J2-第29節 水戸ホーリーホック vs. 愛媛FC 2024.08.31(土)感想

 愛媛FCのスタメンはGK辻周吾、DF尾崎優成、森下怜哉、小川大空、MFパク・ゴヌ、菊地俊介、谷本駿介、ユ・イェチャン、石浦大雅、窪田稜、FW藤原悠汰。前節ブラウブリッツ秋田とアウェーで対し、かろうじて勝ち点1を得るたのもしさをみせるも、攻め手の物足りなさは懸念となる。久しぶりのメンバー入りとなった松田力選手(第24節藤枝MYFC戦以来)と深澤佑太選手(第25節徳島ヴォルティス戦以来)のふたりに期待がかたむく。
 ホーム水戸ホーリーホックのスタメンはGK松原修平、DF牛澤健、山田奈央、大崎航詩、MF長澤シヴァタファリ、長井一真、櫻井辰徳、新井晴樹、甲田英將、草野侑己、FW久保征一郎。中断期間前は4戦勝ちなしと苦しんでいたが、8月にはいり3勝1敗と好調。順位を中断前の17位から15位へ上げ、残り10節でさらに上をうかがう。
 J2第29節、水戸ホーリーホック対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

 水戸はボールを保持してからロングボールを入れる。ターゲットは久保選手か長澤選手。久保選手の近くにはシャドーがひかえる。こぼれ球を前向きに回収していく。長澤選手は三人めがけて落とす。
 水戸の攻撃は右からはじまる。自陣右サイド寄りでボールを持ち機をうかがう。愛媛の2ライン間はひらいたか。愛媛の陣形が一方に偏ってきたか。2ライン間がひらけばロングボールを入れ、陣形が偏れば逆サイドへふる。
 逆サイドで待つのは大崎選手。3バックの左だがまるでサイドバックのようにふるまう。堂々とボールを運ぶ。ためらいもなくパス&ゴーで最前線まででていく。最後尾にあっては正確なロングパスを送りとどける。ミドルシュートを積極的に打つ姿勢は同点ゴールをよびこみさえする。
 水戸の左サイドにはウイングバックの新井選手もいる。縦に仕掛け、利き足ではない左でクロスを上げ切る。かとおもえばカットインもする。ゴールへむかって巻くようなクロス。『孤高の守護神』の著者ジョナサン・ウィルソンは『戦術の教科書』で「インスイングのボールはそのままでもゴールに向かって飛んでいくし、途中で誰かが少し軌道を変えてやるだけで、ゴールを奪える可能性はさらに高くなる。この種のクロスを放り込むには、順足ではなく逆足のウインガーを起用しなければならない」(ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之『戦術の教科書 サッカーの進化を読み解く思想史』カンゼン、2017、220頁)と指摘する。つづけて著者は順足のサイドバックは逆足のウインガーに対して外側(縦)への守備は得意でも内側への守備は苦手とするともつづるわけだが、その言のとおりというかたちで新井選手はカットインに成功し、それは水戸の逆転弾を生むことになるだろう。
 前線まで大崎選手がでていけば後ろは手薄になる。愛媛にとってカウンターに利用すべきスペースでもある。そこを突く。水戸が時間をつくるのは自陣の右サイドだ。そこでボールを持つ。愛媛はボールを奪うチャンスとみなす。先制点は水戸の右サイドでのボール奪取からだ。そして高く張る大崎選手が戻りきる前に逆サイドで石浦選手が完結させる。
 そればかりだった。愛媛はカウンターはすくなく、インターセプトもめずらしい。水戸をおし返せない。ハーフウェイラインを越えられてしまうと、バックパスをさそって選択肢を狭めていく守り方ができない。
 フォーメーションは水戸も同じ【3‐4‐2‐1(5‐4‐1)】であるが、愛媛との違いはボールサイドとは逆のシャドーに求められる。甲田・草野両シャドーは愛媛がビルドアップをやりなおそうとするとおもいきって前へでる。久保選手とならび、バックパスには2トップで襲いかかる。キーパーまでもどすことになれば、GK辻選手はロングボールを蹴るしかない。
 かたや愛媛の両シャドーは前へでていけない。大崎選手のポジショニングがつかみづらいからだ。あらかじめ寄せればボランチの脇が空き、パスがでてからでは単騎プレスになってスペースをつかわれる。歯がゆい。
 ただし相手陣内であればプレッシングが機能しなくもない。ボールホルダーの選択肢をけずり、さがないロングボールを蹴らせる場面もある。だからマイボールの時間もつくれる。とくに谷本選手がチームを前にむかせる。自陣、ハーフウェイライン付近でのボール保持が安定し、攻め時をうかがうよゆうも生まれる。
 だが2ライン間を攻略できない。縦パスは刺せてもゴール方向をむけない。フリーキックのチャンスもシュートまでいきつかない。
 裏を狙うのもままならない。ディフェンスラインを越えるような状況にならない。裏への抜けだしは愛媛の武器になってきた。徐々に攻め急ぐくせも目につきはじめた。前線は裏を狙う。最終ラインからもロングボールがでる。だが中盤はどうか。彼らはボールを安定して前へ運ぶためにポジショニングしている。裏を狙ったボールが味方に直接とどかないのならば、こぼれ球は相手のものとなる。とどいたとしてもゴール前に人をかけられないままクロスを上げるしかない。ボランチがゴール前に顔をだす時間が失われている(相手ディフェンスを引っくり返せれば、ボランチもでていけるのだが)。
 主体的にボールを持てば相手の虚をつくコンビネーションをみせる。もっとすればいい。でも最近はすくない。だが後半になるとふえる。ハーフウェイラインを越えると急ぎたくなっていた前半に比して、中盤の選手たちで時間をつくるようになる。前線の選手たちの裏への動きも効果がでる。相手ディフェンスを下げさせ、ボール保持をより安定させる効果。愛媛は水戸をおしこむ。おしこまれた水戸はボールを奪えても前にとどけられない。愛媛は得点のチャンスを生んでいく。ただシュートまではいけない。
 こらえた水戸はキーパーからつなぐチャンスを獲得する。GK松原選手はすばらしいフィードを右サイドへとどけた。愛媛はプレッシングの出鼻をくじかれる。ズレを修正する間もなく甲田選手にドリブルで運ばれ、中盤の守備ラインも網目をすりぬかれる。水戸はコーナーキックを獲得する。その流れから新井選手がPKを獲得し、みずから決めてスコアを3‐1とする。
 直後に愛媛は選手を交代する。松田選手と深澤選手が出場する。ボール保持の時間はつづく。攻撃のスイッチを入れる位置が高くなる。攻撃の息がゴール前までつづくようになり、シュートも打てるようにもなるだろう。長距離をいかに駆け抜けられるかが、縦へのはやさとは限らない。
 古巣対戦となる曽根田穣選手に茂木駿佑選手、さらには23節のザスパ群馬戦以来の出場となる浜下瑛選手を送りだして攻勢をより強める。浜下選手の足もとの技術が冴える。ボールを失わずにラストパスを送りとどける姿は、相対していたころのイメージに近い。
 チームとしてサッカーの質とスピードが上がったようにみえるものの、ゴールは生まれることなく、3‐1で試合は終わる。

 谷本選手に復調のきざしがみえる。一時期はプレーに変化がみられた。球離れがわるく、ボールを失う機会が目立った。かならず相手をひとり抜かなければならないような、難易度の高いパスコースをとおせなければいけないような。なにか新しいことにチャレンジしていたのかもしれないし、プレーの判断に迷いがあったのかもしれない。なにかをつかんだのか、あるいは手放したのか、今節のプレーはシンプルだった。シンプルであるためには強度がいる。それだけで成り立つ強度が。
 ベンチ外がつづいていた松田選手と深澤選手が戻ってきた。彼らの存在はチームにシンプルさを指向させ、「ゴールの方向」を示しはじめる。それでもなおゴールを奪えなかったのは気がかりではあるが。
 先日、森脇良太選手が今季限りでの現役引退を発表した。騒々しい前向きさに傾注するキャラクターとは裏腹に、埼スタの右サイドで粛々とピンチの芽を摘み、献身的に味方をサポートする姿を見てきたものは、まだまだできるだろうと嘆じつつも、最後のユニフォームに愛媛FCを選んでくれたことにしみじみともする。モリ、どうぞ最後までよろしくね。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。またね。

 試合結果
  水戸ホーリーホック 3‐1 愛媛FC @ケーズデンキスタジアム水戸

 得点者
  水戸:大崎航詩、10分 久保征一郎、18分 新井晴樹、63分
  愛媛:石浦大雅、6分