ころころ

マイナス6℃。
冷え込む白馬村の山小屋の窓から、僕はリフトが人を運んでいく様子を眺めていた。

窓の前を、波線を描くように小鳥が飛んでいた。

その鳥がリフトのすぐ手前で地面におりて、僕に何か訴えかけるようにピョンピョン飛んでいた。

スペースファンタジーのサンフェアリーを思わせる。
人懐こいやつだ。

鳥の鳴き声は「ピーピー」と表記されるけれど、それはたしかだろうか。

目の前の人懐こい、この鳥の声は、「ころころ」と表した方がしっくりとくる。

ころころは、どこかへ飛び去ったかと思うと、また窓の前に戻ってきて、陽気に踊りはねる。

その様子を見ていたアライさんは

「あの鳥、弱っているんじゃないか?」と首をかしげながら口にした。

「長野のこの寒い時期に飛び回る鳥なんて初めて見たよ。」

僕の目の前で元気に踊っていたころころは、ほんとは凍えて震えていた。

「ようこそ」ではなく、「助けて」だったなんて。

心臓が締め付けられるような気分になった。

分からなくなった。

「死ぬ」って、どうして哀しいんだろう。

ころころが目の前でどんどんおとなしくなっていく。

たかが鳥一匹。

ニュースで人が何人死んだか聞かされても、なんの痛みも感じないのに。

マイナス6度の山小屋で、

時計の針が4時35分を指し、

雪はただ優しく降り続けている。

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