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トチヂセンの翌日

まずは宣伝を。

野本さんというかっこいい男と、小島信夫というかっこいい態度で小説を書く男の話を往復書簡(手紙)で連載しています。
小島信夫が死ぬ(2006年死去)まぎわに書いた『残光』という91歳くらいで書いた小説からスタートして、この人は実在する人の名前を小説の登場人物としてそのまま使っちゃうのでほんとの話なのかなんなのかわけがわからなくなるんだけど、そういう小説をぼくらが生まれる前に書いてた男の話を書いています。読まなくていいけどおもろいです。

では本文です。

 4年前のきのう、こんな文章をあげていた。2020年の7月、といえば、その前の4月に大学を5年生で卒業して、就活もうまくいっていなかった、というかうまくいかなかったのは就活ではなく、受けた企業がわたしを選ばなかったのだから相手が悪いんだけど、どっちも悪くないんだけど、とにかく先が決まっていない……という言い方も「罠」で、先が決まっていないというか就職したって先なんか決まっていない。
 進路はどうするんですか?
 まるで目の前に舗装された道がすでにあるような言い方。道なんかない。草ボーボーのところを、足で踏み固めて歩いて振り返ったら道ができていた。目の前には荒野が広がっている。しかしこれは「荒野」なのか。これが正常であって、荒れている野なんかない、野とはこういうものだ。野はもともとこうなのだ。まるで荒れていない野があるかのように錯覚するから「荒野」なんて言葉が出てくる。
 今から思えばこのときからわたしの「暗黒時代」が始まったのだが、「暗黒時代」なんて言い方が間違っている。だから日記を書き始めた。あとで思い返したときに一言で塗り固めてしまわないために、日々のことをその日のうちに書き始めた。

 今回は期日前に投票した。当日予定があったからだ。
 役所に行き、入り口目の前に作られていた期日前のブースに向かう。白い布でまわりを覆われていて、入り口から中が見えた。結構びっくりしたのは、ブースの中がこんなに外から見えていいの?ということで、実家に住んでいたとき投票所は近所の公民館のいちばん広い会議室のようなところだった。夜にその公民館の前を車で通ると、窓から中の様子が見えて、水曜日は小中学生の空手教室、金曜日はおじさんおばさんが踊っている社交ダンス、ほかの曜日はわからない、をやっている。投票の日はもちろんその小さい窓でも、中の様子が見える窓には幕が貼られていて隠されている。
 会議室の入り口で送られてきた投票券を見せ、とにかくその受付に人がたくさんいる(工程がたくさんある)印象で、投票券を渡す人、そのあとに何をしているか覚えていないけどもう1人ぐらいはさんで、最後に投票用紙をくれる人、とそこはなんとなく足止めをくらう感じがする。でもそこを越えてしまうとあっという間で、候補者の名前を書いて、投票箱に入れて出て行くだけだ。
 子どものころから見慣れていたのは会議室そのものが投票所になっている、この公民館の投票所だったから、外から中が見えていないものだったから、役所の中に簡易的に作られたものではなかったので、なんとなくガードがゆるゆるな印象受けたけれどそんなことはなく、候補者の名前を書き、あっという間に役所をあとにした。

 応援していた候補者はもしかしたら当選するかもしれないと期待していたが3位に終わった。現職がその2倍以上の得票数で当選した。
 あいだにはさまれているイシマルさんは実は好きだった。YouTubeに切り抜きがたくさん出ているがトチヂセンに立候補する前はほとんど毎日欠かさず見ていた。コテンパンに「論破」するのではなく、腐敗しきった議会を本人は「お片づけ」と言っていたが、まさに「お片づけ」をしている。これで政治がよい方向に向かうだろうと思わせる。
 イシマルさんはYouTubeやTwitterを見て、有権者が政治に興味を持ってくれることが一番、と言い、わたしもその1人だ。自分が住む村の議会はどうなっているのか、そもそもうちの自治体には議員が何人いるのかすら知らなかった。イシマルさんはかなり政治に対する興味を抱かせてくれた。その意味では知れてよかったなと思う。
 しかしトチヂセンに立候補すると聞いて、ムリだ、となった。というかそもそもこの人はヤバいと思っていた。こんなことを言ったら「根拠のない批判は誹謗中傷です」と言われそうだが、一発で見ればヤバいとわかる。それはたしかにそうで、人間も動物だから頭(脳)なんか通さなくても身の危険を察知するセンサーはある。頭(脳)の考えることが肥大化しすぎてそういうものはないかのようにされているけれど、たしかにあるので、見た瞬間にヤバいと思った。ヤバいと思いつつ切り抜きを見ていたんだけど、それは遠い広島の、読み方もわからなかった市の話だから火事と喧嘩は江戸の華で、よその事だからおもしろがっていた。

 談志さん、あなたは火事が好きだなんて不謹慎なことを言っているけれど、自分の家が燃えたらどうするんですか?
 馬鹿野郎、それは火事じゃなくて災難というんだ

 イベントで立候補を表明してから、つながりを持つ人がなんかぜんぶそんな感じだし、俺のセンサーは狂っていなかったという気持ちが日に日に増す数ヶ月間だった。
 わたしとしては投票した人が受かろうが落ち様があまり興味はない。投票は1票しかできないが知事がおこなう政策への文句はこれから4ヶ月間毎日を言える。1票を投じるのも大事だが、日々文句を言い続けることの方が大事な気がする。毎日は大変だからやらないけどね。そのときどきで。

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