エシカル?
[ShortNote:2022.2.11]
昔、白鳥エステというエステサロンがありました。非常に安価で高品質な施術をしてくれるということで、大手エステのように大々的に宣伝を打ったりはしていないものの口コミで広がって固定ファンを獲得していたサロンです。
そんな白鳥エステ(もとい運営会社のアキュートリリー)ですが、資金繰りに窮し給与遅配が発生し、とうとう2019年9月30日に破産申請し予約を入れていた客もいた中でいきなり公式サイトとツイッターアカウントを消す(社長の個人アカは残っている)という最期を迎えました。
実は客として行ったことはなくて、破産後に東京商工リサーチのサイトの記事で存在を知っただけなので、「エステサロンとしての白鳥エステ」ではなく「経営に失敗して潰れた倒産例としての白鳥エステ」の方に興味があったりするのですが、このエステ関連で一番印象的だったのは給与遅配で炎上していた時からお客さんたちが「搾取に加担してたのかも……」と胸を痛めていたことです。
安価なサービスを提供してる企業が本当は社員の相当な犠牲のもとにそれを実現していたとしてもただの客の立場からしたらわからないのがキツいと思います。大量仕入れとか包装を簡素にするとかそういうところのコストを下げてまっとうに安価を実現してるところも確かにあるわけだし。
でも白鳥エステも見た目はそうだったらしいんですよ。店舗を普通のマンションの一室にしたり、内装も最低限だったり、一番安いのは一番下のスタッフランクの人の施術でランクを上げたりオイルを選んだりすればそれなりの値段になるようになってたり、そういうことをされたら「あぁ、こういうところでコストを削って無理なく高品質と安さを両立してるんだな」と思うじゃないですか。
加えてかなりタチが悪いと思うのは、アキュートリリーの白鳥紘子社長はツイッターでは盛んに「先駆的な経営者としての見識の高さ」をアピールしてたんですよ。詳しくは残っているツイッターアカウントを見てほしいんですが(「会社をわりと前代未聞な潰し方で破綻させた社長」という前提で見ると不謹慎ですがかなり面白いです)、まさかブラック企業の社長が「部下を守る」を連呼したり法令遵守についてご高説を垂れたりスタッフとフランクにSNSで絡んだりすると思わないじゃないですか。ここまでされたら誰でも理想的な企業だと思いますよね。
それなのに実は全然「無理なく」でも「理想的」でもなかった。毎月同じ日に全額支払わなければならないと法律で決まっている給与が何か月も遅れてスタッフが生活に困窮していた。そんな企業にお金を落としていたなんて、企業の善性を信じていたお客さんにとってはショック以外の何物でもないですよね。
私もいろいろなものを買ってサービスを受けている立場として、こういうのは他人事じゃないなあと思っているんですが、どうやれば客としてこういう無理のあるサービスを止められるんだろう。やっぱり需要があるから供給が生まれてしまうわけで、あまりに安すぎるものに対しては「いや、私は安いからってだけでは買わないんで」と拒否するのが一番いいんですかね。
白鳥エステの件では「サービスには適正な価格があると改めて思った」と述べている人もいましたが、提供側がつけた値札を「これが適正な値段なんだ~」と無批判に受け入れてしまうのももう少し考えなきゃいけないのではないかなぁと思います。もやしの件とか。
ちょっと前に「エシカル」という言葉が流行りましたが、いや「流行り」で済ませてはいけないのですが、こうやって提供を受ける時にちょっと考えてみる、疑ってみることが「エシカル」なのかなとちょっと思いました。何も難しいことではなく。