医者が心をひらくとき ー医師にも彼らの物語があるー (2)
地域医療ジャーナル 2022年5月号 vol.8(5)
記者:shimohara-yasuko
元医学図書館司書
前号にひき続き、以下の本の下巻に収められた作品のなかから、3編をダイジェストでご紹介します。
医者が心をひらくとき -A Pieace of My Mind 上・下巻
ロクサーヌ・K・ヤング 編 李 啓充 訳
医学書院 2002年
告知 (医師)
彼女はサンルームに一人座り、輝く朝日を浴びて豊かな黒髪を梳いていた。彼女を受け持つ腫瘍専門医として、私は、彼女に癌の告知しなければならなかった。彼女は私の途方にくれた顔をみつめ、静かに私が口を開くのを待った。
訪れる死の前触れを告げることも、医者の役割の一つだ。そのスタイルは千差万別だが、しかし、上手にこの役割を果たすことができる医者などいない。
もうこれ以上、彼女の顔を黙って見つづけることはできなかった。
「生検の結果が戻りました」と私は言った。
「あら、先生が難しいお顔をしていらしたので、何の用事かと思っていたところでした。それで、結果は?」
私は、彼女の目をみつめようと全力を振り絞った。彼女の目には、私への信頼が読み取れた。と同時に、彼女が答えをすでに察していることが書いてあった。
「生検は陽性でした」
「陽性」と、額にしわを寄せながら、彼女が反復した。
「でも、私が死ぬという結果が、なぜ、陽性だなんて言えるんでしょう?」
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