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ドラえもんの毛布

よく眠る高校生だった。
朝の5時半に起きて着替えて朝食を食べ、5時55分の始発に乗って学校へ。
およそ50分の通学列車の中でまず眠る。
駅に着いたら駅前のローソンに寄ってパンを買って、それから20分歩いて学校に行く。
教室に着くと基本的に誰もいないので朝課題の時間までまた眠る。
お腹が空いていたら母に持たされたおにぎりを食べる。
もうこの頃にはさっぱり勉強について行けていなかったのでサッと目を通してかけるところだけ書いて眠る。
1時間目から4時間目までずっと眠る。
不思議なもので休み時間になると目が醒める。
ミミズののたくったような字だけが残されたノートは読める場所がない。
行からはみ出ているし突如の空白の先にまたミミズが這っている。
もう毎日のことなので誰かに貸して欲しいとも言いづらい。
昼食はありがたいことに一緒に食べてくれる友達が何人かいて、そのメンバーで空き教室に入り浸る。
5時間目6時間目、ある日は7時間目も眠る。
最後にシャキっとした態度で授業を受けたのはいつだったのか全く思い出せない。
帰りのホームルーム、かろうじて起きている。
眠ってばかりでも明日の教科書をその通りに用意しようという気持ちだけはある。
駅まで20分歩いて戻る。
電車が来るまで時間があればバーガーショップに寄ったりミスドに寄ったりする。
だいたい16時半か17時半の電車に乗って帰る。
調子が良ければ本を読んだりケータイ小説を読んだりするが、基本的に降りる駅に着く時間にタイマーを掛けて眠る。
最寄駅に到着。
家に着いたら夕食、風呂。
予習と課題をしようと思い立つがこのあたりになると電池が切れるのか強い眠気に襲われる。
10分だけと布団に倒れ込むともう遅い。
家族からの怒声で起こされる。
もう寝なさいと布団に押し込まれて22時には就寝。

これが私の高校生時代のおおまかな1日だった。
勉強もせず、何か食べては眠ってばかりの目立たないタイプの不良高校生だ。
私があまりにもずっと眠っているのでおしとやかな女性ばかりが集まる学年だったにもかかわらず、2回ほど頭をしばかれたことがある(体罰ではない)。
化学の先生と現国の先生に1回ずつしばかれた。

この居眠り癖は高校3年の大学受験期になっても治ることはなかった。
むしろひどくなっていたような気がする。
それを象徴していたのがドラえもんの毛布だ。

この毛布は古い方のドラえもんの絵が模された薄茶色の毛布だ。
弟が保育園のお昼寝で使っていたものを、冬場は薄手の膝掛けでは温もりが足りないということで拝借させてもらったものだった。
厚手だけど子供向けで小さい毛布は私の足元を温めるのに大変役に立ってくれた。
そう、あまりにも役に立ちすぎてその暖かさが私の眠気を誘うぐらいには。
多少寒くても薄手の方が今思えばよかったのだろう。
しかし私はもうこの温もりを手放すことはできなかった。

席替えで一番前の窓際の席になってもなお居眠り癖はよくならなかった。
結局最後までこの席で過ごして、その時後ろの席だった2人とは今でもたまに連絡を取っている。
私は3年の担任の授業(地理)を取っていなかったのだが、隣の席の地理選択の子に「先生!!マオロンちゃん、毛布抱っこして寝ててかわいいんだよ!」と報告されてしまうぐらいに毛布を気に入って居眠りしていた。
当たり前だけど先生は最前列でヘラヘラすることしかできない私を見て呆れていた。

結局高校を卒業するまでドラえもんの毛布には助けられた。
プリントのコピーを取りに行く時も、職員室に行く時にもいつも一緒だった。
窓際にはヒーターもあったけど窓から冷気も伝わってくるので窓側の席に座る私のことをいつも温かく包み込んでくれた。

なんやかんやあって私は今の自分以上のポテンシャルを発揮しなくても入れる大学に入り、親元を離れることになった。
その時にさすがにドラえもんの毛布を持っていくことはできず、毛布は母の車の後部座席に引っ越して冬場は活躍しているらしい。

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