2021/04/19(ガープ-p.24)


 就活から帰ってきて車で走っていると、
「従業員募集! 学生、フリーター大歓迎!」
 というポスターが目に付く。ポスターといっても、一文字ずつA4の紙に印刷して、店のガラス窓に貼っているだけなんだけど、就活期間が長いせいか、こういうポスターは見つけると一応、応募するつもりはまったくないんだけど、じーっと見てしまう。

 大学を卒業してそのまま就職した人はそんなことする必要はないし、夢を持っていてそれに邁進している人も見なくていい。僕はとても中途半端というか、自分の夢はあるけれどそれは生活と夢とを天秤にかけて、
「さあ! 勝負っ!」
 と、ギャンブルをするように目指さないといけないものではない(小説は働きながら書ける)ので、働き口を探している。もちろん、働きながら書けるってことにものすごく利点を感じているし、僕はそれがいいんだけど、両方やろうとしていることは「中途半端」なのか、「贅沢」なのか。知らん。

 ジェーン・スー『生きるとか死ぬとか父親とか』のドラマを観ている。文庫本もちょっとづつ読んでる(ほんとにちょっとづつ)。この前父が自分の昔話をしてくれた。父は24歳で公務員になった(俺と同じ年だ!)んだけど、それまでは印刷会社に勤めていた。なにを作っていたのか分からないけど、もしかしたら本も作っていたのかもしれない、「原稿をどうのこうの」みたいなことを言っていた。

 父はずっと印刷だけをしていたけれど、デザイナーの仕事をしたくなった。ポスターのデザインをしたり、本の装丁を考えたりする仕事だそうだ。父がそういうクリエイティブな仕事に興味があったとは思わなかった。
 もともと印刷の職人として雇っていたから「そんな勝手なことを言ってもらっては困る」と社長に反対されたそうだが、半年以上かけて説得し、
「そんなにやりたいなら、やってみるか?」
 とようやく許しをもらった。
 24歳の父は「やった! これで自分のやりたい仕事ができる!」と喜んでいたが、ちょうどその時に役所から、
「人が足りなくなったから来てくれ」
 と電話で伝えられた。
「役所ってところはそういうところなんだよ。話はいつも急に来るんだよ」
 と父は言った。
 しかし、自分から直談判して許してもらったデザイナーの仕事。社長に大口を叩いておきながら、
「役所から来いって言われたんで、デザイナーの話は無しで」
 なんてとても言えない。役所の話は断ろうかと社長に相談すると、
「なに言ってんだ! 役所で働く方がいいに決まってんだろ!」
 と背中を押された。

「人生の分岐点みたいなモノって重なるんだよな~。
 でも行きたい方向があるならちゃんとそっちに行かないと。
 今でもその社長には、死んじゃったけど感謝してる」

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