイメージでした。

桃:アイドルは一人じゃ出来ないからね。

〇:……どういう事すか?

桃:応援してくれるファンに喜んでほしい。楽しんでほしいって思わないと本気になれないもん。それに……心が折れそうになった時、そばにいてくれる先輩や同期がいてくれたから頑張れた。

〇:一人じゃ出来ない……か。

桃:うん。

〇:そうか、そういう事か。

桃:ん?

〇:どうして気づかなかった? どうして一人で作ろうと思ってたんだ。俺は。

桃:どうしたの?

〇:でもどうやって……電話すれば取り合ってもらえるか? いや、それじゃ駄目か。

(桃子が声をかけても独り言を続ける〇〇)


♪~♬…📱

〇:はい

マ:〇〇! 今日の夜空いてるか?

〇:マスター? 一体どうしたんですか?

マ:生田さんが生放送番組でウチの店に来るって電話があったんだ。


〇:あぁ、生田さんですか。良かったじゃないですか。

桃:ん? 生田さん?

マ:そうじゃない。あ、いや嬉しいんだけどそういう話じゃないんだ。

〇:どうしたんですかそんなに慌てて。

マ:ご指名だ!

〇:誰を?

マ:〇〇を! シフトじゃないって言ったんだが、どうしてもお前に会いたいそうだ。


〇:なんでですか?

マ:わからん! ていうか大事なのはそこじゃない! 来れるか?

〇:無理ですよ! 僕、いま東京ですよ?

マ:あぁぁ! そうだったぁ! なんでこんな時に……

桃:どうしたの?

〇:バイト先のマスターから『今日の夜、バイトに入れないか?』って……

桃:生田さんって言ってたけど……あの生田さん?

〇:えぇ。その生田さんがお店に来るらしくて。

桃:あらあら、大変ね。

〇:マスター。すみませんけどいきなり今日ってのは……

マ:だよなぁ。

〇:……

マ:急に電話かけてすまなかった! 研修頑張れよ!

〇:……マスター。

マ:ん? どうした?

〇:生田さんって元乃木坂ですよね?

マ:あぁ。

〇:その上テレビ、映画、舞台、ミュージカル。何でも出来るスーパースター。


マ:そうだけど……いきなりどうした?

〇:で、元乃木坂……

マ:○○? おい、大丈夫か?

〇:青天の霹靂……渡りに船だ。これしかない。

マ:もしもーし。聞こえてるかー?

〇:マスター。

マ:あぁ良かった。聞こえてたんだな。

〇:行きます。

マ:えぇぇぇ!? いいのか? 大事な研修中なんだろ?

〇:だから行くんです。生田さんは何時に来るんですか?

マ:19時37分仙台着の新幹線って言ってたから、20時には来るハズだ。

〇:わかりました。必ず行きます。

マ:お、おぉ。さんきゅーな。じゃ、待ってるぞ。

〇:はい。

ピッ……📱

〇:すぅ~はぁ……よし。

桃:何か見つけたって感じだね。

〇:その糸口って感じです。それと申し訳ないんですが……

桃:もちろん!

〇:まだ何も言ってませんって。

桃:早く支度しないと予定の時間に遅れちゃうよ?

〇:すみません。迷惑かけてばかりな上に勝手に早退して。



(20分後…)

―hio株式会社・事務所―

〇:すみません。じゃ、行ってきます!

桃:はーい。

社員:気を付けてね。

〇:ありがとうございます!

(大急ぎで事務所を出ていく○○。見送る桃子と社員達)


桃:さ、仕事に戻ろー

社員:彼、何かあったんですか? 急に元気になりましたけど。

桃:さてさて、どうなることやら♪

―つづく―



【おまけ】

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