【決定版】ソフトバンクグループにおけるビジョンファンドの財務分析

1.はじめに

 

1-1.ソフトバンクグループの概要

 

沿革

ソフトバンクグループ㈱は1981年9月に「株式会社日本ソフトバンク」として設立されました。

この社名は、パソコンのソフトウエアを日本中に流通させる「ソフトウエアの銀行」を目指して名づけられました。

ソフトバンクグループ㈱は当初、パソコン・ソフトウェアを投資領域としていましたが、その後はインターネット、モバイルへ投資領域をシフトしていきました。

そして現在ではさらにAI・IoT・スマートロボティクスへと投資領域を変更しています。

このように、時代に合わせて投資領域を変え続けているところが、ソフトバンクグループ㈱の特徴の1つであるといえます。

 

経営理念

ソフトバンクグループ㈱の代表取締役会長兼社長である孫正義氏はソフトバンクグループを「情報革命の資本家」と定義しています。

18世紀後半にイギリスではじまった産業革命のように21世紀である今、情報革命が起こっています。そして彼は、産業革命と同じように資本家が起業家に対して多くの資本を投入することで、情報革命を進展させることができると考えています。

ソフトバンクグループ㈱は「情報革命で人々を幸せに」という経営理念の下、世界の人々が最も必要とするテクノロジーやサービスを提供する企業グループとなることを目指すとともに、企業価値の最大化を図っています。

特に、近年のAIの活用による市場の拡大と新産業の創出という大きなチャンスを確実にとらえるため、ビジョンファンドを中心として幅広く投資活動を行っています。

 

ソフトバンクグループの構成

ソフトバンクグループ㈱とその子会社および関連会社をまとめて「ソフトバンクグループ」と呼んでいます。

したがって、ソフトバンクグループ㈱はソフトバンクグループにおける持株会社という位置づけとなります。

一般的に、子会社の数が増えてくると、親会社は子会社を管理する必要がでてきます。そこで、子会社の管理や経営戦略などの立案に特化して活動を行うために、持株会社となるのです。

ソフトバンクグループ㈱の子会社数は2021年3月末時点で1,408社となっており、連結ベースでの従業員数は約5.9万人にのぼります。

主な上場子会社には通信事業・法人向けソリューションを提供するソフトバンクをはじめ、ヤフージャパン、LINE、ZOZOを傘下とするZホールディングス等があります。

 

ソフトバンクグループの事業内容

ソフトバンクグループの事業内容には、主に以下の5つがあります。

 

(1)持株会社投資事業

持株会社投資事業においては、主にソフトバンクグループ㈱が、戦略的投資持株会社として直接または子会社を通して投資活動を行っています。

当事業は、ソフトバンクグループ㈱のほか、SoftBank Group Capital Limited、ソフトバンクグループジャパン㈱など、投資または資金調達を行う子会社で構成されています。

これらの会社が保有する代表的な投資先にはアリババやTモバイル、The We Companyなどがあります。

 

(2)ソフトバンク・ビジョン・ファンド事業

ソフトバンク・ビジョン・ファンド1ならびにソフトバンク・ビジョン・ファンド2は、テクノロジーの活用により各分野をリードする成長企業への投資を通じてAI革命を推進し、起業家が革命的なビジネスを展開していくことを支援しています。

 

(3)ソフトバンク事業

日本国内でのモバイルサービスの提供、モバイル端末の販売、ブロードバンドなどのインターネットサービスの提供やインターネット広告、イーコマースサービスの提供を行っています。

この事業に関わる主な会社はソフトバンク㈱、Zホールディングス㈱、ヤフー㈱、LINE㈱です。

また、移動通信サービスとして、メインブランドの「ソフトバンク」、低価格のサブブランド「ワイモバイル」、そして「LINEモバイル」の三つのブランドを展開しています。

さらに、移動通信サービス以外にも、「SoftBank 光」など固定のブロードバンドサービスや、電力サービス「ソフトバンクでんき」の提供等により顧客基盤の拡大に取り組んでいます。

 

(4)アーム事業

プロセッサーの設計を手がけるアームの技術は、ほぼ全てのスマートフォンやタブレットのメインチップに組み込まれ、高いシェアを誇っています。あらゆるモノがインターネットにつながるIoT時代に、アームは半導体テクノロジーのリーダーとして、高セキュリティー、省電力を特色とする技術を武器に、ソフトバンクグループの戦略の中心的な役割を果たしていくことが期待されています。

アームのプロセッサー・テクノロジーは、世界で最も広くライセンス供与・採用されており、スマートフォンやディスクドライブなどの市場ではシェア100%、デジタルTVからドローンなど、さまざまな電子機器でも高いシェアをほこっています。また、IoT、自動運転車、産業オートメーションなどの新たな市場でも、アームのプロセッサー・デザインが数多く採用されています。

アームはソフトバンクグループによる買収後、技術関連人員を増強し、研究開発への投資を加速しています。技術力の強化により、人工知能(AI)や拡張現実(AR)を中心とする分野において、新技術の開発を目指しています。

 

(5)ラテンアメリカ・ファンド事業

2019年に始動した「ソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンド」は、急成長するラテンアメリカ市場に特化し、テクノロジー分野への投資活動を行っています。

具体的には、ソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンド1およびソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンド2により投資事業を行っています。

 

(6)その他

2005年1月にプロ野球球団「福岡ソフトバンクホークス」が設立されています。2010年のプロ野球パシフィック・リーグ優勝を皮切りに、5回のパシフィック・リーグ優勝、および6度の日本シリーズ制覇を達成しています。

また、PayPay㈱は、ソフトバンクグループ㈱、ソフトバンク㈱、ヤフー㈱の3社が共同出資する合弁会社です。PayPay㈱はバーコードやQRコードを使って決済ができる新しいスマートフォン決済サービス「PayPay」を提供しています。

 

1-2.2020年度決算の特徴

2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大による悪影響と政府による景気刺激策の出動、経済活動の再開の見通しなどにより、株式市場も乱高下しました。

そのような環境下、ソフトバンクグループの連結純利益は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを中心とした投資事業の牽引により、ソフトバンクグループ史上、そして日本企業としても歴代最高となる4兆9880億円を記録しました。

損益の内訳をみると、投資損益は7兆5290億円であり、そのうち6兆2920億円がソフトバンク・ビジョン・ファンドによる投資利益となっています。

 

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