2024年度セルフトレーニング問題を解いていく!(5)〜肺の寄生虫感染症〜
急性期病院で9年間総合内科医として働き詰めるも、ヘルスケアスタートアップに転職したため、総合内科専門医試験の受験資格がなくなってしまった10年目の総合内科医です。
出願取り消しの連絡が来るまで今年受験するつもりでいたので、セルフトレーニング問題(日本内科学会発行)を試験対策のため購入していました。
もったいないので、自分のアセスメントを加えながら解いていきます。誰かの役に立てば。
問題:46歳女性、健診での胸部異常陰影
問題文は一部改変、解釈加えて記載します。
アセスメント
CT画像だけ見れば、肺がんも疑われる所見である。
しかし、切除病変で、凝固壊死と虫体あり、とのことなので、寄生虫感染であることがわかる。
肺に感染する寄生虫は、
肺吸虫症(ウェステルマン肺吸虫症、宮崎肺吸虫症)
イヌ糸状虫症
糞線虫症
エキノコックス症
トキソカラ症 などがあるみたい。
正直、肺吸虫症しか知らなかった。
肺吸虫症
第2中間宿主の淡水産カニを感染源とする食品媒介蠕虫である。サワガニやイノシシ肉、シカ肉を食べることで感染しうる。
国内では、ウェステルマン肺吸虫および宮崎肺吸虫の2種。
国内では、年間に50~60例前後の症例の発生していると推測されている。
九州で最も多く(55%)、次いで関東(20%)で多いらしい。九州は日本人男性、関東では東南アジア出身の女性が多い。
IASR Vol. 38 p.76-77: 2017年4月号
感染してもほとんどが無症状。
発症した場合の症状
初期段階(感染から産卵までの2ヶ月間、幼虫が腹腔内を移動している間)は、発熱、倦怠感、下痢、心窩部痛、蕁麻疹が見られる。幼虫が肺に達する際、胸膜痛、呼吸困難、咳嗽などが見られる。
後期段階(成熟した吸虫が肺に生息する期間)は、虫体は炎症と繊維化を引き起こす。反復性喀血が最もよく見られる症状である。
肺外症状は、比較的まれだが、虫体は、脳(1%未満)や腹腔臓器、皮下組織などに移動する可能性がある。
診断方法
感染初期は、診断困難。好酸球の増多や、曝露歴・臨床症状などから推定するしかない。
感染後期は、喀痰・気管支肺胞洗浄液・便の中に、虫卵を見つける。
血清学的検査:国内ではSRLで寄生虫の抗体スクリーニングが可能。
無症候性感染も治療が必要なため、初発患者の家族もスクリーニングすべき。
画像検査
20〜60%に胸水が見られる。
肺実質の多発性嚢胞、不規則な線状病変、結節性陰影など。
CTでは、胸膜肥厚を伴う、胸膜下病変として見られる。
病理画像
治療
プラジカンテル
代替薬:トリクラベンダゾール
UpToDate:肺吸虫症
イヌ糸状虫症
肺犬糸状虫症は、犬糸状虫の幼虫が、人体に侵入後、血行性に肺へ到達し、肉芽腫や梗塞病変を形成し発症する疾患である。
イヌを終宿主とする寄生性線虫だが、ヒトにも、アカイエカなどの蚊を媒介して侵入しうる。
無症状が多いが、咳嗽、呼吸困難、胸痛、発熱、血痰などと認める場合もある。
肺野末梢に辺縁整で境界明瞭な肉芽腫 を形成することが多い。
転移性肺腫瘍や他の良性腫瘍との鑑別を要する。
肺犬糸状虫症は自然軽快することが報告されているが、肺の悪性腫瘍や結核などの良性腫瘍の診断で切除され、病理学的検査で肺犬糸状虫症と診断さ れることがほとんどである。
治療は不要。
肺犬糸状虫症の 1 例 日呼外会誌 33巻7号 47(2019年11月)
糞線虫症
感染幼虫に汚染された土壌から経皮的に幼虫が侵入。
幼虫は血流やリンパ流に乗って心臓、肺へ達し、肺胞内から気管をさかのぼり嚥下され小腸上部で成虫になる。
熱帯・亜熱帯地域で流行し、温帯地域でも発生がみられる。日本では九州南部、沖縄・奄美地方が浸淫地であるが新規感染者は発生していない。
経皮的に侵入した幼虫による皮膚爬行疹(creeping eruption)がみられることがある。
感染から1週間して、幼虫が肺へ移行すると一過性の肺炎症状が認められる。乾性咳嗽、呼吸困難感、喘鳴、血痰、咽頭違和感など。
感染から2~3週間後に腸管に到達すると、寄生数が多い場合には腹痛、下痢、食思不振、嘔気、嘔吐などがみられる。
細胞性免疫が低下した状態だと、自家感染に拍車がかかり、寄生数が爆発的に増加する。腸管から糞線虫と共に大量の腸内細菌が体内に散布されると敗血症や肺炎、髄膜炎などを合併し播種性糞線虫症と呼ばれる重篤な状態となる。
診断:糞便中の虫体を証明する。血清の特異抗体を検出する免疫診断もある。
治療:イベルメクチンの経口投与。
エキノコックス症
エキノコックス属条虫の幼虫(包虫)に起因する疾患。
肝臓、肺臓、腎臓、脳などで包虫が発育し、諸症状を引き起す。
ヒトには、成虫に感染しているキツネ、イヌなどの糞便内の虫卵を経口摂取することで感染する。
国内患者は、ほとんどが北海道。4類感染症全数把握疾患。
本症の感染初期(約10年以内)は、無症状で経過することが多い。
単包性エキノコックス症では、孤立性の嚢胞がゆっくりと増大して肝腫大や腹痛を認め、周囲の諸臓器を圧迫し、胆道閉塞や胆管炎を併発したり、ときに破裂する。
多包性エキノコックス症では、約98%が肝に一次的に病巣を形成する。肝に生着した微小嚢胞が外生出芽によってサボテン状に連続した充実性腫瘤を形成 し、進行すると肝腫大、腹痛、黄疸、肝機能障害などが現れる。さらに進行すると胆道、脈管などの他臓器に浸潤し、閉塞性黄疸、病巣の中心壊死、病巣感染を きたして重篤となる。末期には腹水や下肢の浮腫が出現する。肝肺瘻をきたすと胆汁の喀出、咳嗽が認められ、脳転移をきたすと意識障害、けいれん発作などを呈する。
診断:病理組織検査による包虫検出、血清学的検査による。
外科的切除が唯一の根治的治療法。
トキソカラ症
トキソカラ症は、トキソカラ属の回虫が人に感染して起こる疾患。
イヌとネコが終宿主。ヒト体内では、成虫になれず、幼虫移行症として、多彩な症状を引き起こす。
感染経路は、有機野菜や犬や猫の毛を媒介した虫卵の経口摂取、待機宿主である牛や鶏レバーの生食。
臨床症状
内蔵型:腸管から血行性に各臓器へ散布される。特に肺と肝臓。
肺病変は、内蔵型の20〜85%に見られる。咳、喀血、胸痛、呼吸困難など。無症状の症例もありうる。好酸球増多や、CTでの多発小結節影±GGO halo, focal GGOが多い。
肝病変は、トキソカラ抗体陽性患者の35〜68%で見られる。腹部不快感、腹痛、発熱、倦怠感など。エコーで肝実質内に多発する小さな低エコー域として見られる。造影CTでは、門脈層で観察するのが良く、病変辺縁の造営効果が乏しいことが悪性腫瘍との鑑別に役立つ。
眼型:ほとんど片眼発症。飛蚊症や、眼痛、眼の充血、羞明、失明。必ずしも末梢血の好酸球増多を伴わない。
神経型:まれ。髄液中の好酸球増加と、抗トキソカラ抗体、画像所見で診断されている。好酸球性髄膜炎、脳炎、血管炎、脊髄炎、認知症、てんかんなど。
潜在型:慢性的な脱力感、眼瞼結膜や皮膚の掻痒感、びまん性筋肉痛、血管神経性浮腫、小児の睡眠障害や行動異常といった軽微な症状。好酸球数は正常か、上昇しても1500/μL程度。
治療
アルベンダゾール
メベンダゾール
国内におけるトキソカラ症の実態 モダンメディア 61巻 12号 2015
診断
イヌ糸状虫症(たぶん)
無症状、健診で偶発的に見つかり、腫瘍との鑑別を要して切除するパターンに合致する。
解答
(a) 経過観察
イヌ糸状虫症の場合、自然軽快するため、治療不要。
他の選択肢を見ていく。
(b) ST合剤と(d) ミノサイクリン
抗菌薬なので❌
(c) ビチオノール
条虫の治療薬なので❌
(e) アルベンダゾール
トキソカラ症の治療薬。トキソカラ症も無症状がありうるらしいが、CT画像がGGOではなく、典型的ではないのかなぁ…と。
感想
全部調べるのに苦労したが、正直、一生お目にかかれる気がしない。
にもかかわらず、明日から寄生虫感染が鑑別に上がるようになってしまう…(利用可能性バイアス!)
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