J3-第28節 愛媛FC vs. AC長野パルセイロ 2022.10.08(土)感想

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 今季の愛媛FCがどういうサッカーを目指してきたのか、その解釈を間違えていたのかもしれない。
 石丸清隆監督はアタッキングフットボールをかかげている。小生は、以前愛媛を率いられていたときや、モンテディオ山形でみせていたサッカーのイメージから、ボールを保持しての戦いをそれとおもいこんでいた。そのため、石丸監督が松本山雅FCで反町康治氏のもと長らくヘッドコーチを務めていたことを軽視していた(ヘッドコーチではなくコーチの一員でした。記憶違いでした。2022.10.18訂正)。選手名鑑で、注目する指導者に反町氏を挙げられていても、いっしょにやっていたもんねぐらいにしかおもっていなかった。
 反町氏は自著(反町康治『RESPECT 監督の仕事と視点』信濃毎日新聞社 2016年)でホッフェンハイムにラルフ・ラングニックのサッカーを勉強しにいき、湘南ベルマーレで実践したと書かれている。小生、海外のサッカーに疎いので、ラングニックが何者なのかも、どんなサッカーをやっていたのかもよくわかっていない。わかっているのは、ユルゲン・クロップやナーゲルスマンといった監督たちが率いるチームの、ストーミングと呼ばれる戦い方の源流をつくった人物らしいということぐらいである。
 ストーミングがなんなのか、小生にはよくわからない。高い位置でのプレッシングを敢行し、ボール奪取からシュートまで迅速にもっていく。ボール保持にこだわらず、その反面ボールを失ったら即座に奪い返そうと攻めかかる――こういった特徴があるらしいと聞きかじったていどで、この認識が正しいのかも定かではない。
 意図的に混沌を生み出すとも聞いた。無秩序のなかで戦うのだと。パスサッカーが秩序を求めたがるのと対をなす。ところで無秩序のなかで戦うということは、ファンタジー映画や戦争映画でよくあるような、飛び交う銃弾や矢のなかで、なぜか討たれることなく戦いつづける主人公みたいな強さと運が必要ということだろうか。求む主人公補正。アラゴルン、ギムリ、レゴラス。ガンダルフなら申し分なし。ビルボでも可。
 はたして今季愛媛がみせているサッカーはパスサッカーでなかった。シーズン当初はパスサッカーを目指しているようにみえたが、開幕3連敗後、J3のサッカーに適応するためにサッカーを切り換えた。ロングボールをふやし、高い位置からプレッシングをかけるサッカーへ傾倒する。でも、ほんとうはパスサッカーがしたいから、これは一時的なものにすぎない、というものだとおもっていた。だがポゼッション研鑽中のチームを相手に高い位置からプレッシングをかけることで勝ち点を得られたけっか、ビルドアップは優先度がひくいままに放置され、ついには一にも二にもロングボールを放りこむしかボールを前進させる術をもたず、あわよくば前線のタレントのスーパーゴールで勝てればラッキーなチームになった。皮肉なのは、自陣からのビルドアップに挑戦していたほかのチームたちは、倦まず弛まず練度を高めつづけ、リーグ後半になると、愛媛くらいのプレッシングなら造作なくかわせるようになっていることだ。
 ということで、いまの愛媛は、パスサッカーをしたいけれどできなかったチームの成れの果てなんじゃないかと感じながらみていた。だが、もし、石丸監督が当初から縦に速いサッカーを志向していたのだとすれば、プレーの解釈はちがってくる。ロングボールの多用は相手陣内でのボール奪取機会をつくりだすためだったのかもしれない。ピンボールみたいなワンタッチパスの連続は、ビルドアップの意識ではなく、縦に速い攻撃の意識からきていたのかもしれない。サイドチェンジも開幕戦からつかってなかったし。
 そっちかぁ。アタッキングフットボールって、ストーミングのほうだったのかと(ストーミングがなんなのかわかっていないけれど)納得する。が、いや、どちらにせよできていないじゃないか? とすぐさまなる。高い位置でのプレッシングは武器になっていないし、ボールの即時奪還もできていない。混沌にあって平気で戦える主人公補正もみあたらない。できているのは、狭いエリアでの縦に速い攻撃、ボールロスト添え。ホッフェンハイムもライプチヒもみたことないけれど、愛媛がやっているようなものではなかっただろう。
 というようなことを、ヴァンラーレ八戸戦の感想を書いたあとにつらつらと考えた。石丸監督は反町氏の薫陶を受けたけっか、ポゼッションに重きをおかず、相手陣内でのボール奪取から迅速にシュートを目指すサッカーをやろうとしている。栃木SCやいわきFCのような高強度のサッカーを目指している。そう意識を改めて、AC長野パルセイロ戦をみることになった。
 愛媛FCのスタメンは、GK徳重健太、DF前野貴徳、小川大空、鈴木大誠、三原秀真、MF田中裕人、矢田旭、小原基樹、近藤貴司、佐々木匠、FW松田力の[4‐2‐3‐1]。ディフェンスラインは前節から総入れ替えとなった。小川選手は4節のY.S.C.C.横浜戦以来のスタメンとなった。
 AC長野パルセイロのスタメンは、GK大内一生、DF杉井颯、秋山拓也、池ヶ谷颯斗、MF宮阪政樹、水谷拓磨、佐藤祐太、山中麗央、FW森川裕基、山本大貴、三田尚希の[3‐3‐1‐3]。
 J3第28節、愛媛FC対AC長野パルセイロの試合をざっくりをふりかえっていく。

[3‐3‐1‐3]と表記しうる長野のフォーメーション。独特で興味深かった。3バックのチームがブロックを敷くとき、一般的には両方のウイングバックが下がってきて5バックになることがおおい。もしくは、片方のウイングバックだけが下がってきての4バックとか。だが、長野にウイングバックはおらず、代わりに前の3人は1トップ2ウイングと表記される。まさかウイングががんばって戻ってくるのだろうかと混乱した。しかし答えはインサイドハーフの佐藤祐太選手と水谷選手が斜めに下がることで5バックになるだった。ふたりが下がってできたスペースに森川選手と三田選手が絞るので、数でいえば[5‐3‐2]ないし[5‐3‐1‐1]になる。
 ウイングのふたりはアンカーの宮阪選手の両脇を埋めるようにポジションをとり、2ライン間への縦パスを防ごうとする。うかつに相手ボールホルダーへ寄せないので、代わりに彼らと前ふたりとのあいだが空きがちになる。そのため、山中選手と山本選手がフィールドを右へ左へと献身的に走りまわってボールホルダーを牽制していた。それでも2ライン間へパスをとおされたときはセンターバックが飛びだす迎撃守備で前をむかせないようにしていた。ときにはサイドへ流れていた佐藤祐太選手が2ライン間への縦パスをインターセプトすることもあった。サイドだけでなく2ライン間まで守りにいくというのが、中央でプレーする選手の守り方そのものにみえて新鮮だった。大外を捨てる勇気があるというか、そこまでとどかせない確信があるというか。
 ユニークな守り方の長野に対し愛媛はどうしたか。いつものようにロングボールを放りこんでのこぼれ球勝負か。意外なことに、愛媛は今季あまりみせたことのないグラウンダーでの勝負をしかけ、これが奏功していた。ちょっと、否、天地がひっくり返るくらいにびっくりした。この文章を締まりなく書きだしたとおり、小生は今季の愛媛のサッカーを、ポゼッションに重きをおかず、縦に速い攻撃と高い位置でのプレッシングを重視するも、それらを実現できていないサッカーととらえなおしたばかりだった。だのに、いきなりポゼッションへ切り換えたかとおもうと、相手を動かしてボールを前進させるチームに変貌していた。ポゼッションをやりたいけれどできないからダイレクトなサッカーへ切り換えたら、ロングボールを蹴るだけのチームになってしまった、というのはよく聞く。でも、ダイレクトなサッカーがうまくいかないからポゼッションをはじめたらよくなった、なんて聞いたことがない。どうなんだろう。サッカー界ではあるあるなんだろうか? サッカーに疎い小生にはふしぎな光景だった。
 長野はボールサイドに人をあつめ、2ライン間へ縦パスをとおさせないように守る。なので、愛媛はうまくボランチを経由して逆サイドへ展開できれば、一気にラインをおしあげられる。対角へのロングパスをだせればなおよし。で、それができていた。田中選手が1、2列めのあいだに顔をだしては逆サイドへ展開とか、前野選手や鈴木選手が対角へロングパスをだしたりとか、あたりまえにやっていた。キツネにつままれたようである。いや、田中選手や前野選手は以前からみているのでできるのはわかっていたし、鈴木選手だってそういった技術をふくめて現代的なセンターバックだとはおもっていたからおどろきはないのだけれど――これまで狙いもしなかったじゃない、サイドチェンジ。
 こぼれ球への反応も前節までとは変貌していた。相手がロングボールを蹴ってきてもしっかり味方へつなげられていた。さらに、相手をおしさげる機会がおおくなったことで、こぼれ球の回収が容易になっていたのはおもしろかった。相手は下がりながらの守備になるので、もしパスをカットできてもコントロールはむずかしい。なおかつ下がりながらなので、身体の動きと異なる方向へボールは転がっていく。いちど止まってから方向転換しなければならないので時間もかかる。一方で愛媛の選手たちはボールのほうからむかってきてくれるので回収しやすくなる。相手がクリアーしきれないので、頭を越えていくようなボールにもなりにくい。
 前節までできていなかったことができるようになっている愛媛。ボール保持が安定し、あたりまえのようにハーフウェイラインをグラウンダーで越えていく。一方で、攻から守への切り替えのところで最終ラインがさらされてカウンターを受ける機会がおおく危なっかしかった。だが、センターバックのふたりが対人の強さを発揮して守ってくれていた。鈴木選手の能力には今更おどろかないが(ほれぼれとするが)、小川選手の安定感には目をみはった。1対1のピンチがなんどかあったが、あわてずに中へのコースをけしてサイドへ追いやっては、危険な位置で足をふらせなかったり、味方がもどってくる時間をつくりだしたりしていた。圧巻だったのは22分。愛媛右サイドでのボール保持からバックパスを山中選手にかっさらわれて1対2の大ピンチになった場面。小川選手はすぐさまペナルティーアークまでもどると、山中選手へ無暗とつっかけずに迎え撃った。ちょうどファーのシュートコースをけしているようにもみえ、山中選手も山本選手へのパスを選択する。が、小川選手はパスがだされても対応できる距離をとりつづけていたうえ、背中をとられないようていねいに身体の向きも調整していたため、パスがでた瞬間山本選手のシュートコースをけしに動けていた。
 攻撃面でも、ビルドアップ時、前方へ身体をむけながらパスを受けていたり、まえにスペースがあればドリブルで運んだりと頼もしい。13分に狭いところをとおした縦パスにはしびれた。チャンスがあれば利き足ではない右足でのパスにトライしていたのも頬笑ましかった。
 相手をみながらサッカーができている愛媛。27分に近藤選手のシュートが決まって先制に成功する。近藤選手のシュートは相手にあたって軌道が変化していたのでラッキーな部分はあった。しかし、これまでの前線の個でむりやりなんとかしてしまうスーパーゴールというよりも、相手をおしこんでいたからこそ生まれうる得点にみえた。その後はカウンターから決定機をつくられつつも、1―0のまま前半を終えた。

 ハーフタイムに長野が選手交代。前半ラストで負傷した秋山選手に代わって乾大知選手が出場した。
 後半開始直後にスコアが動く。池ヶ谷選手からのロングパスを山本選手がヘディングで逸らすと、前向きに森川選手がひろってクロス。三田選手が頭であわせてゴール右下へ流しこみ、後半開始1分で長野が追いついた。
 うまく後半にはいれなかった愛媛。立ち上がりだからだろうか、守備が整っていない状況にもかかわらずいたずらにプレッシングをしかけてしまい、長野の攻撃のスイッチをおしてしまった感がある。三原選手がサイドの守備を捨ててまで山本選手へ競りにいかなければならない状況とはいったい。
 愛媛は失点後のリスタートにも失敗し、なかなかマイボールにできないでおしこまれてしまう。それを尻目に長野は森川選手が躍動。左サイドを突破しつづける。クロスを浴びつづける愛媛はようやっと跳ね返すのが精一杯で、ボールが転がって来ない側になってしまう。そうして51分に、やはり左サイドを抜けだした森川選手からクロスをあげられてしまうと、乱雑となったゴール前でクリアーできないでいるうちに、佐藤祐太選手に巧みなボレーシュートで逆転弾をきめられた。
 流れをつかめない愛媛。53分、鈴木選手が山本選手と空中戦で接触。鈴木選手はそのまま栗山直樹選手と交代した。頭同士がぶつかっていたので心配だ。山本選手はプレーに戻れていたのでひと安心。受け身がとれない状態で落下していたからこわかった。
 愛媛は前節も佐藤諒選手が脳震盪の疑いありで交代していているので、こわくて心がかりな出来事がつづいた。試合においても、自陣でのボール保持に安定感をもたらしてくれている鈴木選手の負傷は痛い。はたして彼なしで前半のようなサッカーができるのだろうかと心配にもなった。栗山選手は対人の守備でつよみをみせてくれる一方で、攻撃面では時折ロングパスをみせてくれる以外は黒子に徹することがおおい。みずからドリブルで運んだり、2ライン間へ縦パスを狙うことはすくないため、愛媛はボール保持の機会が減るとおもわれた。実際、その後も長野におしこまれる時間がつづいた。だが、60分に長野のコーナーキックをGK徳重選手がキャッチングで防ぐ。すばやいリリースから小原選手のドリブルでの陣地回復を生み、チームは落ち着きをとり戻した。それから愛媛は、相手陣内での安定したボール保持を前半のようにみせはじめた。
 ボール保持が安定したことで持ち味をふたたびみせはじめたのが小原選手。今季、連勝中のころは高い技術を存分に発揮していたが、しだいにひとりでドリブルをしかけがちとなり、相手に脅威をあたえるまえにつぶされてしまうことがふえていった。ドリブルは彼の武器だが、それ以上にボールを失わない技術やサッカーへの理解の深さは相手に脅威をあたえる。ひたすらドリブルで前へいくしかない展開をおしつけるよりも、1対1の勝負ができる状況をつくってあげたほうが輝く。この試合では、ひさしぶりに彼の1対1でのかけひきのうまさとかボールを失わないプレーなどがみられて安心した。
 相手陣内でのボール保持ができている愛媛。自陣でのボール保持はどうかというと、長野がプレッシングをはじめる高さの関係もあるが、わりと持てていたし、持とうともしていた。おもしろかったのが栗山選手。ドリブルで運んだり、相手をかわそうとしたりと、普段みせないプレーを選ぶことがあった。セーフティーに前へ蹴るだけでなく、相手を引きつけようとプレーしてもいたので、チームの戦い方の変化を象徴するようにみえた。
 1―2で負けている時間がつづいたものの、あせりを感じずに試合をみることができた。このサッカーができるなら、負けてしまってもかなしくはないとすらおもえた。同時に、いずれ追いつくとも感じられていた。なので、87分(86分?)に同点に追いついたのも、やったぜってよろこびはもちろんあるのだけれど、やっぱりねって納得感のほうがつよかった。それはべつとして、吉田選手の復帰後初ゴールはうれしいかぎりだった。
 同点にした直後、88分にはカウンターから2対3のピンチを迎えたが、ここでも小川選手が冷静に中央へのルートをふさぐアプローチと、加速した相手についていく粘りづよさをみせて防いでくれた。頼もしい。
 2―2のまま試合終了。前期に引きつづき、たがいに点をとりあってのドローで決着した。

 ユニークな可変をおこなうAC長野パルセイロ。サイドの選手に時間とスペースをあたえたあと、急ぎすぎずにチーム全体でラインをおしあげるのがうまかった。後半のはいりの高い集中力には脱帽。元愛媛の東浩史選手も元気そうでよかった。
 前節までとは一変した愛媛FC。前節も前半飲水タイムまではわるくなかったところを考えると、変化はすでにあらわれていたのかもしれない。変化はやはり、ロングボールの多用をやめたこと。相手陣内で球ぎわをつくりまくっておしきろうとするのをやめて、相手を動かして自陣から地道に攻めあがっていった点。小生、石丸監督の目指すアタッキングフットボールはストーミングの方向にあるのではと認識しなおしたところだったので、この試合は、石丸監督がその路線をひっこめて、選手たちの特性を活かしたポゼッションのほうへ舵を切ったものとうつった。あと7試合、この試合のようなサッカーのほうが選手たちは断然やりやすそうなので継続して見たい。目指せ勝率5割超え。それはともかく、前田凌佑選手が久しぶりに出場してうれしかった。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。またね。

試合結果
 愛媛FC 2―2 AC長野パルセイロ @ニンジニアスタジアム

得点者
  愛媛:近藤貴司、27分 吉田眞紀人、87分
  長野:三田尚希、46分 佐藤祐太、51分