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肥満の医療化と、早期診断・早期介入のゆくえ

地域医療ジャーナル 2020年12月号 vol.6(12)
記者:syuichiao
薬剤師

 一般的に肥満は健康のために改善すべきもの、そのように考えられていることでしょう。確かに、成人期の体重増加と健康リスクの関連性については、これまでにも複数の研究【1】~【3】が報告されており、(当たり前かもしれませんが)痩せすぎでも太り過ぎでも健康のリスクになる可能性、そして(こちらは意外にも!?)BMI【4】が25~30あたりの人で、最も長生きする可能性が示されています。

 ただ、肥満と健康の関連性について知見の多くは観察研究の結果に基づくものであり、その解釈には一定の注意が必要でしょう【5】【6】。BMIが低い人、あるいは極端に高い人では、潜在的に健康リスクが高い可能性に留意しなければなりません。少なくとも、BMIが低いこと、あるいは高いことが直接的な健康リスクかどうかについては議論の余地があるところです。

 そのような中で、肥満の改善と死亡リスクの関連性を検討した研究論文【7】が新たに報告されました。この研究では、米国で実施された国民健康栄養調査のデータから24205人(平均54.2歳、男性51%)が対象となっています。研究参加者に対して25歳時点の体重と、10年前(平均44歳)の体重について調査を行い、BMIの変化と死亡リスクの関連性が検討されました。なお、結果に影響を与えうる年齢、性別、教育水準、喫煙状況などの因子について、統計的に補正を行い解析しています。

 平均で10.7年にわたる追跡調査の結果、肥満が持続していた人(BMIが30以上)と比較して、肥満が改善した人(BMIが25以上30未満)では、死亡のリスクが54%、統計的にも有意に減少していました(ハザード比0.46[95%信頼区間0.27~0.77])。この研究ではまた、早死にしてしまう原因の12.4%が成人初期から中年期の肥満によるものであると見積もられています。

 むろん、肥満を改善した集団とそうでない集団では、健康に対する関心や配慮も異なり、このような集団背景の差異は、解析結果に少なくない影響を及ぼしていることでしょう。また、体重に関する情報は研究参加者の自己申告に基づくものであり、解析の精度は必ずしも高いとは言えません。加えて、日本人においてBMIが30を超えるような人は少なく、この結果を広く一般化することも難しいように思います。

【肥満はいつから医療の問題になったのか ― 肥満の医療化】

 一般的に、肥満の予防や改善に対する健康的なイメージはかなり強固なものでしょう。とりわけ日本では、肥満の健康リスクについて、社会的にも強い関心が向けられてきましたように思います。メタボリックシンドロームという言葉はその象徴ともいえるかもしれません。では肥満であることが、一体いつから医療の問題として取り扱われるようになったのでしょうか……。

【参考文献】
【1】JAMA. 2005 Apr 20;293(15):1861-7. PMID: 15840860
【2】J Epidemiol. 2011;21(6):417-30. PMID: 21908941
【3】JAMA. 2013 Jan 2;309(1):71-82. PMID: 23280227
【4】BMI(Body Mass Index)とは[体重(kg)]÷[身長(m)2]で算出される肥満度の判定指標のことです。標準とされるBMIは22.0で、日本肥満学会では25.0 ≤ BMI < 30.0を肥満(1度)としています(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-001.html)  。
【5】Popul Dev Rev. 2016 Dec;42(4):595-614. PMID: 28701804
【6】地域医療ジャーナル2020年11月号 vol.6(11)(https://cmj.publishers.fm/article/23008/
【7】JAMA Netw Open. 2020 Aug 3;3(8):e2013448. PMID: 32797174


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