ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」読後感
読み進めることが苦しくなる物語。
知的障害をもつ32歳の男性が、脳外科手術によって知能を向上させる被験者に選ばれる。
人の悪意を知らず、他人のどんな言動をも善意だと捉えて生きてきた主人公。
知能が向上するにつれ昔の記憶が蘇り(人は無意識のうちに物事を覚えているという説を聞いたことがある)、周りの人たちの言動は自分を馬鹿にしていたものだったのだとか、邪魔者扱いされていたことに気付く。
お利口になれば友達が増えると信じていたチャーリーにとって、利口になればなるほど人の気持ちが分かってしまい、疑心暗鬼になり、友達がいなくなっていくというジレンマに傷付く。
「でもぼくは知ったんです、あんたがたが見逃しているものを。人間的な愛情の裏打ちのない知能や教育なんてなんの値打ちもないってことをです」
「知能は人間に与えられた最高の資質のひとつですよ。しかし知識を求める心が、愛情を求める心を排除してしまうことがあまりにも多いんです。」
そして自分自身の変化を研究するうちに、「人為的に誘発された知能は、その増大量に比例する速度で低下する」ことを証する論文を発表する。
その数週間後の9月17日、同じ実験を受けていたアルジャーノンが亡くなる。解剖の結果、脳の重量が減少し、脳回の全般的萎縮と脳溝の開大が見られたと。
幼い頃に妹が生まれたことをきっかけに父母から見捨てられ、両親と妹には以来一度も会っていなかったのだが、この後退を覚悟し、全てを忘れてしまう前に自分から会いに出かける。
父親は自分に気付かず、母親は痴呆を患っていながらも息子の帰還を喜んでくれ、妹とは遂に理解し合うことができた。
そして11月21日、退化が進行し、元いた養護施設へ戻ることを決意したチャーリーが書いた、「僕を可哀想なんて思わないで。この世界にあるなんて知らなかった沢山のことを覚えられたこと。家族や自分のことがよく分かったのも嬉しかった。家族なんかいないのと同じだったが、今は自分にも家族があることを分かっているし、僕もみんなみたいな人間だと分かった」という一文。
切なく苦しい展開の中で、この一言だけが救いだった。
感想を書くことが難しい。
強いて言うなら、また自分で読みたいとは思わない。
でも人に薦めたい本として覚えておきたい一冊になった。
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