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世論調査における政党支持と回答者の世帯年収との関係について(その2)


「その1」に続いて、読売新聞社の世論調査について取りあげる。


調査回答者の世帯年収6分類別人数

第1層:200万円未満
第2層:200万〜400万円未満
第3層:400万〜600万円未満
第4層:600万〜800万円未満
第5層:800万〜1000万円未満
第6層:1000千万円以上

読売新聞記事では、第1層と第2層を「低年収層」と仮定している。

回答者の年齢構成

回答者における年齢と世帯年収との関係

記事では、年齢と世帯年収との関係は明らかにされていない。そのために、政党支持と世帯年収の関係の解釈に問題が生じている。

自分のケースでいうと、世帯年収6分類では、第2層に属する。年齢階層では「70-」に属する。

年齢を同時に考慮せずに世帯年収だけを説明変数として用いることには問題があることは明らかである。

雑誌『世界』(岩波書店)6月号に吉弘憲介氏が「普遍主義に潜む社会的分断」という論文を載せており、その「注9」に、「年齢が比較的若く、所得水準が高いグループ」という表現を使っている。このように、年齢と世帯年収とは同時に考慮すべきものであろう。

参考データ

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa21/dl/03.pdf

2021年 国民生活基礎調査の概況

国民生活基礎調査の「世帯主の年齢階級別にみた1世帯当たりー世帯人員1人当たり平均所得金額」のグラフを参考にするならば、以下のような関係が年齢層と世帯年収の間に成り立っているはずである。そして、言うまでもなく、世帯年収が年齢層を規定しているのではなく、その逆である。

世帯主が世論調査の回答者である場合には、50代のケースにおいて最も世帯年収が高い。また、29歳以下と70歳以上のにおいて世帯年収が低い。

つまり「低年収層」というのは、世帯主が回答者の場合には、29歳以下と70歳以上の年齢層であろうということになる。

当然予想されることだが、同じ「低年収層」であっても、政治に望むものは、この2つの年齢層では異なるであろう。

「記事<下>」に掲載されている下記の図は、このようなことから、ミスリーディングであるかもしれない。

「維新の支持層は、低所得者」本当か?<下>(2022年6月18日付け)

格差対策

上記のことを念頭に置きながら、棒グラフについて検討してみよう。

「記事<下>」の説明では、「8項目から三つまで選んでもらった」ということであるが、「職業訓練の充実」、「生活保護などセーフティネットの充実」がグラフからは除外されている。全体ではその2つは7位、8位であるということからであろう。

全体で1位から4位までは、「賃金の底上げを促す」(51%)、「大企業や富裕層への課税強化など税制の見直し」(50%)、「教育の無償化」(45%)、「社会保障の充実」(43%)であったという。

まず、このような、順位付けを求める質問は、個々の項目についてどの程度に重要と思っているかを知ることはできないという限界があることを認識する必要がある。つまり、選択された項目を回答者がどの程度重要なことと考えているのかはわからないわけである。

また、選択肢の内容についてであるが、「ベーシックインカム」は「最低生活保障」と括弧書きで説明されているが、回答者の多くは、それと「生活保護」、「セーフティネット」と明確に区別して理解しているかどうか疑問である。また、「社会保障の充実」とはどのように内容が異なるのであろうか。

私自身も、詳しく調べたことがなく、「負の所得税」のようなものだろうかと想像するだけである。そうであれば、「税制の見直し」なしには実現し得ないものであろう。

「教育の無償化」は、内容が曖昧である。この文言だけでそれが具体的にどういうことなのかを回答者が判断できているとは思えない。

相対的に見ると、「世帯所得・上」(第5層と第6層)は、「教育の無償化」、「賃金の底上げ」をより望み、他方で、「大企業や富裕層への課税強化など税制の見直し」、「社会保障の充実」等には消極的であるということのようだ。

全体としては想像しやすい調査結果であると思わざるを得ないところであるが、「教育の無償化」については、これが何故「世帯所得・上」のグループが最も求めているものなのかについて疑問が残る。このような点も、最初に取りあげたように、年齢を同時に考慮せずに世帯年収だけを説明変数として用いているので理解を深めることができない。

補足

以下のような例が朝日新聞デジタルで紹介されていた。この例のような事態がなぜ生じているのかを考えれば、産業配置政策や住宅政策の問題、あるいは東京という都市の問題が絡んでいることがわかる。たとえば、世論調査で国民に児童手当の所得制限についての意見を尋ねてみるだけでは意味がない。

 主婦は夫(34)と長女(4)と長男(1)の4人暮らし。夫の年収は約1100万円(所得約860万円)で、手当(児童手当のこと——引用者)が受け取れない年収の目安960万円(所得基準736万円)を上回る。ただ実感としては「生活に余裕があるわけではない」という。

 理由の一つは月10万円以上の住宅ローン。医療保険などの保険料も月約6万円だ。長女の幼稚園のバス代、給食費にもお金がかかる。

(途中省略)

 国土交通省の有識者会議がまとめた「都道府県別の経済的豊かさ」によると、都内世帯の平均可処分所得は富山、福井に続く全国3位。ただ都内は衣食住にかかる費用が高く、住宅費など基礎的な支出を差し引くと、自由になる金額は全国42位に落ちる(上位40~60%の世帯についての統計)。報告書は「東京都の中間層世帯は、他地域に比べ経済的に豊かであるとは言えない」と結論づけた。

朝日新聞デジタル




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