1998年3月末

穏やかな春休み、
「さぁ今日こそ初優勝よ」
あおばはおもちゃ屋のドアを勢いよく開けお店の奥に突き進む、
目指す場所には10人程度が座れる長机と椅子がある。
あおばは一緒にきていたあかりと向かい合わせに席に着き大会に向けて準備を始める。
「今日もいつものデック?」あかりが唐突にあおばに聞いてみる。
あおばはいつも《ウォータ・ドラゴン》を主体とした水属性デックしか使わないのであった。
「もちろんよ」あかりは今日もあおばの優勝はないことを確信した。

大会開始時間が近づき店長の声が店内に響く
「今日の大会参加者は受付をしてね」店長がお店の中にいる人に声をかけ始めた。
今回も8名参加のトーナメント3回戦

1回戦、いつも変わったデックで参加しているモンコレ好きおじさん。
おじさんは《無垢なる混沌》を召喚してきた。
「うわぁ気持ち悪い」声が出てしまった。
《無垢なる混沌》のイラストはどう見てもグロすぎた。
そして、そんなユニットを使う人を初めて見た。

7レベル攻撃力0:防御力7 
モンコレは基本的に攻撃をして敵軍ユニットを倒すのにこのユニットは攻撃力がない。
このユニットの唯一の利点は特殊能力の「虚無」だけ、
「攻撃」するユニットと「消耗品/戦闘スペル/特殊能力」を使用したユニットすべてに対抗してしまうということだ。
そして、対抗できるのではなく対抗してしまう。
効果は「1D」して「1Dした結果がのダイス目が対象のユニットの属性とダイス目が同じ場合対象は除外されてしまう。」
(1:火 2:水 3:土 4:風 5:聖 6:魔)

何を考えているの?
《無垢なる混沌》は《ウォーター・ドラゴン》と《七つの海の王子》のパーティに通常攻撃してきた、
しかし、攻撃力0の相手に対抗する必要すらなかった。
後攻の《ウォーター・ドラゴン》と《七つの海の王子》パーティの攻撃に対抗してきた。
「その攻撃に虚無で対抗! 2よ でろぉ」しかし、その願いはかなわなかった・・・
ものすごい手札を回し第2第3の《無垢なる混沌》を召喚してきた。
しかし、この対戦で「虚無」が真価を発揮することはなかった。

2回戦はあかり、あかりの1回戦の相手はここちゃん。
ここちゃんは初心者でみんなからもらったカードでデックを作っているお店のアイドル的存在であった。
「あかりが2回戦に勝ち上がるなんて珍しいわね。」あかりはほほを膨らませて怒っていた。
あかりのデックはワルキュリアや天使主体で極稀カードが多いためかなり豪華、
しかし、モンコレは価値の高いカードが強いということでもない、
デックとプレイングでどうとでもなる。

「あかりは《空に舞う天使》使っているんだから《ジャック・オー・ランタン》いれないの?」
勝負がついてからあかりに聞いてみた。
「えっとぉ 綺麗じゃないから」


決勝戦はもみじ、このお店でなんども優勝している同級生、そして私が倒さなければいけない相手。
「今日で最後ね」もみじから声をかけられた。
「ん!?」はっきり言って口もききたくない相手なだけにきつい口調であたってしまう。
「来週にはパワーアップカードセットが発売され大会でも使用できるみたいですよ。」
てっきり自分が優勝できる最後のチャンスかと思ってしまった自分がなさけない。
現状況での最終戦もみじの《鏡蟲》入りのオークデックに勝てるわけもなく負けた。
「あおばさんは勝つつもりあるんですか?」もみじからの唐突な質問であった。
「《ウォーター・ドラゴン》を主体にして勝ちたいのは分かりますが、
その為の努力がなにもないですね。」
さっきあかりに言ったことがブーメランのように帰ってきた。

すこし時間がたってから
「おしえて」


翌日、駅前であかりと待ち合わせ、
今日はもみじにモンコレを教えてもらうため、もみじの家へ訪問するのだった。
「あかりはもみじの家を知っているの?」
「あおばちゃん知らないの?」聞き返されてしまった。
まるで知らないほうがおかしいような言い方だった。
「あれだよ。」そういって指さす先には丘の上のお城だった。
「あれってラ〇ホ ぐはっ」言葉が最後まで出なかった。
あかりの握った拳が私の腹部に
「あおばちゃん恥ずかしいことを大きな声で言わないで」
私の耳元で囁くようにあかりが言う。

さてもみじの家の使用人が車で迎えに来てくれたので、
無事もみじの家に着くことができた。
「モンコレのこと、教えてもらいに来たわ」
教えてもらう立場なのに、その平たい胸をはって堂々としている。
「あかりさんあおばさんいらっしゃい」
対しもみじは重そうな胸が重力にひかれ深々とお辞儀をして丁重に迎え入れていた。

通された部屋は多種多様なボードゲームが飾られたすごい部屋だった。
「ここはゲームルーム お話は席についてから」

「モンコレについてどこまで知っています?」
もみじからの率直な質問。
「相手本陣を落とせば勝ち」
「そうですね。本陣を落とせば勝ちです。
それ以外には山札切れの後の判定勝ちもあります。
大会では時間切れによる判定もあります。」
「なにそれ? 判定勝ち?」

もみじによる1時間にわたる大会ルールの説明が終わった。

「モンコレのデックの種類はいくつあるか分かります?」
「そんなのたくさんあるに決まってるでしょ」
「それは大会で優勝できるデックということですか?」あかりがもみじに聞き直した。
「そうね。大会で優勝しようとおもうなら優勝できるデックとは対戦することになります。」
「鳥豚 オーク ゴブリン 先攻同時 スフィンクス 重儀式 これぐらいですね。」
「あかりさんは強いデックを知っているのになぜ使わないんです?」
「綺麗なカードを集めたり対戦するのが好きだから使わないです。」
「あかり、なんでそんなこと知っているの?」
「モンコレの情報収集も趣味なんですよ。」
「あおばさんは知らないことが多すぎます。
大会で優勝したいなら情報収集も必要です。」
「さらに集めた情報から勝つための方法を考えましょう。」
「で どうすればいいの?」
「か ん が え ま しょ う」もみじが無表情にあおばに言い放つ
「わかんない、わかんない、わかんない、
昨日教えてくれるって言ったのに、ケチケチケチケチケチ」
突然あおばが床を転がって駄々をこね始めた。
あかりにとってはあおばの我儘はいつものこと、全然気にしていない。
「わかりました。わかりましたわよ」初めて見たもみじは笑いをこらえていた。
「現状大会の優勝デックに入っている一番使用率の高いカードが重要になります。
分かりやすいところで、私の使うオークデックにも入っている《鏡蟲》。
これを出されるとその戦闘で戦闘スぺルが使用できなくなります。」
「そんなの《ウォーター・ドラゴン》の津波で流すから平気でーす。」
「ダイスで1を出したり《封印の札》で対抗されたらどうします?」
「紅茶おいしいね。ダージリンかなぁ?」
「そうやって何も考えずに自分の都合のいい事しか考えないから勝てないんですよ。」
「ぶぅぶぅ」
「《鏡蟲》を倒す、もしくは《鏡蟲》がいても勝てる方法を考えましょう。」
もみじは言葉を発した瞬間、あおばが椅子から床へ移動しようとしているのを察した。
「まってまってまって、《鏡蟲》を倒すには《ポイズン・トード》《髑髏の騎士》や儀式スペルで倒す方法。
戦闘に《鏡蟲》がいても勝てるようにするには《強靭の薬》《変換のテンパランス》などのアイテムを使う方法もあります。
あおばさんのデックには《七つの海の王子》も入っているのにアイテムカードが入っていませんからアイテムカードを入れましょう。」
「それで、もみじに勝てる?」目をうるうるさせ上目づかいで聞いてみる。
「勝てません。来週発売されるパワーアップカードセット古代帝国の遺産、
私はさらにデックを強化します。」

「そうだ今年の夏、全日本選手権という最強のモンコレプレイヤーを決める大会があるんだって」
突然の発言にあおばともみじはあかりを凝視する。
「そんな大事なことを何であかりさんは知ってるの?」。
「パソコン部のPCはいんたぁねっと※1、とかいうのにつながっていていろんな情報が集められるの。
モンコレの情報もそこで集めているんだよ。」

「わたし全日本選手権で優勝する。
あかりちゃん、もみっちゃん手伝ってくれてありがとう。」

「もみっちゃんって」もみじはつぶやいた。

※1 1998年当時はインターネットは珍しいものであった。
学校関係のPCやPCマニアしか使っていない。
もちろん光回線やADSL回線は普及していない。
もちろん携帯電話でネットはみられない時代


あおば水龍デック
3《ブルー・シャーク》
3《マーマン少年聖歌隊》
2《ウンディーネ》
2《ネーレウス》
2《メロウ》
3《珊瑚の王女》
3《七つの海の王子》
3《ウォーター・エレメンタル》
2《キラー・ホーン》
2《グレート・ノーチラス》
2《首長竜》
3《ウォーター・ドラゴン》

2《ウォーター・シェル》
3《シェル・トラップ》
3《プロテクション》
3《ミラー・イメージ》
3《タイダルウェイヴ》
3《メイルシュトローム》

3《妖精の輪》


もみじオークデック
《シグナルレッド》×2
《オーク歩兵隊》×3
《オーク長槍隊》×3
《オーク錬金術師団》×3
《オーク傭兵団》×3
《欲深き皇帝》×3
《ガルム》×3
《ファイア・ドラゴン》×2
《ゴブリン馬車強盗》×2
《ウィル・オー・ウィスプ》×2
《プラズマ・ボール》×2
《鏡蟲》×3
《ガーゴイル》×3

《ウォークライ》×2
《ファイア・ジャベリン》×2

《封印の札》×3
《遠見の水晶球》×3

《雷が鳴る前に》×2
《小さな小さな部屋》×2
《吹き抜ける風》×2



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