2024年度セルフトレーニング問題を解いていく!(3)〜AMIかタコツボか〜
急性期病院で9年間総合内科医として働き詰めるも、ヘルスケアスタートアップに転職したため、総合内科専門医試験の受験資格がなくなってしまった10年目の総合内科医です。
出願取り消しの連絡が来るまで今年受験するつもりでいたので、セルフトレーニング問題(日本内科学会発行)を試験対策のため購入していました。
もったいないので、自分のアセスメントを加えながら解いていきます。誰かの役に立てば。
問題:50歳女性、一過性の意識障害
問題文は一部改変、解釈加えて記載します。
アセスメント
冷汗を伴い、血圧も低い。ショックバイタルである。
突然発症の病歴、動悸、Ⅲ音聴取から、心原性ショックが示唆される。
採血より先に、心電図をとる。
ST上昇あり、STEMI疑いですぐに循環器内科をcallし、緊急でCAGを依頼する。
心エコーだと、前壁〜前壁中隔が低輝度で壁も薄いが、ECGでは前壁誘導はpoor r progression、ST上昇は目立たない。むしろ、V2あたりの深いS波は後壁のreciprocal changeっぽい。ここは陳旧性梗塞なのだろうか。
ST上昇しているのは、Ⅱ, Ⅲ, aVFとV4, V5, V6。ⅡとⅢを比べると、どちらかというと、Ⅱ>Ⅲなので、責任血管は、RCAではなくLCxっぽい。
LCxだけが急に詰まったとしても支配領域の範囲も狭く、それだけで心原性ショックにはなりにくいと思うが、ベースに前壁の陳旧性梗塞があったのなら、あり得るか。
解答
急性心筋梗塞 or たこつぼ型心筋症
いずれかを判別するのは困難だが、まずは急性心筋梗塞として動くべきである。
たこつぼ型心筋症
病歴、臨床所見、採血・心電図・エコーで、急性心筋梗塞とたこつぼ型心筋症を見分けるのは困難である。
こちらの文献(J Am Heart Assoc. 2016 Jun; 5(6): e003418.)には、心電図所見で、STEMIとたこつぼ型心筋症を見分けるポイントが示されている。
-aVRという表現がわかりづらいが、
-aVRでのSTe(ST上昇)=aVRでのSTd(ST低下)と読み替えてよさそう。
このケースでは、STE-TTC(ST上昇型のたこつぼ型心筋症)っぽい所見が見られる気がする。
とはいえ、仮にたこつぼ型心筋症を疑ったとしても、診断するには、冠動脈の狭窄や攣縮を否定せよ、となっている。まずは心筋梗塞の可能性があるとして動き、CAGを行うべきと考える。
薬剤性心筋症
代表的な心毒性のある抗がん剤といえば、アントラサイクリン系だが、調べればいろいろある。
切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法で使われる薬剤は以下である。
5-FUやシスプラチンで心筋虚血(梗塞)が生じうるようだ。
選択肢の「薬剤性心筋症」の場合、突然発症の一過性意識障害という病歴は、合わないだろう。
免疫チェックポイント阻害薬による心臓合併症も報告されている。
最も一般的な心臓irAEは、心筋炎である。他には、うっ血性心不全、たこつぼ型心筋症、心膜疾患、不整脈、伝導障害も報告があるようだ。(Front Cardiovasc Med. 2019; 6: 3.)
肺塞栓症
担癌患者はPEのリスクが高い。また、PEによって失神も起こりうる。しかし、DVTを示唆する下腿浮腫所見はない。
肺塞栓症の心電図所見で最も一般的なのは、頻脈と非特異的ST-T変化である。歴史的にPEを示唆すると考えられてきた異常(S1Q3T3パターンや新規の不完全右脚ブロック)は実際には10%未満にしか見られないため、見られないからといってPEを否定することはできないものの、このケースは、PEを疑う心電図所見とは思わない。
ショックになるくらいのPEなら肺塞栓症
担癌患者はPEのリスクが高い。また、PEによって失神も起こりうる。しかし、DVTを示唆する下腿浮腫所見はない。
肺塞栓症の心電図所見で最も一般的なのは、頻脈と非特異的ST-T変化である。歴史的にPEを示唆すると考えられてきた異常(S1Q3T3パターンや新規の不完全右脚ブロック)は実際には10%未満にしか見られないため、見られないからといってPEを否定することはできないものの、このケースは、PEを疑う心電図所見とは思わない。
ショックになるくらいのPEならD shape(右室が拡張し左室を圧排している所見)が見えておかしくないが、それも見られないため、否定的である。(右室が拡張し左室を圧排している所見)が見えておかしくないが、それも見られないため、否定的である。
ウイルス性心膜炎
病歴が突然発症であり、心膜炎とは合わない。
急性心膜炎の場合は、広範な誘導でST上昇が見られうるが、ST上昇の形は凹型(鞍型)で、心筋梗塞の凸型と異なる。
感想
CAGなしでたこつぼ型心筋症と解答させるのは無理があるんじゃないか?
実臨床なら、CAGをやれない特別な理由がない限り、絶対CAGをやらないといけない。
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