ぼくは優しい
誰かが空気を悪くしたとき、自分が悪者になってでもフォローに回ることが多い。
それは、建築学生時代、木造建築で木と木をつなぎ合わせる技術を勉強していた時のこと。
前で授業をするのはおっさんの先生、そしてそれを聞くのは僕を含む男女の学生だ。
木造建築では木に凹凸をつくり、それをはめ込むようにして木と木を接合する方法がある。
そして、凹の形に削った木のほうを『女木』と呼び、凸の形に削りとった木を『男木』と呼ぶ。
この男木を女木に挿入するとがっちり木同士が固定される仕組みになっているのだ。
しかし、あろうことか、この男木・女木の説明中に先生が「これを男の木、女の木と名付けるなんて、よく考えたものですね笑」と意味深な発言をしたのだ。
これには教室が静まり返った。
女子はもちろん笑わないし、笑うにしても下ネタとしてはキレが悪い。
しかし、僕はこの微妙な空気にさせた先生が可哀想に思えた。
僕はすかさずフォローの一言を入れた。
「確かに、亀頭までありますもんね〜」
先生はすぐに次の説明に移っていった。
別の授業でも失敗したことがある。
それは『サーモグラフィックカメラを使うと建築物のダメージを受けている箇所が分かる』という話を先生がしている時だった。
実習形式で、先生を囲うようにして学生は立ち、先生はサーモグラフィックカメラを持って色々と喋っていたのだったが、
説明中に「『赤外線で女の子の下着が透けて見えるんじゃないか』みたいな話もありますが、そんなことはないですよ笑」と話したのである。
これには全員どう反応していいか分からず微妙な空気になった。
しかし、僕は優しい。
すかさず、「ちょっと貸してください」とサーモグラフィックカメラを奪うように受け取り、隣の女の子を撮影してみた。
下着の形は写らなかったが、顔は真っ赤だった。
その日の休み時間にはどこからこの話を聞きつけたのか分からないが、同じ学校の当時の僕の彼女がドシドシと自分のもとへ歩いてきて、脳天を叩いて帰っていった。
脳天である。
初めて、人に脳天を殴られたが、人は脳天を殴られると脳みそが揺れるのかグラグラするのである。
揺れる視界の中、僕の周囲にいた女子のクラスメイトが引いているのが目に映った。
なんせ、自分の女の子の友達が目の前で彼氏の脳天を殴って去って行ったのだから無理もない。
このままでは僕の彼女がただの暴力女だと彼女の友達に誤解されてしまう。
僕は揺れる脳みそで必死に考え、フラフラになりながらフォローの一言を入れた。
「俺は…ドMだから!!」
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