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体にいいものと心にいいもの

[ShortNote:2022.2.4]

 小学生の頃、たまたま家にあった「買ってはいけない」を読みながらマックを食べるのが好きでした。知らない人のために説明すると、これは「週刊金曜日」という雑誌の連載をまとめたもので、タイトル通り「買ってはいけない」商品を実名で批判するという本で、当然(?)マクドナルドも槍玉にあげられています。

 この本、今読むと(いや、当時からかな……)化学調味料を敵視しすぎていたり根拠が不明だったり批判本も出ていたりといろいろツッコミどころ満載です。特に美顔器について「肌に蒸気を当てて何がどうなるというのかバカバカしい(要約)」(蒸気を当てて毛穴を開かせる美容法の効果に疑問を呈しているわけではなく、単になぜそんなことをするのかわからなかった様子)と言っていたのはちょっと笑えました。知らないジャンルなら取り上げなければいいのに。そんなに自然のものが好きなら毒キノコとかフグの肝でも食べてろよそんなに自然のものが好きなら毒キノコとかフグの肝でも食べてろよと思うのですが、とにかく今で言う「自然派」のバイブルっぽい本です。

 こんな本を多感な時期に愛読書にしていたら普通「化学物質は悪! オーガニック最高!」な大人にならないとおかしいのですが、マックのお供にしていたということはその歳でなんとなく「どっちかだけに偏るのはおかしいよね」と思っていたからかもしれません。まあ、ただのあまのじゃく精神だった可能性も捨てきれないけれども。野菜や天然の食品を摂るのも大事かもしれないけど、人工的なものを食べるのも必要。人の世界は自然と人工でできているから。

 仮にこの本の著者たちが言うように化学物質が「毒」なのだとしても、先に出した毒キノコやフグの肝がそうであるように、自然にも毒はあります。体に悪いものを完全に排除できていると思っているのは当人だけで、みんな多かれ少なかれ「危ないもの」に取り囲まれているのだから、清濁併せ呑む方が人間として「自然」なのではないかと思います。

 マックやカップラーメンやスナック菓子を別に禁じることなく適度に買ってくれていたということは、親も同じような考えだったのかもしれません。じゃあなんで「買ってはいけない」買ったんだろう。あの本の啓蒙能力低すぎない?

 とりあえず、この本が否定しているものを食べて育ってきましたが、今のところ病気をしたこともないし平均より丈夫な方ではあります。もちろん「体にいいもの」も食べてきたからだと思うのですが、「体にいいもの」VS「体に悪いもの」というよりこれは「体にいいもの」と「心にいいもの」のバランスなのかもしれません。健康にいいものは体が喜ぶもの、ジャンキーでおいしいものは心が喜ぶもの。体と心、どちらかだけを喜ばせていたらもう片方が「こっちのことも考えろー!!」と反乱を起こす。体だけあって心がなかったらロボットだし、心だけあって体がなかったら幽霊だし、両方あるから人間なのです。

 スナック菓子やインスタント食品を禁止された家で育った子どもが友達の家で引くぐらいスナックを食い散らかしたり、大人になってから三食カップラーメン生活をしたり、そういった体だけを喜ばせ続けた反動の話をよく聞きますが、「買ってはいけない」巻末の座談会で著者の一人は「うちの子どもにはオーガニックの体にいいおやつだけを厳選して与えている」というようなことを誇らしげに語っていました。その家の方針なので好きにすればいいと思いますが、他人事ながら今頃20~30代であろうその子どもがちょっと心配です。


(「この本を買ってはいけない」とは言いませんが別に買わなくていいと思います)


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