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「あなた自身は、眠れていますか」という眼差し ~家族介護者の立場から専門職にお願いしたいこと~

地域医療ジャーナル 2020年12月号 vol.6(12)
記者:spitzibara
医療にウルサイ「重い障害のある子どもを持つ母親」

 今年5月に『私たちはふつうに老いることができない』(大月書店)という本を出しました。重い障害のある子どもをもつ高齢期の母親など50人あまりにインタビューをした内容を取りまとめたものです。

 私たち高齢期の母親は、すでに老いて自身の身体を病んだり傷め始めていたり、我が子の介護に加えて、老親や配偶者の介護や看取りを含めた多重介護生活となっています。それでも、日本ではもともと介護は家族がするものという社会規範が強く、とりわけ障害のある人の母親は、子どもがいくつになっても「子育て」のイメージに取り込まれて、「当り前のことをやっている人」としか見られません。親が倒れてしまえば、その時に初めて社会的支援が動き始めますが、それまでは「障害のある子どもの親」は、まるで、老いない、病まない、衰えないまま、何があっても介護し続けられるのが当たり前の「介護機能」とみなされているかのようです。

 インタビューで知りたかったのは、主として、母たちが「これまでどのように生きてきたのか」、「今どのような生活を送り、何を体験しているのか」、「これからについて何を思い、どんな不安を感じているのか」の3つ。多くの人の体験や言葉をモザイク片として集めて、社会がほとんど目を向けることがない「障害者のお母さん」という抽象的な(ほとんど誰の目にも見えない)存在を、それぞれ固有の人生を生きてきた生身の人間の姿として描き出したい、そして、私たちだって普通に多くを感じ、思い、疲れ、傷つき、病み、老い衰えていく、当たり前の一人の人だということに気づいてほしい、と願って、書いたものです。

 これまで「障害のある子のお母さん」が社会に向けて自分のことを率直に語ることは極めてまれだったので、目を止めてくださるメディアの方もおられて、刊行からこちら、いくつかの新聞から取材を受けて記事にしていただいたのですが、このたび初めて、訪問看護系の雑誌から取材依頼がありました。家族も「支援を必要とする人」だと言われながら、それがなかなか実践に繋がっていない現状を踏まえて、家族に目を向けた特集を組むとのことでした。事前にいただいた質問がツボを突いたものだったこともあって、その取材体験は、家族介護者の立場から支援に入る医療・看護・介護の専門職にお願いしたいことを整理させてもらえる貴重な機会となりました。そこで、せっかく整理できたのだから、と思い、中でも一番言いたかったことをひとつ書いてみようと思います。



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