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ダークライはアリシアがもういないことを知っていたのか問題

 「ディアルガVSパルキアVSダークライ」を観た人は「ダークライはアリシアが亡くなっていることを知らない派」と「いや知ってるよ派」に分かれると言っても過言ではない。過言かもしれない。

 いやでもこれ正直どっちも捨てがたい。人間は100年経ったら死んでしまうものだということを知らないのも人間よりはるかに長寿な人外らしくておいしいし、寿命差を理解した上でもういない大切な人のために庭を守り続けているのも切なくておいしい。劇中ではっきり説明されていない以上好きな方に解釈して構わないと思うのだけど、私個人がどう解釈しているかははっきりさせておきたい。そういうメモです。

「アリシア……?」問題

ディアパルに撃墜された後ダークライはアリスを見て「アリシア……?」と呟くのですが、この言葉の解釈には2パターンあります。

①    アリスをアリシアだと間違えた説=アリシアが亡くなったことを知らなかったパターン
②    瀕死の状態で意識が朦朧としていたから思わず口走ってしまった説=アリシアが亡くなったことを知っているパターン

 ①と②、どちらの意図でダークライがこの言葉を発したのか考える上で重要なのは「アリシア……?」の「……?」です。ここは名優・石坂浩二のニュアンスりょくを信じてほしいんですけど、疑問形なんです。これは「アリシアはもういないはずなのにどうして今自分の目の前にいるんだろう」の「?」ではないんでしょうか。ということはアリシアがもういないこと自体は理解しているのでは?

ダークライとアリシア


 つまりダークライはアリシアがもういないことを理解はしているが、心のどこかで受け入れきれていなかったのではないかと思うんです。人間同士でもあるじゃないですか、亡くなったことはわかってるのに「なんかまだそこにいるような気がする」っていうの。しかも死に目に会えないとそうなりがち。

 ここからは完全な想像というか妄想なんですが、ダークライはアリシアを看取ってないと思うんですよ。特性のこともあってアリシア以外の人たちからは嫌われていることを自覚しているから、こちらからアリシアに会いにいくことはなかった。会えるのはアリシアの方から庭園に出向いてきた時だけ。

 アリシアは大往生だったと思うんですが(願望)、それでも最後の方はだんだん弱ってきて庭園に行くこともままならなくなっていたはず。ダークライは昔は毎日来ていたのに一週間に一度しか来なくなり、それが一か月に一度になり……と頻度が目に見えて減っていくのを感じていたかもしれない。アリシアがその頃ほとんど家だか病院だかのベッドで過ごしていたことなど彼は知らない。アリシアは窓の外を見ながらふっとダークライが訪ねてきてくれたりしないかしら、なんてありえないとわかっていることを夢見ていたりしたのかもしれない。

 タイムラグはかなりあったと思うけれども、ダークライはアリシアが来ないことによって彼女がもういなくなってしまったことを悟る。お墓を見つけたのか、庭園に来る町の人たちの会話が聞こえたのかはわからないけどとにかく悟る。「死」という概念を完璧にわかっていたかどうかは定かじゃないけど少なくとも「アリシアとはもう二度と会えないんだ」という程度の理解はしている。

 そう頭では理解できても心が追いつかなくて、本当にこの世界からアリシアが姿を消してしまったことを信じ切れなくて、庭園をあてもなくさまよったりした時期があったと思うんですよ。どこかから元気なアリシアがもう一度ひょっこり姿を現してくれるのではないかという気がして。まさにビー・ウィズ・ユーの「君はどこに消えてしまったの?」、あれです。

ダークライとアリス

 さてここで登場してくるのが孫娘のアリス。オラシオンを教えたシーンのように、アリシアおばあちゃんが健在だった頃は一緒に庭園で過ごしていたりしたんでしょう。ダークライはアリシアがひとりでいる時だけ近づいていくので(これは妄想です)、アリスの前に姿を見せることはなかったけれども遠くから見ていて存在は把握していたはず(これも妄想です)。

 アリスの存在は知っていても人間の血縁関係とかわからなさそうなので、孫とかじゃなく「なんだかアリシアに似ている子」程度の認識だとうれしい。私が。そういうところで人外らしさを出していってほしい。

 でも容姿はそっくりでもアリシアとアリスは違う人間であることはわかっているので(アリシアはきっと崖から落ちたりしなかっただろうし)、アリシアと違ってアリスには自分から接触していくことはしない。ダークライのセルフイメージはきっと「アリシア以外の生きとし生ける者全員から嫌われている存在」だったから。アリスが成長するまでダークライの存在を「この庭にいるらしい」としか認識していなかったということが、ダークライがアリシアとアリスの区別をつけていたという証なんじゃないでしょうか。それでもアリスのことも守っていたということは、あの頃のアリシアにそっくりなこの子のことも「大切な人間」であり「守るべきもの」であると考えたのかもしれない。アリシアを失ったダークライにとって、アリスを文字通り影ながら見守ることが新しい生きる目的になっていたと考えることもできます。

結論

 そこで再び庭園のシーン。あの「アリシア……?」はダークライがずっと抱えていた「アリシアにもう一度会いたい」という思いが、庭園で傷ついて動けなくなっているというアリシアに出会った時とまったく同じシチュエーション、あの時と同じように触れたアリスの手、ダークライを気づかうアリスの声と結びついてダークライのなかでアリシアとアリスをオーバーラップさせ、それによって思わず出てしまった言葉だったのではないでしょうか。

 アリシアと同じようにアリスと出会うことによってダークライはもう一度100年前のあの日に戻り、初めて出会った時にアリシアがかけてくれた言葉を甦らせ、ディアパルに立ち向から力を得たんですね。

 私はそういう風に解釈しましたが、ダークライが本当のところはどう思っていたかはダークライにしかわかりません。でもそれでいい。それがいい。アリシアとの思い出はダークライの心のなかだけにしまわれておくべき大切なもの。我々はそこにしまわれているものが何なのか勝手に想像して楽しみますので、ダークライにおかれましては大切なものを胸に秘めつつ末長くあの庭で幸せに暮らしていただきますようお願い申し上げます。


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