二人の囚人
二人の囚人
幾嶋 和蔵
古くから伝わる外国の諺に、こんなものがある。
“Two men look at the same bars:
One sees mud and one sees the stars.”
一人は泥を見ていた。しかしもう一人は星を見ていた。
これはつまり、同様の苦しい状況にあっても人に依って世界は全く異なって見えると云うお噺だ。
檻の中の二人は互いに話を交わすことはなかった。或いは互いの存在にさえ気付いていなかったのかもしれない。それほど熱心に外の世界を渇望していたのだ。
一人は乾いた地面を、もう一人は広がる大空を。
そのうち暗雲が垂れ込めてひどい大雨になった。雨水は地続きの檻に流れ込み、強風は容赦なく二人に吹きつける。一人は項垂れて地面を見下した。
もう一人は晴れを願って空を見上げていた。
やがて雨雲は過ぎ去り、代わりに夜が訪れた。辺りを暗闇が包みこむ。
一人は泥を見ていた。しかしもう一人は星を見ていた。
そして、雨で地面が泥濘むのに気付いた囚人はその日のうちに檻を抜けた。満点の星光を、照りつける太陽を、全身に浴びて一人は広い世界を走りまわった。
もう一人は今日も檻越しの空を見ている。