だれよりわたしのそばに、ずっとそばにいてくれた貴方へ

わたしは貴方のE♭のキィを何回、何万回、何億回押したのか、考えたことはありますか。E♭のキィだけじゃないの、B♭なんて何秒、何分、何時間吹いたのか、とかどれだけ貴方を食わえたの、とか。
貴方と出会ってからの六年間、わたしは貴方と何個の黒丸と白丸を音にしてきたの？♩=48の弱声部も、♩=60のコラールも、♩=108のファンファーレも、♩=126のマーチも、♩=144のロックだって、すべて貴方が教えてくれた。ブラームスも、エルガーも、ワーグナーも、貴方がいなかったら知らなかったの。世界は広いってこと、教えてくれて、どうも有難う。

わたしの気持ち、貴方はすべてわかってくれていたように感じます。悔しかったこと、惨めだったこと、嬉しかったこと、苛立ったこと、すべて、貴方にはバレバレだった。時々当たり散らかしたことも、すべて。わたしの調子は貴方の調子で、一心同体でした。わたしが嬉しい時は貴方の声も不思議と明るくて、歯切れ良くて、心地よい響きだったね。逆にBADの時は音は暗いし音程も不安定で、それにイライラして何回もキレた。ごめんね。

わたし、貴方に睫毛が触れるほど近づくのがとても好きでした。冷たい肢体を、上から下まで触ったあと、左手のキィを磨く時、睫毛を１回ふわっと擦れさせてから、その後磨くのが好きです。貴方の体調をいちばんよく分かっているのはわたしで、わたしの体調をいちばんよくわかっているのは貴方だよね、

終わりの時が近づいてきました。わたしと貴方の愛の総てを、見せつけてやるの。
わたし、貴方と舞台の上で心中する。

いっしょに死んでくれて有難う。今まで、ずっとわたしのいちばん近くにいてくれて有難う。わたしの事好きでいてくれて有難う。この先の人生で、貴方より傍にいたって言える人、きっといないと思うの。大好きだよ。愛してる

わたしのバスクラリネットへ愛をこめて
わたしより