見出し画像

丈青のピアノ、松丸契のサックス。

2021年5月5日、子どもの日。
下北沢のJAZZ BAR"No Room For Squares"へ
11歳の娘を連れて出かけた。
子どもらしからぬ大人な空間。カウンターバーが横たわり、その先に、天井の電球に照らされたアップライトピアノが佇む。
4度目の緊急事態宣言下なので、皆が静かにマスクをし、距離を空けて座る。その様子を見た娘は、少し緊張しながらも、一番前の席へと通された。
SOIL&"PIMP"SESSIONSのピアニストとしても名を馳せている丈青(Josei)と、3歳から高校卒業までパプアニューギニアで育ち、バークリー音楽大学を首席で卒業した若き奇才、サックス奏者の松丸契(Kei Matsumaru)のデュオ。
出会ってまだ2度目、今回のライブが初顔合わせ、という貴重な瞬間に立ち会える事に胸が高鳴った。
1stセットの始まりはバッハのプレリュード。
丈青はこれから始まる旅の始まりが嬉しくてたまらないような喜びをピアノの音色に込めながら、ゆったりとした呼吸で音を奏でる。松丸さんが時々、これに呼応してそよ風のようにサックスで寄り添う。まず一曲目から、2人の持つ音色のトーンが同じパレットの中でゆっくりと配置され、筆に豊かな水が含まれスタンバイする感覚になった。
次の曲からは、2人の即興が始まった。
丈青の音色が真っ白なキャンバスに色を走らせると、その上に筆で滲ませながら松丸さんのサックスが重なってゆく。2人の音は寄り添い、呼吸しながら色を重ねてゆき、気がつくと一枚の印象派の絵が浮かび上がってくるような、
いつまでもその世界の中に揺蕩っていたくなるような素晴らしく心地の良い世界だった。
丈青のピアノは、まるで、彼が幼少期に夢中で原っぱを駆け回っていたような軽やかな童心のエッセンスを抽出した音、音、音。
それは、松丸さんのサックスが南からあたたかく、東から清々しく、西から静かに、北から厳かに、あらゆる方向から風を吹かせて、
丈青の核となるエッセンスを次々と私たちにみせてくれるような不思議な関係だった。
目を閉じて彼らの音楽を聴いていると、
丈青のピアノの音色の球、一粒一粒を、サックスが風となって追いかけて包み込み、柔らかい空気の羽を纏わせているように感じた。それによって丈青のピアノはより伸びやかに、自由に空を駆け巡る。
 隣に座っていた娘の膝に手を置いていたが、気がつくと、温かい娘のてのひらが私の指をそっと握っていた。娘の手の温もりが伝わってきて、なんとも幸せなひとときだった。

休憩に入ってすぐに、丈青が娘に「眠くなってない?」と声をかけてくれた。娘は「ううん、大丈夫です。」と照れながら答えていた。

2ndセットは、松丸さんのオリジナルナンバーからスタート。竹が天へ向かって真っ直ぐ伸びてゆくような美しさ。丈青のピアノはその足元で咲く、薄紫の忘れな草のように寄り添う。
風景が変わる。
松丸さんのサックスは、神聖なのに野生を秘めているような。曲によって姿を七変化させる。
野生のリスが小枝を駆け巡ったかと思えば、獣が牙を向くような激しさも瞬発的にみえたり。
その音の連なりは野生動物のステップのように、予測不能。だから一緒に森の中を彷徨い、冒険に連れ出してくれるのだ。
 1stとは違う音の描き方でどんどん関係を深めて行き、奏でているのが2人なのか1人なのか、わからなくなるほどに呼吸をぴたりと合わせ、熱いエネルギーとなって音楽を作り上げて行った。
そして、エンディングナンバーは
ジョン・コルトレーンのimpressions。
最終電車に居合わせた私たちは、こらから始まるジャーニーにまた胸を高鳴らせながら、別れを告げる。そんな、始まりを感じる終わり方だった。

枠もなく、ただ、在る音楽。
イマココでしか出会うことのない
魂の共鳴に、立ち会えていることの喜び。
2人の喜びが私の心にも響き、震える。
この先、同じ音楽に出逢いたくても出会えない。そう思うと、一瞬一瞬を逃したくなくなり、イマココで耳が聞こえることや、
音を震わせてくれる空気があること自体に
エモイワレヌ感謝が湧き起こる。
なによりも。
私から生まれてきた、娘と共に聴けること。
ひとつだった私たちが2人になった今、また、ひとつに戻れるような音楽を一緒に聴けることの、しあわせ。
 これを書いている今も、また多幸感が蘇る。
本当に凄いものを見て、聴いて、感じることができたのだなと、改めて感じる。
帰り際に丈青が娘に話してくれたことが、とても素敵だったのでまた別の機会に書き記したいと思う。
お2人の天賦の才能に、心からありがとうを伝えたい。
はぁ!やっぱり生ライブは最高。
どうか1日も早く、コロナが収束して
伸びやかにライブを楽しめる日がきますように✨
#noroomforsquares  
#丈青
#松丸契

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?