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タイギゴ(9)


 節分は旧暦で年が改まる日だ、とどこかで聞いた。聞いてないかもしれない、Twitterでだれかがツイートしてるのを読んだのかもしれない。そもそも節分は旧暦の上では年が改まる日だっていうことが間違いかもしれない。西暦で元日はもちろん1月1日だ。けれど、旧暦の上では、西暦で元日にあたる日が節分だって話を耳にした憶えがある。
 ネットで検索すれば正確な情報がでてくる。ネットは便利だ。でも別に正確な情報をお届けしたいわけではない。「たしかそうだと聞いた憶えがある」って話を書きたいのだから、検索してしまったら正確か不正確かしか書けない。
 みうらじゅんといとうせいこうのザツダンという、もう本放送はされてないけど昔、文化放送でやってたラジオ番組があってよくYouTubeで聴いている。たしか、いとうせいこうの発言だった思うけれど、
「ネットで検索したら正しい情報がでてくるけど、俺たちは自分たちの勝手な想像で好き勝手にしゃべるのが好きだから、検索するつもりもない!」
 みたいなことを言っていて、たしか、THE ALFEEのアルバムか曲の名前に「since」が付いてて、なんでタカミーは自分たちの結成年でもない「since」をタイトルに付けたのか、
「ALFEEって『ディスタンス!』の人だよね? そういえば『ディスタンス』と『since』は発音が似てる!」
 って今度はみうらじゅんが言い出した。

 話の展開上面倒くさいので検索すると、その話題にのぼった曲のタイトルは「SINCE 1982」で、ALFEEの結成年はWikipediaによると1973年、「SINCE 1982」は今(みうらじゅんといとうせいこうのザツダンが放送されていた当時だから、2017年ごろ)から見ると30年以上経ってるから問題ないように見えるけれど、1982年に「SINCE 1982」ってタイトルで発表してるってことは発表当時から考えれば「最新ス」だ。(最新+sinceで、最新ス。)
 もうこの辺から、だんだん、みうらじゅんといとうせいこうの基本情報を知らない人からしたら置いてけぼりにされた感じがすると思うけれど、みうらじゅんは街中の看板に描かれている「since」を写真に撮って集める「Since GO」ってマイブームをやってて、このネーミングは「ポケモン GO」に掛けている。そもそも「Since」を集め始めたのは、お洒落なお店の看板にはよく名前の下に「since 19××」とか、その店のオープン年、創業年が書いてあるけど、オープンして30年くらい経っていれば「since」の威厳が保たれるけど、中には、
「since 20××」とか、もっとひどいのになるとたとえば今年オープンした店が、
「since 2021」
 と付けてたりする。これを「最新ス」と呼んでる。そんなオープンして数年、「since 2021」の「最新ス」に至っては数ヶ月しか経ってないような店が偉そうに「since」なんか付けてたら「since」の面子丸潰れじゃねぇか! って街中の「since」を写真に撮って集め出したのが「Since GO」の始まりで、ALFEEの曲の話に戻すと、1982年に発表した曲に「SINCE 1982」と付けてしまうのは「最新ス」だからこれをどうしたらいいんだ、ってメールがリスナーから届いて、どうしょうって話をいとうせいこうとしてた。
 もうすこし「Since」の話をすると、みうらじゅん曰く、大文字で「SINCE」と書くか、小文字で「since」と書くかって問題もあって、全部大文字だと「偉そうだ」とみうらじゅんは言ってて、頭文字だけ大文字の「Since」がいちばん品があっていい、みたいな話をしてるんだけど、ここまで来るともう個人の受け取り方の問題だし、俺も書いててアタマがどーかしてくるからここでは大文字小文字の話はしない。
「『SINCE 1982』がどんな歌詞なのか調べるつもりはないから送ってほしいけど……」
 みたいなことも言ってて、たしか話の流れでは歌詞の内容まではいかなかったと思うけど、もしそっちにいけば勝手に2人で歌詞の内容を考えただろうと思うし、実際の2人の会話はそのあとどうなったかというと、
「夜露に濡れた森を抜けて、ってどういうことだ?」
「白いバルコニーだから、ロミオとジュリエットみたいなことか?」
「渚のバルコニーっていうのもあったな」
「バルコニーブームだったの?」
「でも俺たちは『ベランダ』って言ったもんじゃん」
「ベランダとバルコニーってなにが違うの?」
 ってそっちに行っちゃった。

 節分はとにかく旧暦では年が改まるって話だ。もっと『未明の闘争』の村中鳴海が猫の回想のあとに出てきたところは鮮やかだった。もっと散々「since」の話をして、もともと節分の話から入ったことなんてとっくの昔に忘れて、延々「since」の話をしたあとに「節分」の話をまた出したら読んでる方も書いてる方も楽しかった。俺の今足りないスキルは「脱線力」だ、いかに長く関係ない話を書けるか。それには話題の引き出しをたくさん持ってないといけないし、シナプスがいろんな方向に飛ぶように回路を作らないといけないし、こういう、自分の足りないところを見つけてそこを克服するようにするみたいなことは今までの俺はすこし嫌ってたというか、こんな風に文章で書いて世界に発表するなんてもってのほかだったけど、てつやの『天才の根源』に、俺は自分に足りないところを見つけてはやく克服してはやく上達したい、みたいなことをてつやが書いてて、俺もそうしようとついこの前決めた。

 普通二輪の教習で2回コケた。1日に2回もコケたのは初めてだった。しかも「みきわめ」で、である。今日教習を受けたら次は検定だ、その後に及んで2回もコケた。
 まずウォーミングアップにスラロームをするとき私は4人の受講生の先頭だったんだけど、1速で走り出して5メートルでいきなりコケた。左肘を擦りむいた。痛かったが、
「大丈夫です、大丈夫です」
 と答えて、うしろの人に痛む左腕を上げて「すみません」という仕草をした。ウォーミングアップのあと、検定コースを私が先頭で走らないといけない、指導員の人もバイクに乗ってるから乗用車のように助手席にいて「次はここの交差点を右折してください」とかコース指示ができないからコースは自分で覚えてないといけない。そこでも私は先頭で、何度もエンストした。最近「エンスト」は「エンジンストップ」の略語だと気づいた。5〜6回エンストしたかもしれない。憶えてない。もしかしたらコースを走ってる時にもコケたかもしれないが憶えてない。あまりのことに自分の無意識が記憶を消したかもしれない。そのぐらい私はテンパっていた。テンパらないように、焦らないようにと、ゆっくり落ち着いて動作するのに精一杯で、ほかのことに構ってられなかった。麻雀してたならテンパイはあんなに嬉しいのにこの場合のテンパイは全然嬉しくない。テンパらないのに必死で、テンパらないようにとテンパっていた。
 さいご、2時間の教習が終わり、そこまでいくのにヒーヒーもので、大緊張の2時間、バイクをうまく乗りこなせない、こんな夜にお前に乗れないなんて! 繰り返しになるがもう「みきわめ」段階で、である。次、教習所に来るときは「検定」である。
 まだ時間が余っていたからスラロームと平均台の練習をした。そのときに平均台の発着点に曲がり切れなくてまたコケた。これが最後のコケだ。何百キロもある車体を1人で持ち上げた。うまいもんだ。初日は全然立て直せなかったのに、1人でできるようになった。コツを掴んだ。

 今日は節分である。旧暦では年が改まる。正しいかどうかはもうこの場合問題ではない。もう2/2は元日で、大晦日は昨日だったのかもしれないからもう年は改まってしまっているのかもしれない。いつもは節分は2/3なのに、今年はなんで2/2なんだ? 検索すればその理由が出てくるはずだから調べないのはさっき書いた。もう今年の悪い憑物はぜんぶ去年に置いて来たい。左肘をケガして、左の革靴は靴底が引き裂けて壊れた。俺が壊した。このビロビロではクラッチが操作できないから長靴を借りた。その長靴で2時間受けた。そういえば一緒に回ったもう1人の人も1回転んだ。その人は1回だった。2人は受かる。憑物はコケて取れた。

 駅地下のスーパーに豆は売っていて、A4の紙を半分にしたぐらいの大きさの袋に詰められた炒り豆が1袋330円で売られてた。豆の相場は知らないが、高いと思った。1袋で足りると思ったが2袋買った。とにかく今夜は豆を投げないと気が済まない。そんなときに、
「あーー! もう1袋買っておけばよかった!」
 なんて後悔は御免だ。なんとしてでも今夜という今夜は気が済むまで投げる。恵方巻きも食べるけど恵方巻きを食べてる場合ではない。
「鬼はそと!」
 みんな豆を投げろ。
 この時間、日本中の、いったい何万人が豆を投げてるのかと考えるとマジでどーかしてると思う。狂ってる。インスタにも書いたが狂ってる。でも狂ってるからいい。すごくいい。健やかな錯乱。デカイ声でさけぶ。
「鬼はそと!」

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