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速食いの人は太るか

地域医療ジャーナル 2021年4月号 vol.7(4)
記者:shinnoyuki
管理栄養士 / 修士(人間生活科学)

体重を適正に保ち,肥満を予防・改善したいということは,多くの方が考えていると思います。疾患の中には,肥満をリスク要因とする者が多く,健康診断等でも適正体重の維持が求められます。

そのための手段として,食事療法は重要です。とくに,エネルギー摂取量を減らすことは,一般に重視されています【1】。エネルギー摂取量がエネルギー消費量よりも多くなると体重が増え,逆だと体重が減ります。そういった理由から,食事量を減らしエネルギー摂取量を減らすことに注力されます。

しかし「食行動」,とくに食べる速さについては,それほど一般的な推奨事項としては確立していません。なぜなら,エネルギー摂取量と消費量のバランスと比べると,有用であるとする根拠が蓄積されていないからです。つまり,前述した要素ほどは,肥満の予防・改善の手段として重視されてはいない要素と言えます。

とはいえ,エネルギー出納と比べて蓄積されていないといえど,「速食い」と「肥満」との関連についての研究も多くなされてきており,どのように日常生活に取り入れていくべきかについても,有力な仮説が現れつつあります。

そこで今回は,速食いと肥満との関係に焦点をあてて,速食いの人は本当に太るのか,それはどのようなメカニズムなのか,このことを私たちの生活に適応するためにはどのようにすれば良いのかについて,解説していきたいと思います。

「速食い」は一般的に「早食い」とされます。「素早く食べる」から来ているようです。とはいえ,英語ではeating fastと書かれることもあり,「速食い」の方がより適切に事象を表現していると考え,本記事では「速食い」とします。


速食いの人は本当に太るのか?

まず,速食いの人は本当に太るのか?という疑問について考えてみたいと思います。 ここでは,食べる速さ(eating rate)と肥満との関係を見たメタアナリシスの結果を参照してみます【2】。

まず,BMIとの関連について見ていきましょう。本研究では,これについて報告している15の横断研究を分析しています。その結果,速食いの人では,そうでない人に比べてBMIが1.78高かったことを報告しています。BMIで1.78というと,たとえば身長170cmの人であれば,およそ5kgに該当します。速食いによる影響と考えると,かなり大きいといえるのではないでしょうか。

次に肥満の有無について見てみます。食べる速さと肥満の有無との関連を報告している9の横断研究を分析対象としたところ,すべての研究で関連が認められていたことを報告しています。そして,肥満の人では,そうでない人と比べて,速食いの人が2.15倍であったことを報告しています。

このことから,食べる速さと過剰な体重の増加との間には,正の関連があるといえそうです。

このメタアナリシスは,介入研究の結果を含めたものではなく,因果関係まで決定することは難しいといわざるを得ません。つまり,速食いが原因で体重が増えるのか,体重が増えた結果として速食いになったのかが分からないのです。

とはいえ,①速食い→太る,②太った→速食いになるとでは,どちらかというと①の方が直感的にあり得そうな気がします。というわけで,このように考えられるメカニズムについても考えていきましょう。

参考文献
1. 厚生労働省.「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書. (2019).
2. Ohkuma T, Hirakawa Y, Nakamura U, Kiyohara Y, Kitazono T, Ninomiya T. Association between eating rate and obesity: a systematic review and meta-analysis. Int J Obes (Lond). 2015 Nov;39(11):1589-96. doi: 10.1038/ijo.2015.96. Epub 2015 May 25. PMID: 26100137.


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