J2第5節 栃木SC vs. 愛媛FC 2021.03.28(日)感想

01_スタメン

 愛媛FCは前節ヴァンフォーレ甲府と対戦。相手陣内でボールを保持する時間をつくりながらも、セットプレーから失点すると、それ以降調子をとりもどした甲府のペースになってしまい、ホームで0―1の敗戦となってしまった。が、どちらかといえば、甲府は前半、今季からスタイルがかわったと噂される愛媛の様子をうかがっていただけのようにもみえた。
 先制点の生まれたセットプレーは、有田光希選手のポストプレーによって、甲府が愛媛陣内でプレーをはじめられたことによって得られていた。ビルドアップでうまく前進できていなかった甲府だったが、ここから吹っ切れたようにボールが前にすすむようになった。有田選手には、得点ではないものの、ちゃっかり恩返しされている。
 開幕戦で高い位置でのプレッシングによる消耗とむきあわされて以来、体力温存のためにもボール保持の時間をふやそうとしている愛媛FC。いまのところ、自陣でボールをもつというよりも、ロングボールのこぼれ球をひろうことで相手陣内でボールをもつ時間をふやそうとしている。前節では、相手をおしこめば昨季のように迫力のある攻撃ができるとしめしもした。
 というところで、今節対峙するのが栃木SC。高い位置でのプレッシングを効果的かつ継続的におこなえる稀有なチーム。ボールをもつ時間をふやしていきたい愛媛にとって、間のわるいタイミングでの対戦となった。
 J2第5節、栃木SC対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

 愛媛のボール前進の頼みの綱は吉田眞紀人選手。彼が前線でロングボールに競り、そのこぼれ球をサイドハーフやボランチの選手がひろったところから攻撃ははじまる。なので、吉田眞紀人選手が空中戦で封殺されてしまうと困ったことになる。自陣からでられないんである。
 栃木のセンターバックは柳育崇選手と小野寺健也選手。どちらも空中戦で吉田眞紀人選手に勝利していた。今季初出場となった小野寺選手のところならば、緊張とか慣れとかの影響で勝機があるのではとたかをくくったら、一発めでおくれをとっただけで、あとはちゃんと封じていた。
 ロングボールを蹴り入れるとはいえ、やみくもに蹴ってしまってはすぐに跳ね返されてしまう。だから、愛媛も準備が整うまでは最終ラインでボールをもつ必要がある。吉田眞紀人選手がサイドへ流れ、サイドハーフと近藤貴司選手、それからボランチないしサイドバックがこぼれ球を狙える位置につかなければ、ボールを蹴り入れられない。なのだが、栃木はそうしたちょっとした時間すらあたえないハイプレスをしかけてきた。とくにジュニーニョ選手。二度追いもじさずになんどもボールホルダーへプレッシングをかけにいって、愛媛ディフェンス陣からボールをもつよゆうを奪っていた。そのプレッシングをいなして時間をつくれればいいのだけれど、どうにもうまくいかない。できていたことができなくなってしまうのは、まあ、みていてやるせなさがある。
 30分。愛媛陣内でのセットプレーから栃木が先制する。ニアゾーンに送りこまれたロブボールを中央に折り返すと、そのボールに飛びこんだ矢野貴章選手とGK秋元陽太選手が交錯。ボールはだれにも触れずにゴールへ吸いこまれかけたが、池田樹雷人選手がぎりぎりでかきだした。しかしそれをさらにクリアーするまでには至らず混戦になると、最後は大島康樹選手にきめられた。
 ということで前半は終始栃木がゲームを支配していた。ただ終わりぎわの44分に、前野貴徳選手が打開するすべを提示していた。栃木ディフェンスの前で吉田眞紀人選手を競らせるようなロングボールだったのを、サイドへ走らせるようなボールにかえたのだ。試合後、栃木のサイドバックの裏を狙っていたと和泉茂徳監督はおっしゃっていたが、ようやくこの時間帯ででてくるようになった。栃木はそれまで、サイドバックがでていっても、ボランチの選手が下がることでスペースをうまく埋めていた。そうすると中盤が空きそうなものだが、全体がコンパクトなのでスペースがあるようにみえないのがにくかった。このときは、下がりぎみの忽那選手をみるために、大島選手がちょっと前めにでていたので、その裏を突くことができたようだ。

 愛媛がチャンスをえた時間帯もあった。西谷優希選手が治療のためピッチをはなれた38分ごろのことだ。さすがにフィールドプレイヤー9人では高い強度のプレッシングをおこなえないので、栃木は自陣でブロックを敷くことになった。するとようやく、愛媛が相手陣内でプレーすることができるようになり、持ち味を発揮できるようになった。最大のチャンスは39分、前田凌佑選手のパスを忽那喬司選手がサイドで受けると、ペナルティーエリア内へしかけた。近藤選手がニアゾーンを突くことができ、ゴールラインぎわからゴール前へクロスをあげられた。だがかなしいかな。だれもつめていなかった。1点ものの場面だったのだが。なぜだ、マキト。なぜニアでパスを受けようとしたんだ。
 忽那選手だが、足もとの技術だけでなく、ドリブルでしかけることも武器になりそうである。昨季はしかけることができても、それをどう活かせばいいのか手探りしている感じだったが。
 愛媛はロスタイムにセットプレーから再度ゴールを脅かされたが、0―1のまま前半を終えた。

 後半から愛媛は田中裕人選手を前におしだし、前田選手がアンカーを務めるようになった。田中選手が前にでることで、栃木2列めの手前でボールをうごかすことができるようになった。また、疲れゆえなのか、栃木がプレッシングをかける位置を下げたことも、愛媛がボールをもてるようになった要因になった。もっとも、栃木は勝っているからゲームのテンポを落としたかっただけかもしれず、愛媛陣内でボールを奪ったときは、かわらず活き活きしてゴールに迫っていた。
 後半立ち上がり15分は、愛媛がボールをもち、栃木がカウンターを狙うかたちで推移した。愛媛はひとりの選手がうごきだすと、そこに生まれたスペースへほかの選手が走りこむことでロングボールを呼びこもうとしていた。昨季もやっていた旋回といううごきにあたるのだろうか。前節の甲府戦ではサイドでよくみえていた。近藤選手と川村選手に茂木力也選手がくわわってトライアングルを形成し、巧みにボールを前進させていたのだが、この試合はそうしたプレーがほとんどみられていなかった。今節は、忽那選手が下がって生まれたスペースへ吉田眞紀人選手が走りこむようにしていた。前半終わりにみせたプレーもそれに似たものであった。
 61分に愛媛が最初の選手交代。後半、中盤の広いスペースをひとりでカバーすることのおおかった前田選手に代わって藤本佳希選手が出場し、吉田眞紀人選手と2トップを組んだ。この交代で田中選手がアンカーの位置に移動し、近藤選手が右サイドハーフにうつった。そして川村拓夢選手がインサイドハーフないしはボランチへ。
 愛媛が相手のあいだをとってボールを前進させられるようになったところで、栃木も選手交代をおこなう。64分には山本廉選手に代わって松岡瑠夢選手が、70分にはジュニーニョ選手に代わって菊池大介選手が出場する。サイドを縦横に駆けあがれる姿でおなじみの菊池選手は、ジュニーニョ選手と同じトップ下のポジションについた。ここから栃木は前半のような強度でプレッシングをかけるようになった。
 あえなく愛媛のボール保持の時間は終了。76分には、森俊貴選手が浦田延尚選手のトラップミスを咎めてボールを奪うとショートカウンターを打つ。最後は矢野選手がヘディングに競り勝って追加点をきめた。
 失点直後の77分に愛媛が選手交代。前野選手と忽那選手に代わって内田健太選手と小暮大器選手が出場する。愛媛は小暮選手をサイドへ斜めに走らせることでロングボールを呼びこみ、栃木陣内でのプレー時間をふやそうとした。一方で、85分には浦田選手に代わって茂木選手、田中選手に代わって森谷賢太郎選手が出場する。ここでちょっとわからなくなる。田中選手まで下がったことで、ロングボールを蹴っ飛ばしてもこぼれ球をひろえなくなっていく。茂木選手に森谷選手とボールをもつことができる選手がでてきながら、前進の仕方はロングボールにかわりないので、こぼれ球がひろえず自陣からでられなくなっていった。
 ところが終了間際、池田選手を前線に送りだしてパワープレーにはいると、ロングボールで栃木陣内へ進入するチャンスをつくりはじめる。そうして最終盤にえたコーナーキック、ラストプレーで吉田眞紀人選手が1点をかえした。内田選手のクロスのスピードはさすがだったし、それをニアでそらした茂木選手も見事。そしてこれまで最後の最後で合わせきれなかった吉田眞紀人選手にヘディングでのゴールが生まれてよかった。
 しかしリスタート直後にゲームセット。2―1で栃木SCが今季ホームでの初勝利を飾った。

 田坂和昭監督自身、チームのスタイルをストーミングと呼ぶが、なるほど嵐のようなプレッシングをくりだしつづけた栃木SC。選手交代をしても、ちゃんとプレッシングの強度をもどせるのがすごい。元気なところとつかれてきたところで間延びを起こしそうなものだが。それだけ選手たちの距離間がよく、しっかり組織されているということなのか。
 対戦するタイミングがわるかったとはいえ、開幕から5戦勝ちなしとなってしまった愛媛FC。地力をたかめていこうという去年までから、運を味方にしてでも勝ち点を稼ごうに切り替えた今季だったが、やはり地力をたかめなければやばいのではというところにもどってきてしまった感がある。その地力はむしろ去年より下がってしまった気もしてしまう。そんなことはないんだと、どうかがんばって。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。今年の感想は、月に1回ぐらい、気がむけば書いていくことになりそうです。またね。

 試合結果
 栃木SC 2―1 愛媛FC @カンセキスタジアムとちぎ

 得点者
  栃木:大島康樹、30分 矢野貴章、76分
  愛媛:吉田眞紀人、90+6分