2024年度セルフトレーニング問題を解いていく!(2)〜化膿性脊椎炎のお作法とMNZの副作用〜
急性期病院で9年間総合内科医として働き詰めるも、ヘルスケアスタートアップに転職したため、総合内科専門医試験の受験資格がなくなってしまった10年目の総合内科医です。
出願取り消しの連絡が来るまで今年受験するつもりでいたので、セルフトレーニング問題(日本内科学会発行)を試験対策のため購入していました。
もったいないので、自分のアセスメントを加えながら解いていきます。誰かの役に立てば。
問題:66歳女性、意識障害
アセスメント
診断
メトロニダゾール脳症
長期間のメトロニダゾール投与後に、小脳失調症状が出現したという病歴だけで、すぐメトロニダゾール脳症を疑えますね。
まず身体所見で、小脳失調所見があることと、他の経路(錐体路や深部覚)の障害でないことを確認します。メトロニダゾールで末梢神経障害もきたし得ますが、このケースは糖尿病があるため、両側アキレス腱反射低下は、糖尿病性ニューロパチーの影響かどうかわからないですね。
採血では、ほとんど異常なく、ウェルニッケ脳症じゃないということを言いたいのだと思います。入院中で食事が取れていれば、ビタミンB1が欠乏する可能性は低そうです。
MRIで典型的な所見を確認できれば、確定です。
MIE
J Hospitalist NetworkのClinical questionのスライドがよくまとまっているので紹介します。
MNZの総投与量
メトロニダゾール脳症を発症した7名のMRI画像を分析したこちら(AJNR Am J Neuroradiol . 2007 Oct;28(9):1652-8.)の文献によると、
メトロニダゾールの平均総投与量は、平均 38.7 日 (14~90 日) の間に 58.1 g (21~135 g)
神経症状発現までの平均投薬期間は 25.4 日 (11~52 日)
とあります。
このケースの場合は、
投与期間は、2ヶ月(およそ60日)
総投与量は、およそ90g(=1.5g/日×60日)
神経症状発現までの投薬期間は、およそ50日
となります。
メトロニダゾール脳症を起こしてもおかしくない投与量・投与期間ですね。
頭部MRI画像
頭部MRIのT2強調画像やFLAIRで、小脳歯状核、中脳、橋背側、延髄、脳梁膨大部に両側対称性の高信号を認めることが多い。(AJNR Am J Neuroradiol . 2007 Oct;28(9):1652-8.)
解答
(c) メトロニダゾールの中止
治療
多くは、メトロニダゾールを中止するだけで改善します。
不可逆性の脳症をきたした報告もあるようですが、試験的には「可逆性」と覚えていて良いでしょう。
MRIの所見も基本的には可逆性ですが、部分的に(特に脳梁部は)残ることもあるようです。
感想
問題文で、「椎間板の培養を採取した」とあるのに、「脳脊髄液培養の結果」が出ていて、???となった。実は、ルンバールもしていたのか? こ、硬膜外膿瘍もあったのか?
化膿性脊椎炎の起因菌として、一般的なのは
黄色ブドウ球菌
腸内細菌科(特に大腸菌)
腸球菌
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌
約30%の症例で病原体を分離できないことがあるとされている。
嫌気性菌は稀だし、大腸菌などと共感染していることが多いらしく、嫌気性菌単独の場合は、先行抗菌薬投与の影響も考えられるそう。糖尿病患者は、嫌気性菌感染のリスクである(このケースも糖尿病既往あり)。
治療期間は最低でも6週間以上とされており、不必要な広域抗菌薬を長期投与しないためにも、起因菌の同定は重要。
専攻医時代、当直帯で入院した化膿性脊椎炎のケースで、血液培養採取後、広域抗菌薬投与を開始したことがあった。翌朝のカンファレンスで上級医に「あ〜投与しちゃったか〜」と頭を抱えられたことがあったのを思い出す。
その時、病変部位からの培養検体を採取してから、抗菌薬を開始するべきと習った。血液培養だけでは起因菌を同定できない場合があるためである。
もちろん敗血症を疑うバイタルサインや全身状態であれば、待つべきではないが、化膿性脊椎炎は、患者さんの訴える痛みが強くても、全身状態は比較的良く抗菌薬投与を待てる場合も多い。(抗菌薬は待つとしても、鎮痛薬はすぐ、しっかり使う)
このケースは、病変部位からの培養検体を採取してるのは良いなぁと思う。
糖尿病だから嫌気性菌も最初からカバーしておきたかったのか。とはいえ、LVFXで腸内細菌科、MNZで嫌気性菌はカバーできてるけど、起因菌で最多のグラム陽性球菌カバーが弱すぎない?
SBT/ABPCでいいんじゃないか、という気がする。私だったら、PICC入れてSBT/ABPCを選ぶ。
嫌気性菌が起因菌と判明した後も、そもそも長期間投与することが決定している中で、脳症のリスクがあるMNZは選択しづらいと思う。
このケース、LVFXとMNZ、両方内服だったってことは、点滴継続が難しい感じだったのだろうか。せん妄でルート抜針しちゃうとか…?
メトロニダゾール脳症とは関係ないが、このケースで気になるは、Bacteroidesがどこから侵入してきたか?である。血液培養の結果はどうだったのだろう。
化膿性脊椎炎の痛みが治り、検査の姿勢が取れるようになったら、下部消化管内視鏡検査で、腸内のバリアが破綻しているところがないか(実は大腸がんがあった、など)検索することをお勧めしたい。
もし、Bacteroidesじゃなかったとしても、66歳なら、大腸癌検診受けてますか?は確認するけども。
参考文献
Bacteroides fragilisによる化膿性脊椎炎のCase report
Am J Case Rep. 2022 Jun 16:23:e936179.
このケースでは、カルバペネム系&メトロニダゾールを12週間も使ってた。脳症起きなくてよかったね…。
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