J3-第5節 愛媛FC 対 SC相模原 2022.04.10(日)感想

 愛媛FCのスタメンはGK徳重健太、DF鈴木大誠、栗山直樹、大城蛍、MF三原秀真、横谷繁、矢田旭、高木利弥、茂木駿佑、佐々木匠、FW近藤貴司の3-4-2-1。前節Y.S.C.C.横浜戦から3バックを継続。ベンチには復帰してきた選手の名前がちらほらみえてきた。
 SC相模原のスタメンはGK圍謙太朗、DF川﨑裕大、水本裕貴、藤原優大、MF石田崚真、中島賢星、田中陸、福島竜弥、藤本淳吾、船山貴之、FW安藤翼の3-4-2-1。前節松本山雅FC戦では1-4と手痛い敗戦を喫してしまう。とくに3点めは自陣でのボールロスト、4点めは試合終了間際といやなかたちと流れでの失点だった。フォーメーションを3バックにかえ、前節を払拭すべくニンジニアスタジアムにのりこんだ。
 J3第5節、愛媛FC対SC相模原の試合をざっくりとふりかえっていく。

 3―4―2―1同士ゆえ、たがいに相手陣内での攻防はマンツーマン気味にかちあう。なので相手のプレッシングを回避していくために、フリーの選手をつくるところからはじめなければならない。
 相模原がおこなったのは、ボランチの中島選手を最終ラインに下げて4バックにするかたち。アンカーとして田中陸選手を残していた。愛媛はブロックを敷くとき、シャドーがすこし前めの5-2-3でかまえていた。田中陸選手は愛媛の前線と中盤の5人に囲まれることになる。だがそれゆえ、はっきりとマークされているわけでもなかった。
 相模原のセンターバックは、プレッシングにあっても角度をつけて田中陸選手へパスをだす技術があった。そのため愛媛はなかなかプレッシングをはめることができなかった。ならば田中陸選手のところで球際をつくれればいいのだけれど、それをさせてもらえない仕組みになっていた。相模原のシャドーは藤本選手と船山選手。さすがプレーの一つひとつにサッカーへの理解の深さを感じさせる両選手、愛媛ボランチの脇に顔をだすことで、矢田選手と横谷選手の後ろ髪をひき、田中陸選手へよせにくくさせていた。8分には藤本選手が顔をだすことで矢田選手が前へでにくくなり、田中陸選手をフリーにさせていた。なおかつ川﨑選手から安藤選手への縦パスのコースを空けさせていた。11分には船山選手が下がってきて横谷選手を牽制。そのうえ、田中陸選手にパスがはいり、横谷選手がそのマークへむかえば自身がフリーになれる2段構えにもなっていた。

 どうにも相模原のボール保持は機知に富んでいてとらえがたく、中盤まで運ばれてしまうと愛媛は自陣深くまで下がって守らざるをえなくなっていた。なので、できれば高い位置からプレッシングをかけにいきたい。彼らのボール保持が安定するまえの段階でボールを奪いとり、相手陣内でのプレー時間をふやしたいところ。そこで奮闘していたのが近藤選手。持ち前のスタミナとスピードで積極的にキーパーまでアプローチしてビルドアップをむずかしくさせていた。3節のいわきFC戦ではめずらしく途中交代していたので、彼もコンディションが整わずに無理して出場しているのではないかと心配になったが、前節、今節とパフォーマンスをみるに大丈夫そうで安心した。
 相模原のボール保持で特徴的だったのが、スイッチを入れるパスがはいると、そこからファイナルサードまでワンタッチやツータッチでつないでいこうとする点。なので、攻めはじめるとあっという間に愛媛ゴール前に迫ってきていた。ただ一方で、すくないタッチ数でパスをつなぐとなると、やはり判断の正確性も技術の難易度も高まるのでミスもおおかった。また、加速する攻撃にたいして、味方がいてほしい場所/いるべき場所に間に合わない場面もみられて悩ましい。
 立ち上がりおしこまれる時間のつづいた愛媛だったが、12分のボール保持を境に態勢をたてなおしはじめた。相模原は5-4-1のブロックを敷き、プレッシングをはじめる位置をハーフウェーライン付近にしていた。そのため愛媛は自陣深くからビルドアップしていく必要がなかった。中盤エリアでボールをもてれば、相手が1トップなので容易に数的優位をつくってボール保持ができる。
 愛媛は、鈴木選手か大城選手のどちらかが前へでれば、一方が残って栗山選手と2バックになる。さらに鈴木選手があがったときは茂木選手が、大城選手が前にでれば矢田選手が下がってきてボール保持を助けていた。そうして横谷選手が中央、佐々木選手が相手の2ライン間にとどまれるようにしていた。
 この試合の愛媛のボール保持でおもしろかったのが、間をつくれるようになってきたこと。間をつくるのがうまかったのが鈴木選手、横谷選手、矢田選手。間のつくり方はいろいろ。センターバックと中盤の選手でのパス交換であったり、相手ゴール方向をむいて足もとにボールをキープしたり、横へ数歩分のドリブルだったり。間をつくると攻撃を整えることができる。味方が立ち位置をとる時間をえられるし、チームの重心を5メートル、うまくいけば10メートルあげることだってできる。さらには、相手が間をきらってみずから立ち位置をくずしてくれるかもしれない。今季の愛媛はなかなか間をつくれず、単調な攻撃に終始してしまうことがおおかった。高い位置からのプレッシングを武器にするチームとの対戦がおおく、ボールを保持できなかったのが原因。であれば、今後そういったチームと対戦したらどうなるかわからない。だがすくなくとも、ボールを持たせてもらえればこれぐらいできるとみせてくれて安心した。
 たがいにボールをもてばハーフウェーラインを越えていく展開で前半は推移したものの、決定機と呼べる機会もたがいにすくなかった。相模原が自陣からつないで船山選手のシュートへいたった40分の場面はすばらしかった。が、GK徳重選手がファインセーブでしのいだ。こぼれ球をクリアーした大城選手、瞬間的なプレーなのに、胸トラップで冷静にボールをコントロールしていてすばらしかった。

 両チームとも交代なしで後半へ。
 後半主導権を握ったのは愛媛だった。なにかの間違いかとおもったけれど愛媛だった。もうしばらく、愛媛が主導権を握った試合をみていなかったので戸惑った。
 かたちがありそうだと感じたのが右サイド。うまく菱形をつくれていた。鈴木選手の前に三原選手と横谷選手(もしくは茂木選手)、トップの位置に茂木選手ないし近藤選手が位置をとり、ボールホルダーにふたつ以上のパスコースをあたえようと動いていた。鈴木選手の立ち位置は気持ちのいいものだった。相手陣内でボールの前進が詰まっても、彼が相手につかまらない場所に位置しているおかげで攻めなおしができていた。なにより相手に寄せられてもワンタッチでさばけるのが頼もしい。また、縦パスを狙える視野と技術をもつため、2ライン間へのパスもばしばしとおしていた。
 たいして左サイドはどうかといえば、これまでの試合で狙ってきた攻撃のかたちが具現されつつあると感じた。これまで左サイドでは、ロングボールを相手の背後へ蹴りこみ、裏へ抜けるないしはこぼれ球争いに勝利することでボールを前進させようとしていた。相手を自陣に引きつけ、背後にできたスペースを突いていく狙いだ。だがいわき戦では相手の高強度のプレッシングを前にディフェンダーを背走させる飛距離のロングボールを蹴れなかったり、前の選手たちの準備が間に合わずこぼれ球争いがそもそもできなかったりと苦しんでいた。しかしこの試合では矢田選手を起点にロングボールで相手を背走させ、こぼれ球を2ライン間でひろって前進するかたちがみられていた。いわき戦ではロングボールを蹴る位置がサイドバックの高木選手だったので、1列前の選手から蹴れるようになったのもおおきいのだろう。
 なかなかどうしてうまくいっているじゃないかとおもう一方で、気になるのが佐々木選手。前節YS横浜戦後に、自分が仕掛けてボールを運ぶ、もしファウルを受けても高い位置から攻撃がはじめられるとコメントしていたので、彼にはドリブルで仕掛ける役割が課されているのかもしれない。この試合でもドリブルでしかけてファウルを受けたり、ペナルティーエリア深くへ切りこんだりとチャンスをつくってくれていた。が、あなたならもっとサッカーから自由になれるんじゃないかな? ともったいない気もしてしまう。ひとりでサッカーしているわけでもあるまい。
 62分に相模原が最初の選手交代。船山選手に代わって持井響太選手が、安藤選手に代わって藤沼拓夢選手が出場。
 愛媛の最初の交代は66分。横谷選手に代わって前田凌佑選手が出場する。その直後にトラブル。佐々木選手と石田選手が頭どうしをぶつけてしまう。治療を経たタイミングで相模原は中島選手に代わって中原彰吾選手が、福島選手に代わって夛田凌輔選手が出場。愛媛も佐々木選手に代わって佐藤諒選手、三原選手に代わって忽那喬司選手が出場した。忽那選手はこれが今季初出場。読みのよい動きだしからインターセプトしたかとおもえば、相手のスライディングをジャンプでかわす離れ業までみせてくれた。忽那選手は右ウイングバックにはいり、佐藤選手が右のシャドー。茂木選手が左のシャドーへ移った。ベンチに下がった佐々木選手だったが、その後元気そうな姿をみせていたのでひと安心。石田選手もプレーをつづけており、大丈夫そうでよかった。
 あわただしく選手交代がおこなわれたあとは、愛媛が相模原陣内でプレーする時間が長かった。しかし決めきれないでいると82分、こぼれ球を回収し損ねたところから相模原のカウンターを受ける。持井選手がドリブルでペナルティーエリア付近まで運べば、藤沼選手はタメをつくってマイナスのパス。ペナルティーアーク付近に走りこんだ藤本選手がゴール右隅へ決めて相模原が先制した。藤本選手を褒めるしかないスーパーゴールであった。月間ベストゴール待ったなし。というところで藤本選手はお役ご免。浮田健誠選手と交代した。
 さて、これだけ戦えている試合で勝てないと心塞がれるが、愛媛の選手たちはリスタートからボールを前進させることに専心。相手陣内でのプレーをつづけ、その結果えたコーナーキックから84分、鈴木選手が決めて同点に追いついた。
 88分に愛媛は最後の選手交代。高木選手に代わって森下怜哉選手が、茂木選手に代わって行友翔哉選手が出場する。おどろいたことに、森下選手はそのまま左ウイングバックにはいった。
 直後の89分。GK徳重選手からのロングフィードを森下選手が頭でさわると、相手にあたったリバウンドを回収。そのまま中央へドリブルで運び川﨑選手を引きつけ、背後にできたスペースへ走りこむ行友選手へスルーパス。いつ見てた? いつ出した!? 行友選手がエリア内で右足をふりぬき、ゴールマウス逆へ決まって逆転。おそるべしハイティーン。
 いわき戦では行友選手の同点ゴール直後に追加点を決められてしまったが、この試合は6分のロスタイムを堪えしのぐ愛媛。いわき戦と同じような位置からのフリーキックのピンチもはねのけ、逆転でのホーム初勝利。昨年4月以来約1年ぶりの連勝を飾った。

 高木琢也監督が率いるチームとの試合は劇的だ。2019年のホーム大宮アルディージャ戦(5-1〇)、2020年のアウェー大宮戦(3-3△)、2021年のホームSC相模原戦(1-2●)と毎年感情と理性が七転八倒する試合をみせてくれる。ボール保持が洗練されているのはさすが。一方、試合後のコメントで、攻撃時のコントロールをもうすこしすべきだったと藤本選手が述べているとおり、攻撃がはやすぎて相手ゴール前まで追いついていないようにもみえる。もっとも、高木監督だし、藤本選手をはじめとした経験豊富な選手たちもおおいし、あっさりと解決して波にのれそうな気もする。
 ブラボー、愛媛FC。いわきFC戦後はどうなることかと心配したが、4節5節と勝つことができて安堵した。もちろんまだ負け越しているし、高い位置からプレッシングをかけてくるチームと対峙したときにどうなるかもわからない。それに、去年大宮と松本山雅FCに連勝したあと、あっさり規律を失って瓦解していったのもみてしまっているので、どこかしら不安は残る。ならないとはおもうけれど。ならないよね?
 ところで三原選手が成長著しい。縦にしかけてクロスを上げ切ったり、ペナルティーエリア内へ切りこんでシュートを打ったり。守備面でも安心してみていられるし、世代別の代表にまた選ばれそうな勢いだ。
 あと栗山選手。もっと局面をかえるパスがみたいとおもっていたら、なんどもひとつ飛ばしのパスをだす場面がでてきた。空中戦のつよさももどってきたように感じる。頼りにしていますよ。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。またね。

試合結果
 愛媛FC 2-1 SC相模原 @ニンジニアスタジアム

得点者
 愛 媛:鈴木大誠、84分 行友翔哉、89分
 相模原:藤本淳吾、82分