J2第1節 東京ヴェルディ vs. 愛媛FC 2021.02.28(日)感想

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 人の情につけこんで世界中を跋扈するウイルスによってもたらされた困難なシーズンを、人情で乗り越えると決めた愛媛FC。それが叶うとしたら痛快だし、そう願っている。チームは川井健太前監督から和泉茂徳新監督となった。前監督の築きあげたポゼッションは継続しつつ、「攻撃的な守備からシンプルにゴールを目指す」(『Jリーグ選手名鑑2021 エルゴラッソ特別編集』p.248)という。攻撃的な守備というなら川井前監督のときからピッチ上にあらわれていたし、むしろ監督自身しきりと口にしていたとおもうのだけれど、どうなんでしょう? 本義は「シンプルにゴールを目指す」にあるのだろうけれど、シンプルであるためにはそれ相応の強度が必要になるが、はたして。ということで、新しくなるのか継続するのかもう一度やりなおすのか戸惑いつつ過ごすオフシーズンだった。
 ところでオフシーズンはサッカーについての理解を深めるはずだったが、本を読んだり、雲の速度を計算してみたり、スマホの指紋認証が機能しなくなったり、北大西洋で繰り広げられる駆逐艦と潜水艦の攻防を手に汗握って見守ったりするのに忙しくてあまり試合をみられなかった。「欧州サッカーをみていたのに、気づけばサッカーゲームをはじめていた」の達人になったりもした。誠に遺憾である。いまだにライン間で息ができない。
 開幕戦で対するのは東京ヴェルディ。オフシーズンはピッチ外が騒がしかった。3年めのシーズンを迎えた永井秀樹監督は80パーセントのゲーム支配をテーマに掲げたという。井上潮音選手や藤田譲瑠チマ選手といった主力がJ1チームへ旅立っていったが、でもまだこれだけ才能あふれる選手たちがいるよね? と選手層が厚く、集大成をみせるシーズンとなるか。この試合、スタメンには17歳の阿野真拓選手が、ベンチには15歳の橋本陸斗選手がはいった。センターバックの馬場晴也選手なんかカイゼル髭が似合いそうなのに19歳だった。
 J2第1節、東京ヴェルディ対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

 開始2分にヴェルディセンターバックの加藤弘堅選手がとんでもない技術を発揮する。最後方までボールをもどして組み立てなおす場面、自陣ペナルティーエリアから愛媛左サイドの裏までワンタッチパスをだしたのだ。
 愛媛は相手ボールのとき4―4―1―1になる。セカンドトップともトップ下ともいえそうなポジションの近藤選手が、アンカーの山本理仁選手をマークするためそういった形になる。2分の場面では、相手のバックパスにあわせて前線と中盤の選手たちが前へでていき、藤本佳希選手と近藤選手が2センターバックを、サイドハーフがサイドバックをつかまえにいった。マークがはずれる山本選手のことは山瀬功治選手がみるようにしていた。そうすると今度は2ライン間で佐藤優平選手がフリーになる。なので前野選手がつかまえにいっていた。こうして愛媛は1列ずつマークを受け渡すことで高い位置でボールを奪おうとした。が、マークを受け渡しきれない場所がある。ヴェルディの前線の選手たちだ。前野選手が佐藤優平選手へいく分、タッチラインぎわの阿野選手をみる人はだれもいなくなる。とはいえ、そもそもそこまでパスがでてくることは滅多にない。滅多にないはずなのだ。はずだったのに。加藤選手。

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 一方で、愛媛サイドバックがヴェルディのインサイドハーフ(フロントボランチ)によって中央に留められ、大外の阿野選手と小池純輝選手をケアしづらい仕組みになっているのを示唆する場面でもあった。もし愛媛が相手陣内でのボール奪取を掲げるのであれば、最終ラインでの数的同数のリスクを受け入れてでも、浦田延尚選手が佐藤優平選手をみにいかなければならなかったのかもしれない。加藤選手のような規格外なパスをだせる選手がいるチームを相手にするときは(そういうチームはもはやJ2でもめずらしくなかろう。……規格外?)、そうしたリスクを冒さないと相手陣内でのボール奪取はむずかしそうだ。むしろ、そのリスクを負って勝ち点3を獲得したのが昨季のアウェーでのヴェルディ戦だった気がする。

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 スポットライトはひきつづき加藤選手にあたる。彼はビルドアップの際にボランチの位置へ上がることもおおかった。
 愛媛はヴェルディに1―2列めのあいだをつかわれないよう近藤選手が山本選手をマークしていた。なので山本選手に前をむかせる回数はすくなかったのだが、代わりに1列上がってきた加藤選手に1―2列めのあいだをつかわれてしまった。繰り返しみられたのが、右サイドの若狭大志選手がボールをもちあがってから、空いた1―2列めに加藤選手が顔をだして横パスを受け、左サイドの小池選手へロングパスを送ったり、2ライン間の梶川選手へ縦パスを刺す形だった。
 加藤選手を放置していたらえらい目に遭うので、やがて近藤選手が加藤選手を見、藤本選手が山本選手をみるような形になった。9分にはこうして中央をふさぐと、最終ラインからサイドへでたパスを(パスにズレはあったものの)前野選手がインターセプトする場面が生まれた。ただ、相手陣内でボールを奪えたからといってシンプルにゴールを目指せるかどうかはべつの話である。シンプルであるためにはそれだけの力がいる。

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 10分以降ボールをもつ機会がでてきた愛媛。左サイドバックの裏を突くことでチャンスをつくろうとしていた。何回かみられたのが、タッチラインぎわに張った小暮大器選手へボールをとどけ、左サイドバックの福村貴幸選手を最終ラインから引っぱりだす形。そうして生まれた彼の背後のスペースへ藤本選手が走りこんでいた。またこのとき、近藤選手が相手2列めの選手たちをひきつけておくことで小暮選手へのパスコースを確保しつつ、茂木力也選手から裏を突くボールがでたら、すぐさまスプリントしてゴール前へ詰めにいっている。20分にはこの形で近藤選手がシュートまでもっていけた。
 一方で、左サイドバックは前野選手なので、こちら側は比較的ショートパスでボールを前進させることがおおかった。同時に、前野選手と川村拓夢選手のサイドコンビなので、ボールを失ったあとすぐさま奪いにいく動きに強度があった。左サイドから前進し、パスがつながらなくともパスコースを限定して高い位置でボール奪取。さきに挙げた9分の場面では至らなかったものの、シュートまでいく機会もあった。
 とはいえ、昨季に比べてビルドアップの過程を省略している愛媛。相手を動かしてボールを前進させるよりも、ロングボールをサイドに送りこみ、こぼれ球を回収することで相手陣内でプレーをはじめようすることがおおかった。が、こぼれ球をなかなか回収できなかった。ロングボール一発でビルドアップする場合、こぼれ球をひろえないと危機に陥りやすい。中盤の選手たちはボールをひろうためにボールサイドへよるから、中央や逆サイドにスペースが生まれ、相手はカウンターを打ちやすくなるようだ。わーお。

 先制点は37分にヴェルディが決めた。愛媛陣内で攻守が切り替わりつづけるなか、馬場選手がすこしだけズレと時間をつくるキープをみせると、そこから福村選手、山本選手、佐藤優平選手へと愛媛のプレッシングのズレを利用してつなぐ。刮目すべきは佐藤優平選手。見事なターンで前をむき、小池選手をマークする茂木選手を困らせた。マークする小池選手についていくべきか、むかってくる佐藤優平選手をみるべきかの無理な選択を迫られたため、どちらへもつよくいけない状況を強いられてしまった。そうした過度な緊張下にあったためか、小池選手にパスがでたあと、めずらしく茂木選手はスライディングでボールを奪いにいっている。しかし小池選手に切り返されてしまった。放たれたシュートはうつくしかった。
 相手に飛びこんでいって自分の身体を不自由にしてしまうプレーが、後半にはいると愛媛にふえていく。スライディングをはじめとした、みずからの姿勢をくずす飛びこみ方をしてしまうことで、ヴェルディの選手たちに時間とスペースをあたえてしまっているようにみえた。今季の愛媛はひたむきにゴールを守ることもテーマにしているが、それがよろしくない方向に発露されているように感じてちょっとこわかった。
 気をとりなおして攻めにでたい愛媛。41分には左サイドをくずしてペナルティーエリア内へ進入しかけた。前野選手と川村選手、山瀬選手の3人に加えてトップ下の近藤選手もサイドでのトライアングル形成を担っていた。本職であるサイドバックで起用された前野選手は、高さでいえば2列めのあたりまで上がっていった。チームとしても、なるべく前野選手をサイドでフリーにさせようとする意図があった。前野選手が相手のセンターバックとサイドバックのあいだを狙ったミドルパスをだせる状況をつくり、川村選手や藤本選手がそこへ走りこんでペナルティーエリアの角からゴール前へ進入していこうとしているようだった。
 ビルドアップの中枢を担う前野選手を前方へおしだすので、2センターバック、とくに前野選手ととなりあう左センターバックの選手がボール保持で重要になりそうだった。センターバックのふたりでボールを運べるか否か。ということで、がんばって、浦田選手。
 前半も終了間際になると、先制したこともあってか、ヴェルディはむりに自陣でボールをつながない一方で、愛媛が高い位置でプレッシングにこなければ最終ラインで保持しておびきだす冷静さをみせた。45+3分には、最終ラインでボールを動かしてから、1―2列めへ下がってきた佐藤優平選手が右サイドの裏へロングパス一閃。若狭選手が抜けだしてクロスを上げると、小池選手が胸トラップからハーフボレーでシュート。ゴール左下に決めてヴェルディが追加点を奪った。
 ずっとヴェルディが狙っていた形にもみえた。ここでは佐藤優平選手が下がりめの位置にいたが、代わりに若狭選手が高い位置へでていくことで、阿野選手とともに前野選手に2対1の状況をつくっていた。愛媛はサイドハーフが最終ラインまでアプローチへいくようになった以上、内へはいっていた阿野選手を前野選手がみる必要があり、どうしたってタッチラインぎわの若狭選手を放置することになる。その若狭選手をみるために、浦田選手が中央からサイドへひきずりだされていた。なのでゴール前は3対3。なおかつ中盤から下がって守る田中裕人選手の逆を突く形で小池選手にクロスが渡っているため、せっかく戻ってきた田中選手も小池選手につききれなくなっていた。そして小池選手のシュートはうつくしかった。
 佐藤優平選手の優雅さと小池選手の逞しさによって2点ビハインドで前半を終えた。

 後半立ち上がりは愛媛が攻守でアグレッシブに攻め急いだ。攻撃では宛て先のないクロスを上げ、守備では連動しないプレッシングをみせてしまった。とくに1―2列めのあいだに生まれるスペースに顔をだす梶川選手によってプレッシングを軽やかにいなされてしまった。しかしながら、逆サイドへ展開されたところを前野選手や川村選手がボール奪取に成功して決定機をもたらすこともあった。
 ところで小生、これまでに「ビルドアップの出口」という言葉をおおく目にしてきたのだが、その意味が皆目見当つかなかった。だが、梶川選手のような位置でボールを受けることをそういうのかもしれないと感じた。相手のプレッシングが効かなくなり、ボールをおおきく前進させるチャンスになるプレー。どうなんでしょう? 余談ですが、スペイン語で出口をサリーダというのは知っていたので、映画『リメンバー・ミー』で看板に書かれている「Salida」という言葉が出口だとすぐに気づけてご機嫌になったことがあります。小生、ちょろい。ちなみにスペイン語はその1語しか知らないので、もし将来的にスペイン語圏へいくことがあったらもれなく迷子になるほかありません。Salida, salida, salida!
 58分にヴェルディが最初の選手交代。端戸仁選手に代わって松橋優安選手が出場する。松橋選手は左ウイングにはいり、小池選手が右ウイングにまわった。そして阿野選手が端戸選手のポジションを担った。中央にはいった阿野選手は2ライン間にスペースをみつけて縦パスを呼びこんでいた。あと、小柄ながらボールを守るのが巧みで目を瞠った。
 65分には愛媛が選手交代。山瀬選手に代わって前田凌佑選手が、前野選手に代わって内田健太選手が出場する。愛媛のプレッシングは時折ヴェルディのパスミスを誘発してはいたが、ゆったりともたれてしまうと手がつけられない。それでも高い位置でボールを奪うなら前に人数をかけなければならない。そうしてできてしまう中盤の広大なスペースを前田選手に埋めてもらう意図があったのかもしれない。前野選手から内田選手への交代は、相手陣内でボールを動かすのはやめるということだったか。
 選手交代をおこない流れをつかみたい愛媛だったが、66分にヴェルディがとどめの3点めをきめる。選手交代後、マイボールにする機会がないまま自陣におしこまれると、左サイドを突破され、松橋選手にクロスを入れられてしまう。これを浦田選手がクリアーしきれなかったうえ、不運にもこぼれ球はゴール前へ走りこんでいた山本選手のもとへ。しっかりきめられてしまった。山本選手、いつの間にゴール前にまで顔をだすようになったんですか? 2年まえ、左足でとんでもないパスをだす高校生がいると驚愕したのをしみじみと思い出す。
 70分には藤本選手に代わって吉田眞紀人選手が出場。愛媛はボール保持の機会を前線へのロングボールに費やし、吉田眞紀人選手をターゲットにしてこぼれ球の回収を狙った。空中戦に吉田眞紀人選手が勝てていたので、ヴェルディをおしこむことができていた。そのうえ、疲れのためか、はたまたお付き合いしてくれたのかヴェルディもロングボールを蹴る場面がふえ、愛媛はボールを相手陣内でもてるようになっていく。ヴェルディにとってゲームのなかで支配しない20パーセントの部分だったのかもしれない。もっとも、相手陣内でボールをもてても前野選手はもういないのだが。せっかく高い精度のクロスを蹴れる内田選手がいながら、彼がクロスを上げてチャンスという場面も、このときはまだほとんどみられなかった。
 79分にはなんとまだ中学生という橋本陸斗選手が出場。大学生・高校生年代の選手たちをプロに送りだしつづける東京ヴェルディ。ついに中学生たちにまで「オレと同い年なのにプロなのか」と焦燥感をあたえはじめる。いや、森本貴幸選手も中学生デビューだったか。橋本選手は81分に愛媛のパスミスからはじまるショートカウンターに乗ってゴール前へ顔をだして決定機を迎えるも、スライディングシュートは枠をとらえなかった。ひやり。
 ボールをつなぐのか、それとも蹴っ飛ばすのかわからなくなりはじめた愛媛。そのなかで吉田眞紀人選手は前線で起点となってチャンスをつくってくれていた。82分にはそうして生まれたチャンスで左サイドから内田選手がクロスを上げるも、中央に飛びこんできた小暮選手にはバウンドがあわなかった。やはり内田選手のクロスは物が違った。興味深いのが、クロスはクロスでもハイボールではなく、グラウンダー気味のものがおおかったこと。2ライン間を横に貫くパスをより送りこめれば、決定機もふえていきそうだ。きっと。
 同じく82分には前田選手のボール奪取からカウンター。川村選手とのコンビネーションでペナルティーエリア内への進入に成功し、ゴールラインぎわから中央へ折り返し決定機。しかし山本選手の身体を張ったプレーによってシュートまでは至らなかった。
 その後も吉田眞紀人選手の高い位置でのプレッシングが奏功したり、新しくはいった選手たちの活動量によってショートカウンターを打つ機会をえたりしたが、一矢報いることはできなかった。ところで、試合終了間際になってもスプリントをかけていた近藤選手はさすがだった。
 3―0で試合終了。東京ヴェルディがホームでの開幕戦を見事ものにした。

 ピッチ外が騒がしく、東京ヴェルディのファン・サポーターたちは不安だっただろうが、選手たちのプレーぶりに安堵できたのではないか。80パーセントのゲーム支配をかかげる永井監督だが、できてしまいそうな空恐ろしさがある。継続って大事。選手ではセンターバックの馬場選手が気になった。序盤は縦パスがなかなかとおらなかったものの、そういうパスを狙っているという時点で脅威だった。空中戦のボール処理も、自陣で相手を背負ったプレーも安定していた。あたりまえのようにドリブルで運ぶし。末恐ろしい19歳だった。
 双曲線上で川井前監督と別れた愛媛FC。昨季からトライしている高い位置でのボール奪取を自由自在に駆使するにはまだまだ時間がかかりそう。でも、それができないと監督交代の意味はない気がする。川井前監督は時間がないなかでも、愛媛FCらしさを体現するためそこに挑戦していたのだし。しかしながら、強度はさておき、90分間前から追いつづける姿勢をみせていたのはよかった。どうにかものにしてほしい。
 理想に高いとか低いとかあるのかわからないが(それはつねに完璧を指すはずだから)、高い位置でのボール奪取はサッカーの理想の一面であろう。カウンター一発でゴールを奪えるのはサッカーの理想だが、実際は近くて遠いゴールの前で右往左往するものだ。理想への道はながく険しい。プラトンによれば、それはこの世界の裏側にあるらしいし。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。またね。

試合結果
東京ヴェルディ 3―0 愛媛FC @味の素スタジアム

得点者
東京Ⅴ:小池純輝、37分、45+3分 山本理仁、66分
愛媛: