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2024年度セルフトレーニング問題を解いていく!(3)〜AMIかタコツボか〜

急性期病院で9年間総合内科医として働き詰めるも、ヘルスケアスタートアップに転職したため、総合内科専門医試験の受験資格がなくなってしまった10年目の総合内科医です。
出願取り消しの連絡が来るまで今年受験するつもりでいたので、セルフトレーニング問題(日本内科学会発行)を試験対策のため購入していました。
もったいないので、自分のアセスメントを加えながら解いていきます。誰かの役に立てば。


問題:50歳女性、一過性の意識障害

問題文は一部改変、解釈加えて記載します。

50歳女性が一過性の意識障害を主訴に来院。
夕食後に動悸を自覚。その後、リビングでくつろいでいたら意識が遠のくような感じが出現。すぐに意識は改善したが、冷汗あり受診。
既往歴:1年前に胃癌で切除術。骨転移があり、2ヶ月前から免疫チェックポイント阻害薬を含む抗癌化学療法中。
現症:PR 112/分, 不整. BP 94/74 mmHg. RR 20/分. SpO2低下なし。胸部聴診でⅢ音を聴取。呼吸音に異常なし。腹部平坦、軟、圧痛なし。下腿浮腫なし。
検査所見:ごく軽度の正球性正色素性貧血。WBC, PLTは正常。Troponin I 4,924 pg/mL(基準:26.2以下)と高値。AST, LDH, CKが少し上昇。ALTは正常。腎障害なし、血糖異常なし。電解質異常なし。BNP 235.7 pg/mL. CRP上昇なし。
12誘導ECG:HR 120くらい、洞調律、正常軸、PR延長なし、V1-3にかけてr progression 不良Ⅱ, Ⅲ, aVF, V4, V5, V6でST上昇あり。aVL, aVR, V2でミラーイメージあり。
心エコー:傍胸骨長軸像(収縮期と拡張期)、短軸像(収縮期と拡張期)が示されている。前壁〜前壁中隔(mid)の壁厚が薄く、低輝度、収縮していないように見える。静止画なので、他の部位の壁運動低下があるのは判然としない(長軸像での心基部壁厚増大はわかるが、それ以外はあまりよくわからない)
考えられるのはどれか。1つ選べ。
(a) 肺塞栓症
(b) 薬剤性心筋症
(c) 急性心筋梗塞
(d) たこつぼ心筋症
(e) ウイルス性心膜炎

2024年度セルフトレーニング問題 日本内科学会

アセスメント

冷汗を伴い、血圧も低い。ショックバイタルである。
突然発症の病歴、動悸、Ⅲ音聴取から、心原性ショックが示唆される。

Ⅲ音
Ⅲ音は拡張早期、心室の急速充満期に発生し、心尖部、特に左側臥位で聴きやすい。 急速充満期に心房から心室へ流入した血流が心室壁で急に阻止された結果発生するが、阻止の程度が急であるほど音は強くなる。 心室拡張期のコンプライアンスの減少で発生しやすい。
(中略)
心不全の徴候として重要である。Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ音が引き続いて聴取できると、馬の早駆けの音に似るので奔馬調(gallop rhythm)という。

トーアエイヨー循環器用語ハンドブック 過剰心音(Ⅲ音、Ⅳ音)

採血より先に、心電図をとる。
ST上昇あり、STEMI疑いですぐに循環器内科をcallし、緊急でCAGを依頼する。
心エコーだと、前壁〜前壁中隔が低輝度で壁も薄いが、ECGでは前壁誘導はpoor r progression、ST上昇は目立たない。むしろ、V2あたりの深いS波は後壁のreciprocal changeっぽい。ここは陳旧性梗塞なのだろうか。
ST上昇しているのは、Ⅱ, Ⅲ, aVFとV4, V5, V6。ⅡとⅢを比べると、どちらかというと、Ⅱ>Ⅲなので、責任血管は、RCAではなくLCxっぽい。
LCxだけが急に詰まったとしても支配領域の範囲も狭く、それだけで心原性ショックにはなりにくいと思うが、ベースに前壁の陳旧性梗塞があったのなら、あり得るか。

解答

急性心筋梗塞 or たこつぼ型心筋症
いずれかを判別するのは困難だが、まずは急性心筋梗塞として動くべきである。

たこつぼ型心筋症

病歴、臨床所見、採血・心電図・エコーで、急性心筋梗塞とたこつぼ型心筋症を見分けるのは困難である。

こちらの文献(J Am Heart Assoc. 2016 Jun; 5(6): e003418.)には、心電図所見で、STEMIとたこつぼ型心筋症を見分けるポイントが示されている。

J Am Heart Assoc. 2016 Jun; 5(6): e003418. Figure 2を引用

-aVR誘導
-aVR誘導(+30°)は、aVRの逆誘導に相当する。I誘導(0°)とII誘導(+60°)の間のギャップを埋め、心尖部と下側壁に面している。

J Am Heart Assoc. 2016 Jun; 5(6): e003418.

-aVRという表現がわかりづらいが、
-aVRでのSTe(ST上昇)=aVRでのSTd(ST低下)と読み替えてよさそう。
このケースでは、STE-TTC(ST上昇型のたこつぼ型心筋症)っぽい所見が見られる気がする。

とはいえ、仮にたこつぼ型心筋症を疑ったとしても、診断するには、冠動脈の狭窄や攣縮を否定せよ、となっている。まずは心筋梗塞の可能性があるとして動き、CAGを行うべきと考える。

Guidelines for Diagnosis of Takotsubo (Ampulla) Cardiomyopathy
HEART's Selection たこつぼ心筋症の診断 表2-1を引用


薬剤性心筋症

代表的な心毒性のある抗がん剤といえば、アントラサイクリン系だが、調べればいろいろある。

切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法で使われる薬剤は以下である。

化学療法で主に用いられるのは,5‒フルオロウラシル(5‒FU),テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S‒1),レボホリナートカルシウム,カペシタビン,シスプラチン,オキサリプラチン,イリノテカン,ドセタキセル,パクリタキセル,ナブパクリタキセル,トリフルリジン・チピラシル(FTD/TPI),トラスツズマブ,ラムシルマブ,ニボルマブ,ペムブロリズマブ,トラスツズマブ デルクステカンなどである。

胃癌治療ガイドライン Ⅱ章 治療法 C切除不能進行・再発例に対する化学療法

5-FUやシスプラチンで心筋虚血(梗塞)が生じうるようだ。
選択肢の「薬剤性心筋症」の場合、突然発症の一過性意識障害という病歴は、合わないだろう。

免疫チェックポイント阻害薬による心臓合併症も報告されている。
最も一般的な心臓irAEは、心筋炎である。他には、うっ血性心不全、たこつぼ型心筋症、心膜疾患、不整脈、伝導障害も報告があるようだ。(Front Cardiovasc Med. 2019; 6: 3.

肺塞栓症

担癌患者はPEのリスクが高い。また、PEによって失神も起こりうる。しかし、DVTを示唆する下腿浮腫所見はない。
肺塞栓症の心電図所見で最も一般的なのは、頻脈と非特異的ST-T変化である。歴史的にPEを示唆すると考えられてきた異常(S1Q3T3パターンや新規の不完全右脚ブロック)は実際には10%未満にしか見られないため、見られないからといってPEを否定することはできないものの、このケースは、PEを疑う心電図所見とは思わない。

S1Q3T3 pattern

ショックになるくらいのPEなら肺塞栓症

担癌患者はPEのリスクが高い。また、PEによって失神も起こりうる。しかし、DVTを示唆する下腿浮腫所見はない。
肺塞栓症の心電図所見で最も一般的なのは、頻脈と非特異的ST-T変化である。歴史的にPEを示唆すると考えられてきた異常(S1Q3T3パターンや新規の不完全右脚ブロック)は実際には10%未満にしか見られないため、見られないからといってPEを否定することはできないものの、このケースは、PEを疑う心電図所見とは思わない。

ショックになるくらいのPEならD shape(右室が拡張し左室を圧排している所見)が見えておかしくないが、それも見られないため、否定的である。(右室が拡張し左室を圧排している所見)が見えておかしくないが、それも見られないため、否定的である。

ウイルス性心膜炎

病歴が突然発症であり、心膜炎とは合わない。
急性心膜炎の場合は、広範な誘導でST上昇が見られうるが、ST上昇の形は凹型(鞍型)で、心筋梗塞の凸型と異なる。

心筋梗塞と心膜炎のST上昇の違い
看護roo! 急性心膜炎の心電図|各疾患の心電図(7) 図1を引用

感想

CAGなしでたこつぼ型心筋症と解答させるのは無理があるんじゃないか?
実臨床なら、CAGをやれない特別な理由がない限り、絶対CAGをやらないといけない。

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