タイギゴ (6)
ホームランを打って目が覚めた、
オレは西武ライオンズにいて、プロ初スタメン、1打席目は左中間にヒットを打った、2打席目が回ってきたとき、なんとなくベンチの雰囲気が悪かった、オレはその理由が分からなかったのだけど、打席に向かってる途中、辻カントクから「代打」を言い渡された、
正直くやしかった、さっきヒットを打ったし、その感覚が残っていたし、もう一回試したかった、あとでやろう、じゃ遅い、試合中だろうとなんだろうと、すぐにやりたいと思っていた、でも「代打」を言い渡された、
オレはベンチに戻った、すると相手チームの投手は「アンチ西武」だったらしく、(そういえばさっきこの投手に交代になった、だからベンチの雰囲気が悪かったのか、)オレが打席に入る寸前だったのに突然「代打」になったのが不服だったらしく、ベンチまで来て、イヤミったらしく文句を言って、
「アンドウのファールだったら俺でも取れる」
と言った、相手チームの守備は全員いなくなっていた、どうせ俺の球をアンドウは打てない、打てたとしてもどうせ凡打かファールだから俺が取ってアウトにしてやる、ってことらしい、完全になめられてる、
ケンカを売られてる、左どなりに源田、右どなりに横井(マジの友だち、)がいた、オレの背番号は「6」だった、
「どうする?」
と、辻カントクが言った、みんながこっちを見てる、正直こんなところでヒットを打てる自信もない、あっけなく三振してベンチに戻ってくる、なんとなくみんな余所余所しくて、声もかけてくれない、腫れ物に触るみたいな待遇を受けてる自分の姿が浮かんだ、でもちょっとバカになってみようという気持ちもあった、
「やります、やらせてください」
と言った、言いながら、いや、言う前に頭のなかで「やります、やらせてください」と流れながら、この状況にこんなピッタリな言葉はないと思った、お笑い芸人さんを思っていた、芸人さんは振られたら決して「NO」と言わない、オレもそれにならった、
打席に入った、守備にはだれもついていない、客席はオレの視界に入る客席にはだれもいなかった、ベンチでみんなが見ている、落合の神主打法をマネした、バットを高く構えて仰ぎ見る、前髪をちゃんとヘルメットの中にしまってなくて邪魔だった、ヘルメットにしまった、まだ打席に入っていなかった、打席に入った、
初球、腕より先に腰を回すことを気にした、ライナー性のホームランを左中間に打った、ところで目が覚めた、あとであのボールは、だれかがオレにくれるだろうと思った、
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