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保坂和志×山下澄人 書く気のない人のための小説入門 文字起こし

2012/04/24 収録

(保坂)えー、あの、保坂と、
(山下)山下です
(保坂)えっとそれであの、えっと、今日はね、おもに「緑のさる」の話をするつもりなんですけども、それで、なにしろ僕は帯書いてますし、この小説に対してある意味責任がありますので、こう、この小説はどういいのかってことを言うんですけど、ちょっと先に言おうっかな、えっと、あの、この間も、この間っていうのは、先週の金曜日に京都で2人で長いこと長い時間しゃべってきたんですけど、そことは、その話とはダブるところはないつもりではいるんですけども、僕の、名義のホームページを運営している高瀬雅文という人がいて、彼の言った「緑のさる」に対する感想が秀逸、とてもよくて、「小説家が書いた小説じゃないような小説だ」って、この小説は小説家が書いた小説じゃない、あの、小説家はこう書けない、大体、えっと、うーん、うまく書くってのは、やっぱりね簡単なんですよ、うまく書けない、だからえっと、文章とかそうは言ってもうまいじゃないですかみたいなことを言う人もいるかもしれないけれども、その程度のうまく書けない人はそれは小説家はさすがに諦めた方がいい、それはあの、だから、野球するときに、バットに当たらない人は野球はさすがに、あのうちの家内とかはまったく当たらないですからね、テニス習いに行って、とうとうラケットに一度も球を当てられなくて帰ってきたっていう、でもそういう人はいるんですよ、あのやっぱり文章読んでも、これはやっぱりさすがに文章以外のことをやった方がいい、でもそれは、文章以外のことっていうのはほんとに音楽をやった方がいいとか、ものを作った方がいいとかいろいろあるわけなんで、で、でもだからと言ってその、うーん、で、そう、ほんとに、僕が言ってるってのは、本当にあの、本当に全然適正のない人っていうことで、そういう人ってのは、でもやっぱり100人に1人もいないんじゃないかと思うんですよね、で、あの、山下くんってのは、昔は不良ですからね、学校の成績なんていいわけないんで、よくないよね?
(山下)はい
(保坂)あの、えっと、なんだろう、自分がこう、勉強ができないとか、勉強ができないうえに頭が悪いとか、勉強ができないから文章は書けないって長いこと思わされてきたんですよね、で、でも、僕もそうだった、ただ僕の場合にはだいたい人の言うことを聞いてないってのがあるんで、僕が最初文学部希望してたんですけど、そんときに、うちの母が絵を描いてるいとこに、あれ文学部行きたいって言うんだけど、なにしたいんだ?って言って、しょうがないから「小説家になりたいんだ」って言って、その絵描いているいとこが「だってお前作文ヘタじゃないか」って(笑い) 「お前作文褒められたことないだろ」って、そういうもんじゃないんです、そういうもんじゃない、で、っていう話なんですよ、で、まあちょっと、どうぞ。
(山下)はい(笑い) あのー、そうですね、僕はえっと勉強はほんまにできなくて、で、今思い返して、えっと、勉強ができてなかった自分は、そんなに卑屈じゃなかったって以外と記憶を捏造しているところがあって、やっぱ実際はけっこう卑屈になるっていうか、えっと、高校くらいになるとさすがに開き直るんですけど、小学校くらいのときに勉強できへんっていうのはけっこうキツ、つらくて、僕のできなさはあの本当にできなかったんで、僕すごいその1個記憶があって、二等辺三角形の面積の出し方っていうのを授業で習ったときに僕はどうしてもわからんくて、その、わからなかったことはともかく、自分だけが分かっていかなくなっていく、時間が経つに従ってみんなが分かっていって、最後に自分だけが残ったときのあの、うーんなんていうのかな、そのときの記憶がいつまでも残ったんですね、それでえっと、ちょっと卑屈になって、で、まあちょっと不良になったときに、
(保坂)あのー、二等辺三角形も普通の三角形も面積の出し方一緒だよね?
(山下)そうなんですよ(笑い)そうなんですけど、あの普通の三角形ってすぐ四角にできるでしょ? あの、なんていうんですか、2個並べると、
(保坂)平行四辺形
(山下)いや、正三角形ってこう真四角になるじゃないですか、
(保坂)それ直角三角形、
(山下)二等辺三角形ってならないでしょ?
(保坂)ならない
(山下)だから分かんなかったんですよね(笑い)いや、まあいいや。それで、えーっと、その、えーっと、僕は役者を長いことやってたんですけど、演劇をはじめるときに台本書いたのが30なんですけど、30まで字を書いてなかったっていうか、そのときはまだケータイのメールとかもそんなに普及してなかったのでメールを書くこともないから、ほんまに文章書かなかったですね。なんつうか、……これはべつにオチがある話ではないんですけど、
(保坂)はい、あのー、そうだね、本当に、それでちょっとね、「太陽」だしてる平凡社から「太陽の地図帳」っていうこういうムックがあってそれが山下清の特集なんですね、それで、この表紙を開くと、これみなさん是非見てほしい、手にとってほしいんですけど、あの山下清のノートの文章が載っていて、これが、句読点も打ってなければ改行もない、だから、○で終わるところがもうそのまんま、ほんとにそのまんま次の言葉がきてて、だからこれマスじゃない、罫、罫、縦の罫だけのノート、横の罫のノートを縦に使ってるんですけども、それであのー、ただこうずうっと書いてある。ここで、ここでノートが切れてるんでいくらなんでもこうは行ってないね、こういってこういってるんですけど、上で、上で一行づつ書いてって次下で一行づつ書いてってそういう風にしてるんですけど、それで、あのー、ちょうどそういえばこのあいだ「なんでも鑑定団」で山下清の鑑定があってすごい高値がついたんですけど、あのそのときにね、やっぱ山下清の文章もついでに読まれて、で、そのナレーションがあるじゃない、「文章は稚拙だが味がある」みたいな、稚拙じゃないんだよ、っていうか、お前なに言ってんだ?って、それお前なんの権限があって稚拙って言うんだ、それで、というわけで、あのー、これをその前半半分をこれから山下くんが読んで、後半を僕が読みます。やっぱり、我々の文章の中に山下清はやっぱいるんだよね。と思うので、まず前半は山下くんが読みます
(山下)はい、えっと、「おばさんとはさみ将棋をやってちょうどいい勝負でやっと僕が勝ったのでもう一回やろうかと言ったらおばさんが清は強くて敵わないからもうやめたと言われたので昼間仕事をしているときよそのおじさんが手伝いにくるのでこのおじさんがときどき家へくるのでおばさんがこのおじさんのことをせんべい屋さんと呼んでいます家のおじいさんは毎日俵を作っています庭で大根の葉っぱを切っていると女の人が子ども2、3人つれて家に入ってきたのでお客さんが大勢来たなと思って大根の葉っぱをみな切ってしまってからその葉っぱは馬のエサになるのでその葉っぱをみな干してしまって大根を洗っているとお客さんが火を燃しているからお客さんが家へ手伝いに来たのかと言ったらおばさんが今日女の人が2、3人の子どもを連れて来た人は家の親戚だからもうじき正月で家へ遊びにきたんですと言われて明日になって餅つきがあるので僕がもちをついておばさんがもちひっくり返しているのでしばらく経つとアキラさんが来て清餅つきが上手だな餅つきだけ上手だなと言われて正月は半日こたつであたって遊んで昼からなわないをやって夕飯が済んで用も終わらせてこたつであたって」
(保坂)はい。あの、これべつに、そういう意味で前半山下くんにしたわけじゃないんだけど、後半の方がおもしろいんだよねこれ、全然(笑い) 後半の方が全然笑っちゃうんだけど、申し訳ないことに、で、出版されてる山下清の文章ってのは全部文節ごとに分かち書きになってるんだよね、句読点は入れない、山下清に、なんていうの、敬意を表して句読点は入れないんだけど、分かち書きにしてっからまったく同じことで、会話になるとちゃんとカギカッコつけてんですけど、ほんとにもうびっしりなんです、で、えー、「夕飯が済んで用も終わらせてこたつであたっているとき正月だからよその子どもが家へ遊びに来てるので子どもがすごろくやかるたをやって遊んでいるので僕もその仲間へ入ってすごろくやかるたをやったらアキラさんが来て清子どもになったのかすごろくだのかるたをやっているからお前は子どもみたいだなと言われてアキラさんが人のことを子どもみたいだなと言っているくせに自分だってすごろくだのかるただのをやって大きな声で笑いながら騒いで遊んでいます大根を切り干しにするようにきっているとよその子どもがいたずらして困ってしまいました僕が一生懸命働いているとおばさんが僕の仕事を見て清は陰日向はないな人が見ていても見ていなくても仕事はごまかさないで一生懸命よくやるな清は仕事が1/4しかできないので本当は家で起きたくはないので陰日向がなくて仕事は休みなしによくやるので家に置いてやるから一生懸命働いてくれと言われました仕事がたくさんあって忙しいときおばさんが清の仕事は遅くてずるくさいといわれているのでずるくさいという言葉はずるいという意味だと思って僕はずるいことはしないと言ったらおばさんが清の仕事はずるくさいというのは仕事が遅いからずるくさいのと言うのと言われました」以上です(笑い) あのー、昨日もパラパラ見ててね、感動したのがね、あの、八幡学園ってところにいる、ずっといたので、施設に、それでそこから逃げ出すんですね山下清は。それで、「僕は八幡学園に6年半くらいいるので学園が飽きて他の仕事をやろうと思ってここから逃げていこうと思っているのでヘタに逃げると学園の先生に捕まってしまうので上手に逃げようと思っていました」(笑い)なんかそういう響きがやっぱ小説、文章の中に、小説の中にあると、いい感じ、美しいなと思うんですけど、その、ヘタに逃げると捕まるから上手に逃げようとか、そのー、っていうような考え方と、あと文章書いているときのどこで息継いでいいのか分かんないみたいな、ずうっとこうずうっと途切れずに続いてるみたいな感じとか、あの、やっぱり分かち書きしてる山下清の文章読むともうやっぱ違うものになっちゃってるですよね、それだけで、あのー、えー、「源氏物語」っていうのは、昔は、山下清はまだ漢字がいっぱいあるからいいんですよ、「源氏物語」っていうのはひらがなだけでしょ、あの「源氏物語」の原文っていうのは、句読点もちろんないし、改行もなくて、ずるずるずるって書いていって、改行するときには、和歌がはじまるときだけなんですよね、和歌がはじまる頭を改行して、おしりは次につづいていくんだけど、ナニナニナニナニけりって言って紫の上はってずるるるるってつづいていくんだよね、だからそれってやっぱり、読むためにはなにかこう、ぼわ~んと読んでるとやっぱりきっと読めないと思う
(山下)それって読んでたんですかね?
(保坂)いやだから、あのよく言われることは、音読、黙読するようになったのは10何世紀であるっていう
(山下)へ~
(保坂)だからあの、みんな音読してたんだと思うんですよ。で、えっとね、この、って全然話は違うんだけど、あのー、この「緑のさる」っていうのは、ほんとに、こういう風には書けないんだよね。それで、小説っていうのは、書きゃあいいのに書けないってことがすごくいっぱいあるんですよ、で書いてみれば書けた。僕前に川上弘美の「真鶴」のことを、小説の自由のシリーズで書いたときに、書いてみたら書けたっていう風になってる、ちゃんととなりに人が歩いている、となりになにかが一緒に歩いているって、ふっと書けばもうそのまま書ける、書けるんだけど、あのー、書けないんすよね、書きゃあいいのに書けない、で、書くためにはなんかこう言い訳が必要とかね、これはなになにであるとか、だから、よく幻想小説とか、いろいろすごい奇想を、奇想を凝らしたような小説っていうのを言うんだけど、あの、ほとんどねやっぱりね理由が付いてるんですよね。理由なしに書いちゃえばいい、で、これがね、やっぱりこの小説のね、一番面白いのは、あっ、僕と山下くんの挟み込みの対談のはみなさんお持ちですか? あのそれ一応前提で、そこに話してあることはまああんまり話さないつもりで言うんだけど、あのー、えっと、どこだろう、キンバラの義足の夢を見てて、あのー、112ページで「急速にサチコの視界は暗くなり、わたしは子どものころに住んでいた家の」って言って、ここで急にわたしが、キンバラってのはわたしのことじゃないですから、あのー、キンバラの夢、キンバラがずっと事細かに夢のことをしゃべってるっていうか、事細かな夢を見たんですよ。で、そうすると突然そのキンバラの夢をずっと言ってんだけど「急速にサチコの視界は暗くなりわたしは子どものころに住んでいた家の玄関からふたつつづいた六畳の部屋の奥の部屋でテレビを見ていた」ってなる。ここで突然わたしが出てくるんだけど、あのー、自然、自然っていうか、まあ自然って言い方もあれなんだけど、あの、でねここはね僕はね実はね、そう、やっぱ自然なんだよね、スルーしちゃって、気がつかなかった、でもうちょっと経ったときに、あの、キンバラが夢を話してるわけですよ、あの、どういう夢かっていうと「ある日トウドウが遅い時間」……これも夢の途中ですけどね、「ある日トウドウが遅い時間に店にきた。客はだれもおらず、その日はママが風邪で休み、店にはサチコしかいなかったから、はじめて二人は二人になった。そしてその日サチコはトウドウとセックスをした」あの、キンバラがサチコになってるんですけど、で、トウドウっていうまた別の人が出てきて、ソノハタ、ほんとはトウドウはソノハタっていうんだけども、
(山下)(笑い)
(保坂)言っても分かんないよね。でもね、あの、こうやって2人でしゃべるんだからそういうときにはやっぱり読んでから来るべきだと思いますよ読んでない人に言うんだけど、
(山下)(笑い)
(保坂)でね、だからやっぱり、読んでる人を前提に、つったってねこれねこんなところ覚えてるわけないんだよね、読んでたってね(笑い)
(山下)(笑い)
(保坂)それで、あの、でそうやってしゃべってる、サチコとトウドウの話をしているときにわたし、「急にサチコの視界は暗くなりわたしは子どものころに住んでいた家の玄関からふたつつづいた六畳の部屋の奥の部屋でテレビを見ていた。突然これからなにが起こるかをわたしは思い出した」ってなって、そこで気がついたんだけど、突然これからなにが起こるかをわたしは思い出した、で、トウドウの夢を聞いていてそれでだから、その、トウドウがずっと長い夢をしゃべってるんですよ、で、それでようするに、そこで突然これからなにが起こるかをわたしは思い出したって言って、べつにそこはトウドウとわたし、あっ違う、キンバラとわたし、ごめんなさい、キンバラとわたしがなにかを共有したわけじゃないんすよ、急にわたしって、わたしは思い出してたって急に書いちゃったっていうか、書いてみたらまさに、これは書いてみたら書けたって感じだよね?
(山下)はい、そうですね。あの、そう、もちろんそう書こうと思ってたわけでは全然なくて、あの、これここ書いてるときに思い出したんですけど、そのキンバラって男が見た、何遍も言いますけど(笑い)、キンバラって男が見た夢の話をキンバラがしてるんですけど、その話をわたしが聞いてるっていう。で、この夢の話を書いてるときにすごいおもしろくって、あっこれいくらでも書けると思って、ここだけにすればよかったって途中で思ったぐらい、おもしろくって、ずっと書いてたんですけど、やっぱりちょっと飽きたんですね。で、飽きてやめようと思ったときに、うーん、「っていう夢でした」っていう風に終わったらおもしろくないなと思って、じゃあ今度はわたしが夢を見てることにしようと思って、えーっとなんつうかな、そのときはそれが読んだ人が分かるかなとか、あ~、てか全然分かるやろと思って書いてる(笑い)
(保坂)いやだからそれでさ、その、飽きた、飽きたってのがすごい大事で、こないだその話しようと思ってしゃべり忘れちゃったんだよね京都でね。で、ちょっとはしゃべったか。小説って書いてて飽きるんすよ。読んでても飽きると思う。で、それにどれだけ正直になるかってことで、だから、飽きたらちゃんと、飽きたなりことをしないといけないと思うのね、で、あの、やっぱりそんなことはでもほとんど誰もしてない、だからそんなことする必要ないのかもしれないほんとは、あの、小説家としてやっていくためにはべつにそんな、あっ今ここで飽きた、ちょっと飽きた、でもそれは黙っておけば分からないみたいな。ここでまた一生懸命書けばきっと飽きたことなんか誰にも分かんないって思うかもしれない。だってもうほんとエンターテインメント小説なんてねとうとうとくだらないこと書いてますよ。あんなもん1ページ目から飽きてるよ
(山下)(笑い)
(保坂)(笑い)もうあのみんなたくさん売れてる小説山ほどあるけど、あの、なんでこいつらこんなくっだらないことをさ、もう散々飽きてるよっていうくらいずうっと飽きてるよ。1ページ目から100ページ目までずうっと飽きてるのに400ページあるんだよ?
(山下)(笑い)
(保坂)っていうぐらい飽きてるの、でも平気なんだよね、でだから、あのやっぱりそういう、飽きたことに正直であるってことは、あのほんとは、小説家になるために必要なものではないのかもしれないんけど、でも、でもほんとはね、ほんとは、多くの人が大人になったら小説を読まなくなる理由は、飽きるからなんだよ。飽きたことを気付かないフリして書いてるから、仮に200万部売れてる小説家がいたとしても、なにしろ人口1億人っていうか、まあ大人、ちょっと本読む人とかに限って7000万くらい、少子化だからもうちょっと多いかもしれない、それで7000万人、7000万人のうちの200万部ですよ? 700万部売れたって10分の1でしょ? だからほんとは、ほんとはみんな小説に飽きてるんだよね、飽きたことを、飽きたことを気付かないで書くような小説にほんとは飽きてて、だから山下くんとか山下くんの友だちとかずっと小説なんか読まずにきてたわけだよね?
(山下)いや、もう、はい。僕の友だちこれ、この本はじめて買った小説の本ですから(笑い)
(保坂)「緑のさる」、あ、表紙なくてごめんなさい「緑のさる」。でね、あの、カフカは飽きるまで書く。で、飽きるまで書いて飽きたところで終わっちゃう、終えちゃうの。明日書こうってことないらしいんですよね、だから、びっくりするのはカフカっていうのは、「判決」っていうお父さんにお前は川に落ちて死ねとかって言われる話が、あれが日本の文庫で3~40ページぐらいだと思うんですけど、あれも一晩で書いた。で、あの、「城」の場合はあれは一晩で書いたらとんでもないんだけど、一章ごととかは一晩らしいんですよね、
(山下)へ~
(保坂)で、ただまあ、一章も長いからあるブロック、とにかくカフカの場合にはあるブロックは全部一晩で書いてくらしいんですよね、で、だから、夜の10時とか8時に書き出して、ずうっと書いて、ほんとにずうっと書いて、あの、白々夜が明けて、朝が来て明るくなって、書き終わって立ち上がったらひざが硬くなって立てなかったみたいなことが書いてあるんだよね、ところがまたそっから妹たちのところへ行って自分の書いた本を、小説を読んで聞かせるってすごいヘンな人だった(笑い) 迷惑な兄貴。
(山下)それでもすげーおもしろいと思ってるんでしょうね、自分で
(保坂)そう、だから、そうそうそう、おもしろくなきゃそんな妹に
(山下)ちょっと分かるなそれ(笑い)
(保坂)(笑い)で、あの、飽きるってことをすごく真剣に受けとめてる人、受けとめた小説家っていうのはカフカと、それから僕の先生であり神様である、でもカフカの方が神様だよね、でも小島信夫で、小島さんはやっぱり、あの、それはどこがどうって、絶対あるんだけど今どこ、それはどこですか?って聞かれてもそれは場所は言えない、場所は思い出せないけどたしかに書いてるのは「ここで私も気持ちが殺がれているから、こんなことをなんでいつまでもダラダラ読まされるんだろうと読者のみなさんも思っているだろう。私も薄々それは感じてる。」みたいなことをちゃんと書く。でも書くことによってまた立て直すっていうか、だから、あの、やっぱりね僕の場合には全然そういう、小島さんっていうのは、「別れる理由」以来、以降の連載っていうのはたぶんほとんど全部一回20,原稿用紙20枚なんすね、あのほとんど20枚で、その20枚っていうのを締め切りもだいぶ過ぎた、2~3日過ぎた夜に一晩書く、だから小島さんはとにかく一晩で書く、で小島さんって、あの人異様、異常な人だから、「細雪」を一晩で読んだって。で、あの「細雪」ですよね、で、えっ?って言って、だからそういうことが書いてあったので、この日本文学全集の「細雪」の巻みたいなのに書かなきゃいけないんで、書かなきゃいけないので一晩で読み返してって、夕べ読み返したらって書いてあって、えっ一晩なんですか? 読み返しだよ? 一晩なんですか? だから読み返しだよ? って、だから一晩なんです。あれ?逆か。まあいいや(笑い)そう、そうなんですよ、だからとにかくなんでもかんでも一晩、小島さん一晩でやって、僕はそんな、なんか、そんなに手も動かないから、なにしろ一晩でやるって手も動かなきゃダメだからね、だから、あの自分もカフカ式の「カフカ式練習帳」っつうのはその、一応あれも基本コンセプトは飽きるまでっていうか、でも、べつに一晩とは限んなくて3日とかかかっているものある、それは、まとまって時間が取れなかったって意味だったりするんですけどとにかく、あれも飽きる、飽きるってことが、その、飽きるっていうのを、だから僕べつに飽きる話をするつもりなかったんだけど、あの、そう、これ飽きるからそうしたのか?
(山下)そうです
(保坂)ね
(山下)いやだからさっきもあそこ、控室におるときにチラッとそんな話したんですけど、この「カフカ式」、これまだ全部読んでないですけど、っていうのは、公開対談があって、その前にこれ読みはじめたから、これ、あの、トークのために何かって思うから緊張して読めないんすけど、えっと、こういう形の小説ってほかにあるんですか?ってさっき保坂さんに聞いたら、たぶんないっていう話で、あのー、なんでこういう小説もっとないのかなって、思うんすよね、あのー、やっぱ僕は小説を読んでなかった理由の一番大きなのはまさに飽きるからで、あの、退屈するんですよねすぐ、で、もう先先読んでもうて、どうなんのかなってことだけを、もう読み終わったらもういい!みたいになって、それで、ちょっと話が前後しますけど、その保坂さんの本をはじめて読んだときに、なんで読もうと思ったかっていうと、その、その先どうなってるのかなっていう風に書かれてないから。あの、そんなことはどうでもよくて、そのとこ、そのとこがおもしろいって、それでこの本はまさにそうで、あの、小説半分ぐらいこんな感じやったら、もっとおもしろいと思うんすけど、あの、なんていうか、ないんですね
(保坂)ね、小説ってね、けっこう、だから、ここにいる人たちは、本読むってのは普通だと思ってるはず、思ってると思うんですけど、あの僕は、えっと、81年から93年までカルチャーセンターで企画してましたから、あの、カルチャーセンター、81年っていうのは25歳、そっから12年半カルチャーセンターで企画してて、それで、あの、カルチャーセンターっていうのはほんとに、えっと、手芸もあるしヨガもあるしダンスもあるし日本画もあるし、って全部あるんすよ、テニスもあるし、水泳もあるし。で、その中で、教養的な講座っていうのはほんとにごく一部。あの、朝日カルチャーセンターとか読売カルチャーセンターとかで、新聞にその広告が載るっていうのは大体やっぱり教養系が多いんすよ、新聞に載るってところもあるから、で、ごく一部、だから僕はカルチャーセンターにいてほんとによかったのは、あの、ほんとにみんな本は読まない、でもそういうもんなんだっていう、そっからはじめるっていうのが自分のスタートにおいて非常に健全だったと思うのね。で、あの、だから、でもそうは言っても困るのはね、あの、いや、だから全然本なんか読まない人が、保坂さん、最近僕も本が好きになりまして、どんな本読めばいいでしょう?って、そのさ、本が好きになりましてとかってさ、なに言っていいか分かんないじゃない?(笑い) 本ってさ、その人は本ってさ、これぐらいのもんだと思ってるんだよ、ここで言えば、この棚一つもないものだと思ってんだよ本なんてものは。で、だから、それで、僕も本を読むようになりましてとかって言って、で、そうすっとね、僕のある友だちは偉くて、だからキャバクラみたいなそういうとこに行って、あっお客さん本読むんだ、わたしも本好きなんだ、なに読めばいい? カフカを読めって(笑い) でもね、それね、言いたいんだけど言えないんだよね(笑い) あの、だから、すこし、自分の本を読んでる、保坂和志という人がどういう人であるかを知っている人にむかってなに読めばいいっすか?って、いや、さっき出た、保坂さんなに読めばいいですか?って人は一応どういう人か知ってんだけど、僕のことを、つまりいとこの子どもだから(笑い)僕のことは知ってんだけど、その割には大胆な質問するよなって、でもね、そのときね勇気を持ってね、彼ね山梨の人間なんで、深沢七郎を読めって言ったんだよ、こりゃあでも絶対ダメだろうなって思いながらも、言った自分は偉かったなと思って(笑い)
(山下)それでなんか、僕は長いことずっと演劇やってるんで、あの、演劇で、えっと、そうやって人としゃべったときに、あっお芝居やってるんですか?って、それで、どういう系のお芝居ですか?とか(笑い)いやもうそんときに、かわす言い方もあるんすけど、なんちゅうかな、ちょっと真剣にしゃべるんすよね、ちょっとイタい奴になって、
(保坂)ああ
(山下)そのときはすごいがんばる、あとでやっぱよかったって、ちゃんと話すべきで
(保坂)そうなんだよね、その人を上下で見ないって大事だよね。いやだからさ、昔僕の友だちが、まだ松浦寿輝って東大をやめて小説家になった人が、まだ詩ばっかり、詩人松浦寿輝って肩書きででてたときに、松浦さんって詩人なんですか? どんな詩をお書きになるんですか?ってさ、聞けないよね(笑い)でも芭蕉だったらやっぱり「古池や」とか言ったのかね
(山下)(笑い)
(保坂)それでさ(笑い)、だからなんだっけ、なんか言いたかったんだけどな、まあまた思い出すだろうからいいや、で、あ、あっ、忘れた、でねこの小説に戻ります、ちょっと山下くんに聞きたいんだけど
(山下)はい
(保坂)133ページで、あっでももうちょっとその山下くんに聞く前に、あのさ
(山下)そう、この保坂さんの会話って大変なんすよね、あの、僕が保坂さんをはじめてしゃべったときに、最初本だけ読んでたときは、いややっぱり多くの人がそう思うと思うんですけど、ちょっと物静かとか、一瞬思うんすけど、ただこの人の文章は忙しいと思ったんですよね、読むのが、で、そのことの意味がよく分からなかったんですけど、会ってしゃべって一撃で分かったんですよね、ああそういうことかって
(保坂)あの、ほんとに文学の分からないカルチャーセンターの文学の先生ってのはいて、友だちがなんでか分かんないけどその文学講座、文章講座みたいなのに行って、僕の名前を例に出したらしいんですよ、それで、保坂さんって方はとっても思慮深くて、毎日仕事を始める前に部屋の中をきれいに片付けてってさ、勝手なこと言ってんすよね、それで
(山下)(笑い)
(保坂)まあいいや、でね、ああだから、最近よく言うんですけど、僕の小説を物静かな思慮深い人が書いたように、僕が人前に出ないと、しゃべり方が分からないとこういう人が書いたんだって分からないじゃん、僕が、だから、自分のものを朗読するとかしないとかじゃなくて、人前でこのしゃべり方をしてみせると、あっこういう風に、だからきっと小説もこういう風に書いてるんだって。僕の文章を読んだことがある人はやっぱり普段の自分と文章書く自分が違う人間であっていいはずがないはずなんで、あのだから、あっこういう人が書いてるんだ、っていうのを分かってもらう、だから、つまり文章の理解を深めるため、だから読むっていうのがただ読むんじゃなくて、どぅ~って読むんじゃなくて、あっこういう人がしゃべってる、こういう人が書いたんだってことが分かるような、分かった方がいいと思って、だからまあ一応やっぱり書いたことは分かってもらうためには書いてるんで、だからもっと分かってもらうためには人前でしゃべった方がいい、と思って。それであの74ページに、
(山下)(笑い)
(保坂)この新聞配達の話がでてくるんすけどね、あ、ここなんか短いからもうこれだけでもいいくらいなんだけどね。新聞配達してる小太りの男が1階でオペラかけてるんだよね? オペラ聞いてるやつなんだよね? それで、「男はそれからずっと死ぬまで一人でオペラを聴いてすごした、レコードは最終的に37枚になっていた、さびしいとは思わなかった、それは本当にそうだった、新聞配達は交通事故に遭いまともに歩けなくなるまでつづけた、最後まで朝は苦手だった、男は68のとき風呂屋で脳の血管が切れて倒れて死んだ」ってそういうこと書いてんだよね。で、こういうこと書かないでしょ?
(山下)(笑い)
(保坂)あの、マジメな人は。こういうことは書いちゃいけないと思ってるでしょ? でもこれがね後半になるとね炸裂するだよね。でも、ただ、だから、ただかだからか知らないんだけど、しゃべってるときの接続詞なんてめちゃめちゃなんで、あの、子どもってこういう風にしゃべるでしょ? 子どものしゃべりですごく魅力なのは、ことわりもなしに固有名詞が出てきちゃうこと。マチコちゃんがとかって、誰それ?って
(山下)これさっきアキラさんがってありましたよね?(笑い)
(保坂)ああこれね、この人そうだよね(笑い)この人って山下清ね。で、そういうのと、あとこうぶわーってもう妄想をどんどんどんどん、こう、子どもに妄想させたらこういう風になる、だからそういうのをどっかで大人に、大人になるために、大人っぽくなるために、よく分かんないけど、成長していく過程でそういうものがなんかなくなっていっちゃうですよね、やっぱりそのまんま書くってのは無理で、一度身につけたのをどうやってなくしていくか、ところで山下くんに聞きたいんだけど、
(山下)はい
(保坂)133ページに「男の子はそんなもんやでと妹は笑った」ってあるでしょ?
(山下)はい
(保坂)なんで妹関西弁でしゃべんの?
(山下)え?
(保坂)間違ったろ?
(山下)(笑い)いや間違い……
(保坂)だって、タナカくんは関東の人だよ?
(山下)あれ、そうでしたっけ?
(保坂)キンバラは関西弁だろ?
(山下)そうですね、ああ、はい、あ~そうか
(保坂)(笑い)そうだよね?
(山下)あ、ほんまですね
(保坂)今回気がついたんだけど
(山下)いや、わたしは関西出身なんですよ
(保坂)あっそうなの?
(山下)う~んと
(保坂)(笑い)え?
(山下)あれ? たぶんそうですよ。……これすごいですよね、これは
(保坂)うん、でもたぶん僕もこれ今日読むまでに2回か3回読んでんすけど、気がつかなかったね。でね、この最後のところ、なんてね、ほんとにね、でね、死んじゃうんですよ主人公、死んじゃうんだけどなんかまた生き返ってるっていうか、死んでないのね。「そして突然ああそうか死ぬのかと思った、それからわたしは二週間生きた、その間わたしは何度も何度も夢で飛行機を見た」とかって言って、でやっぱり死ぬんですよ、ああそう、「ナツとわたしは口にしてみた、誰も近くにいなかった、それがわたしが口にした最後の言葉だった、九時間十三分後医者が腕時計を見てマミにわたしの臨終の時間を告げた」って書いてあるんだよね、「葬式はわたしは勤めていた葬儀屋でない葬儀屋が執り行った」、で、ちょっとあって、「警察官が帰ったあとわたしは駅員に礼を言い、駅員室を出て電車に乗った、切符を買ったら残金は478円しかなかった」つってまた普通にわたしが生きて生活してんだけど、そのときに思ったの。やっぱり死んだっきりより生きてる方がいいなって
(山下)(笑い)
(保坂)(笑い)思ったの。これはね、こんなことね小説読んで思ったことないよ、誰も思ったことないでしょ? やっぱり死んだっきりより生きてる方がいいなって、これねきっとすごい大事なことなんだよね、
(山下)あ~
(保坂)あの、だから、他にもいろんな、いろんなことあるんですよ。すごい誤解があって、人の頭ん中っていろんな間違った連結とかを起こして、こないだ京都の河原町のところで、てんかんの持病があった人が車を暴走させたって、ただ彼はてんかんだけじゃなくてその運転手は最初は、車を避けているから意図的に暴走させたんじゃないかみたいな話があって、そしたら写真を見たらけっこう金髪で長い毛だったりして、コイツ悪かったんじゃないかなとか思ったりもしてたんです。そしたら、次の日かなんかに京都府警の本部長が、署長さんが、その日の何かの会で「ビールを飲んだ」って言ったの。で、その「ビール」って聞こえたときに、あっコイツ、あの運転手は昼メシでビールも飲んでたのか、って一瞬思ったんだけど、ああ残念違った、って思ったんですよ、そんとき。でも妻が外から帰ってきて、あの運転手ビールも飲んでたんだって!ってやっぱり言ってんだよね、自分で、その、なんかおもしろい方に話を作りたがるっていうか、そんなありえない、すごいケアレスミスなのにそういうことを口走っている、口走った瞬間に、あっ間違ったって、僕の友だちで一番バカな奴は、大学の同級生で、仲間で、忘年会みたいなとこで飲んでるときに、外国行ってけっこう会うんだよねとかって言って、アツコとあそこで会った、ニューヨークのブルーミングデールズで会った、あっそうそう、エスカレーターの上りと下りで会ったよな、「お~」って言ってそれっきりになっちゃったけど、とかって言ってさ、で、エリコとさ、お前とさグアムで会ったじゃん、ほらホテルからお前が上から降りてきて、お前が下りのエレベーターで降りてきてドアが開いたら俺と鉢合わせしただろ?って言ったら、エリコがポカンとしてて、ナガオさんじゃないよ、あっ先輩だからさんづけなんだ、ナガオさんじゃなかったよって言われてナガオさんが、あっ俺じゃなかった!って
(山下)(笑い)
(保坂)(笑い)
(山下)それすごいことですね
(保坂)最高の勘違い(笑い)どうやるとできるか分からないけど、芝居で使ってもさ、みんな分かるかね、笑ってくんないよね
(山下)それ、話聞いたんでしょうね、その人がその女の人がだれかと会ったって話を
(保坂)ね
(山下)それで自分になるんや(笑い)
(保坂)なにしろ、その人ね、阪神大震災の2週間後くらいに活断層を知らなかったんだよ
(山下)(笑い)
(保坂)活断層ってなんだ?とか言って(笑い)……コマーシャル作ってるんだけどさ
(山下)(笑い)
(保坂)あっ、映画も作りましたその人。「鉄塔武蔵野線」とか
(山下)あ~
(保坂)「さゞなみ」ってのは僕もちょっとセリフだけからんだりしたんですけど、映画作ってます、そういう人。えーっとね、あとさ、この小説ね、ほんとにね、僕は思うんだけど、いい小説っていうのは読みながら、小説のまわりのこととか、読みながら平行して自分のことを考えたり、とにかく小説の中でつじつま合わせて、その中できっちり綿密に組まれてない、っていうのが僕にとって今いい小説で、まあとにかく、最近丁寧なものとか緻密なものっていうのが全然関心がないっていうのもあるんですけど、それでね、ちょうど100ページで虎が男にボコボコにさせるじゃん、ね? 虎なのに
(山下)はい
(保坂)で、でもこれさ、虎だからかわいそうじゃないんだよ
(山下)そうですね、でもそれはほんとは犬なんですよね
(保坂)ね、でもこれ「犬」って書かれたらかわいそうだよね
(山下)そうですね、虎みたいな犬(笑い)
(保坂)目玉をくり抜きとかっつってさ、ボコボコにされて、犬だったらかわいそう、犬って書かれてたらかわいそうだけど、虎、やっぱり虎ってさ、虎としての尊厳があるんだよね、きっと
(山下)(笑い)
(保坂)と読みながら思ったの、ここでかわいそうじゃないのはなぜだろう、虎だから
(山下)五分と五分なんすよね、虎と男は。その、ある男が虎のような犬をやっつけるんですけど、でもそれは途中から虎なんですけど、なんていうかな、五分と五分で、一方的にどっちかが弱くてどっちかが強いとかではなくて、それけっこうそうほんまにそう考えて書いたから、えーっと、これ喧嘩を書きたかったんすよね、強い人の
(保坂)はあ
(山下)強い人の喧嘩って、片っぽけっこう陰惨にやられてもなんか見れるんすよね。はい。かわいそうって思わないっていうか、あっ負けた、って
(保坂)あ~
(山下)はい、だから勝った方がすごいなって思うし、負けた方を、あっ弱いとは思わないんですよ、あの~、どっちもすごいって。そのどっちもすごいっていう風に書きたかったんですよね
(保坂)じゃあできてんじゃん
(山下)はい
(保坂)(笑い)すごいじゃん
(山下)ありがとうございます(笑い)これ、えーっと、あっはい
(保坂)いや、いいよ
(山下)いや、そのなんていうか、えっと、たとえばこれは夢ですとか、これはなんとかですって、やっぱり最初はけっこう入れてて、それはやっぱり、これは夢やったっていう風な説明がどっかにないと、いくらなんでもちょっと行き過ぎかなってちょっとそれは怖くて、入れてたんですけど、それは最終的には取ったんですけど、なんていうかな、で夢のところはそうで、ただ、夢じゃない、急に、なんか、たとえばここに座ってらっしゃっる方がこうやってしゃべってるときに急に立ち上がって、僕に飛びかかってくるっていう、一瞬そういうのがよぎるんですよね、頭ん中に、それにはなんの意味もないんですけど、それを書きたかった、だから、えっと、そこに「それは妄想です」とか「夢です」って書くとまたちょっと違うし、今もけっこう頭ん中に走ってんすけど
(保坂)ああでもさ、いやこれねみんな持ってると思うんだ、自分より偉い人としゃべってるとき、小島信夫さんとかとしゃべってるときに、急に自分がさ立ち上がって殴ったりしたらどうしようって思うよね
(山下)(笑い)
(保坂)思うでしょ? なんかね、え? 思いますよね? かならず思うんだよね、なんかあるんだよね。しないけどね、でもする人いるんだよね
(山下)はい
(保坂)それでこのね、話を小説に戻しますけどね、128ページの前後にナカシマって奴がでてくるの、主人公葬儀屋のバイトしてんすけど、それでそのバイト仲間でナカシマって、コイツ全然関係ないこと言うんだよね、
(山下)はい(笑い)
(保坂)わたしが死にそうなのにさ、バックリ開いたような傷口見てさ、ハゲるねって(笑い)それで、おまわりが来て、警官が来ていろいろめんどくさいことやって、そしたら、絶対とるんだよな、あっ指紋採られたら、絶対とるんだよなあいつらクソ、とかそれしか言ってない
(山下)(笑い)
(保坂)そういうことにしか関心がなくて、ここでなにが起こってるのか全然関心がない、これすごいよね
(山下)(笑い)こういう奴っていますよねバイト先って、
(保坂)(笑い)
(山下)なんていうんですかね、要するに友だちじゃなくて、なにかの価値観が似合う友だちではなくて、ただバイト先で知りあったからお前とはしゃべってるだけっていう奴って、ちょっとこんな感じあるじゃないですか、ムカつくっていう(笑い)で、たぶんこのバイトやめたら一生会わないですけど忘れられないんですよね。コイツこれモデルいて、昔総会でバイトしてるときにお坊ちゃん大学からバイトしに来た奴がおって、コイツがすっごいそうこうで、……僕殴ったんですけど
(保坂)(笑い)いや僕が信じられないのは、学生のときに、まだ宅急便って言葉が出だしたころのヤマト運輸でバイトしてたんだよ、バイトしてたの、そこの事務所の偉そうな顔してる奴がさ、はい大和運輸って
(山下)(笑い)
(保坂)(笑い)アリなのかな~って思ってさ。……8時30分、なんだっけこれ? あっ、1時間過ぎたってことか!(笑い)そんなよそよそしくしなくても、1時間過ぎましたよとかって言ってくれればいいのに(笑い) あっ、えっと、ちょっとね、自分の本の話もね、二箇所だけさせていただいて、304ページ、これはオーネット・コールマンの言葉です、「しかしいつかは音楽における自分なりの声をサウンドの中に見出そうと思っているなら、次のことを忘れないでいてほしい。音楽とは他のあらゆる芸術表現と同様、われわれを観察する立場から行動する立場にかえてしまうものなのである。」でね、もう1個はね、なんでこれを、この話を引用っていうか抜き書きしたのか、きっとほとんどの人は分かんない、ほとんどの人っていうか、担当編集者にさっき聞いたらやっぱり、わかんない、なんでこれを出したのか分かんない、変わった話だから出したのかなって思われてるだけかもしれないんですけど、ちくま学芸文庫の中に「奇談異聞辞典」、奇談、奇異な話、異なった聞く、僕はヘンな、一風変わった話っていうのが好きなんですけど、ほんとにおもしろい話ってめったなくて、だいたいガッカリばっかりしてるんだけど、でもやっぱりつい期待して、たま~に10個に1個か100個に1個かおもしろい話があるんで、この話はおもしろい話ではないんだけど、柴田……わかんない、宵っていう字に、春の宵の宵に、曲がるって書く、その人が編者なんですけど、昔のいろんな話を集めて、これ江戸時代ぐらいの話なんですけど、「合羽神」、雨合羽のかっぱに、神って書いて「合羽神」「在所中新田といふ所に合羽神とせうする社有り。」っていう、これ原文そのまま僕書き抜いてるんで適当に現代語に直しながら言っていくと、そういうところがあって、「みたらしめきて池の如くなるもの有り。」なんか水がいっぱい溜まって池のごとく、池のようになる、「いかなる晴天つゞきてもかるゝことなし。」どんなに晴れても枯れることはない、そこから用水の堀がつづいている、その家人なるナントカの甚之丞っていうやつが、17、8のころに下町の若い友だち2人と、同じく水を浴びて、その用水堀をくぐって、3人が同じようにくぐって行ったら、ずっとくぐって行ったら、いつのほどか水のない所に出た、きれいな家がそこにあって、その家の中から機を織る音が聞こえてきたので訝しく思って、ここはどこなのか?って聞いたら、ここは人の来る所ではない、早く帰れと答えたので、驚いて、驚いて、去ろうとしたら呼び止められて、ここに来たということを3年すぎるうちは語るべからず、あれ? あっいいんだ、3年すぎるうちは人に語るべからず、かならずお前の身に災いがあると教えられた、で、いよいよ怖くなって去ったが、去ってまたもとの用水堀に出てきた、「この往来の間、いつもおぼえずなりて有りしぞ。」なんかよく分かんないような気持ちになっていて、いつものようではなかった、で、そのことを町のもの壱人、その3人のうちの1人が、その年のうちに酒に酔って語ったら、ほどなく死んだ、「これにみごりやしたりけん」これに懲りた、きっと懲りたって意味だと思うんですけど、甚之丞は一生語らざりし。一生語らざりしってなんで分かったのか、ってことが、不思議だなってことなんです(笑い)まあ長い話だったけど、ただそれだけだけど、やっぱりこういう不思議というか矛盾なんだけどね、それはほかにはないんだよねこういう矛盾はね、いや、そういう話でした。えーっと、どなたか質問とかありますか? またないんだよね。あい、あい。
(観客A)貴重なお話ありがとうございました。さきほど、最初のころの話で、山下清さんのなんでも鑑定団に鑑定された文章のあれが稚拙だとあったと思うんですけど、今回のお話を聞いて思ったのは、稚拙さっていうのは結局のところ分かりにくいから、でしかないのかなと思ったんですが。
(保坂)いや、そんな、そんな好意的な解釈じゃないよ。あの、その稚拙っていうのは、だから、ほんとに、下手に逃げると捕まるから上手に逃げようと思った、って、そういうことだよ。その、ほんとに、なんていうの、子どもみたいじゃん? そういう意味だよ。分かりにくいんじゃないんだよ。分かりにくくないじゃん?だって一つも。
(観客A)はい、たしかに分かりにくくはないんですけど、たとえば町田康さんの言葉の使い方とか、ああいったものはなんか、なんでこんな意味のないことしてんのかなとか、そういう風に思われてるのかなって感じがするんです。さきほど読まれたのも同じような言葉を何回か同じように使っているじゃないですか、だからそれがなんか意味がないから、なんか、なんでこう使い回してるのかな、それがたとえば私が聞いたらそれがすごくリズムがあって、効果(?)があって、非常におもしろいなと思うんですけど、一般の、そうじゃない人はそれが稚拙というか、なんか、
(保坂)だからさあ(笑い)アハハハハ、稚拙の意味を言いたかったでしょ? そこで稚拙言っても意味ないよね。だから分かりにくいんじゃなくて、ほんとに、いや、規格より、規格、ね、一応、だからそんな人の言うことさ、真面目に聞いて解釈して考えてやってもしょうがないんだけど、あのナレーションの原稿書いた人のことを、それに俺ら振り回される必要なにもないんだけど、だから稚拙じゃねぇよって、稚拙って言うお前がバカだよっていう、それだけでいいんだけど、そのある水準に対して、なんていうの、それより子どもが書くか、ね、子どもが書くから、子どもっぽいから稚拙とかって言っただけよ
(観客A)分かりました
(山下)あのちょっといいですか、僕ね、未だに、未だにというか、僕そんなに何個も書いてないですけど、未だに書いてて違和感がある文章が「ナントカだが」みたいな、「だが」って書くと緊張するんですよね(笑い)なんでかっていうと、今保坂さんが言った子どもが書いたみたいな文章って、だけど、子どものときとそんなに口調は変わらないじゃないですか、しゃべる、まあ言葉は増えていきますけど、僕こんな関西弁やから、そんな変わらないんですよね、小学校6年ぐらいのときとしゃべるその言葉は、やけど、文章を子どものときみたいに書くと幼稚に思えるんですよね、だから大人の書く文ってあるでしょ? 僕企画書書いたらすごいですよ(笑い)大人が書いたとは思えない企画書になる、それはでもすごいバカみたいなことで、だから「だが」とか書かないからですよね
(保坂)うん
(山下)いや、そうですよね?
(保坂)はい、はい、そう。
(山下)「だが」「しかし」なんかあるじゃないですか、あれさえ使えば大人みたいな文章にみえるけど、
(保坂)あとね、山下清の文章は「それ」とか「その人」とか、まして「彼」とか指示代名詞、代名詞がないの、山下清の文章は、「それ」「その日」とか書かずに、同じ「夏休み」って言葉があったら「夏休み」っていうのを一度も省略っていうか、「それ」とかに言い換えずに繰り返す、「アキラさん」って言ったら「アキラさん」ってずうっと、「その人」とかって言わずに、そうした。で、それに対する違和感っていうのはあって、たしか僕は「プレーンソング」では、指示代名詞とかほとんど使わないようにしてて、ただそういう風にしているのも飽きたんだよね、最近は「だが」とか「彼」とかけっこういっぱい使うんだけど、でも書いたあと自分で「それ」ってなに指すのかよく分かんないのある。あの、受験の問題で使われたをみると、分かんないんだよね
(山下)(笑い)
(保坂)そういう風に分かってほしいわけではないからね、
(山下)それで思い出したけど、小学校かな中学校にあがったときに、僕は小学校のときからできませんでしたけど、中学あがって数学、算数が数学になって、文章問題の文章がですますじゃなくなった瞬間に、気持ちがもう切れたんですよね。読み取れないって。
(保坂)あのね、えっと、2月はじめに、朝日新聞に広告として、開成中学の算数の入試問題が全問、4問かなんか載ってたの。ひっとつも意味分かんないよむずかしくて、すっごいむずかしいよ、何度も読まないと意味分かんないもん、だから、とくに算数は、あっ数学は、その文章題になるとじつは数学力じゃなくて文章力だって話があるんだよね(笑い)
(山下)そうですね
(保坂)えー、ほかに質問はありますか? いや待っててもしょうがないんで、えっと、あのね、ずっと関係ない話してもしょうがないんだけど、あの、「群像」で「未明の闘争」って連載してるでしょ、あれの最初のシーンっていうのはこのジュンク堂の前の五叉路、あそこなんです。で、でも、書いてるときに、はじめてあのシーン書いてから、まあ「群像」掲載までっていうか、あのシーンを書き終わるまでって、何ヶ月もかかって、っていうのは途中ずっと休んで、これおもしろいのかな?って思いながら、だいぶこう、最初は最初の2~30枚書いて、で、これおもしろいのかな?と思って、それでほかのことをいろいろやってて2ヶ月ぐらい経って、経つといよいよ見たくなくなっちゃうんですよね、また、1ヶ月ぐらいして、でまた見るのに2週間とか1ヶ月かかって、やっと見ると、あれ?けっこうおもしろいのかなって思って、それでまたつづき書いて、そうやってつづきが70枚ぐらいまで書いて、でもやっぱりおもしろいのかな、これ?って、またしばらくほんとに何ヶ月かって遠ざけて、でまた見てみたら、あっやっぱおもしろいな、と思った導入なんで、そのはじめて五叉路のシーン書いてからずっとあるんだけど、一度も来てないっすよね。あの、来ようと思いながら、なんか一度も来なくて、まあちょうどいろいろ猫が具合悪かったりして、そういう余裕もないんだけど、なんかね、けっこう、その普段ヒマにしてるんだけど、まあ他人にはヒマにしてるって言うんだけど、書いてるっていうのはね、気持ちが休みがない、いやそんな話がしたくて五叉路の話をしたんじゃないんですけど、いや、たんに五叉路なんですよ、そういう話なんですよね、で、その五叉路、記憶で書いたから間違ってんだよね、でもいいんだよ、そんなことはどうでもいい、それで、あと一番大きな間違い、でも半分は承知なんだけど、あのスクランブル交差点で、全部の信号が止まって、全部の車停まって人が渡っているように書いてるんだけど、あそこの信号そうなってないんですよね、絶えず車通ってる、で、校正者って細かく指摘するんだけどそれも漏れてる、校正者が漏れてるのがね、嬉しいんだよね。校正者ってね細かいこといろいろ言ってくるんだよ、くっだらないことをさ、そんなくだらないって言っちゃ悪い、向こうは向こうで仕事としてそれをやってんだよ、だからこっちはどんだけそれをスルーさせるかっていう、で、さっきの山下くんの、妹が関西弁でしゃべっちゃうとかは、本人がしっかり思い込んでるとわりとそういうの通るんですよね、それいいんだよね、なんかそれは、こう、作品の表面、もっとも、ロジカルな表面っていうか、養老孟司風に言うと、人間っていうのは体全体で考えている、人間は体全体で考えてるって言ったか生きてるって言ったか分かんないけど、とにかく体全体で考えているのに意識で考えてる部分だけを考えてると思っているから近代人っていうのはこんな人間になってしまったみたいなことを書いていたことがあって、で、だから意識を使っているだけのところっていうのがその表面、小説の一番表面の流れとして、でもそうじゃないところでこっちは書いてるわけだから、その動きで書いちゃってるから、べつにそこで、さっきの妹が関西弁で使ったりして、もう山下澄人ってのは関西の人間だから、っていう風にみんな思い込んでるから、その今ね、これから読む読者はそういうことはちゃんと見ないと知らないですけど、で、だから、たぶん校正者とかも、関西の人だと思い込んでるからそこで通っちゃうんだよね、で、それは小説の表面的なつじつま合わせとしてはそうなるんだけど、おかしいことになるんだけど、全体としてはもっとつじつま合ってると思うんだよね
(山下)僕あの、ずっと保坂さんの話聞いてて、なんていうか、一応このあともいくつか書いてるんですけど、で、この先も書くつもりでいるんです、で、ボブサップって昔いたんですけど、野獣、あいつ出てきたとき、俺あいつに勝てる奴いないと思ったんですよね、あいつはなんのスキルもなく、ただダーン!って突進して、振り回した手が当たったら倒れたっていう、ああこれには勝たれへんって思ったら、ボブサップは、技を覚え始めたんですね、その途端にただの弱い選手になったっていう、僕ね、自分が絶対そうならへんようにしようって、えっと、すごく分かるんすよ、僕のここ程度で考えてるものじゃないところで書こうって、で、えっと僕さっきから小説は読んでないとかって、それ絶対キャラにしたらあかんと思ってて、あの、もうそういうキャラはええからって、あの、ちゃんとやろうって思ってるんです、ただそのときにそれを意識したり、いやもっと姑息にわざと間違えたりみたいなことが始まったらもう終わるから、だから怖いんですよね、そういう、はい
(保坂)いや、そうですよ。でも、だからそういうところでやっぱり、小島信夫とカフカは偉いんだよね、あの、でも、そりゃさ、ちゃんと考えないとって言ったってそのちゃんとがどれぐらいか自分だって分かんないけど、やっぱちゃんと考えないといけないんだよね
(山下)はい
(保坂)で、あの、ただ、これは道元が言ったと解説書に書いてある、書いた本人も悟りは開いたことないんで、ほんとかどうか分かんないけど、その理屈としてはほんとだろうと思うのは、道元が言って、僕もいろんなところで書いてるし、それを僕も心の支えにしてるんですけど、で松井も同じことを言ってるんだけど、あの、あっ松井って今所属がないんですよね、
(山下)え、野球の?
(保坂)うん
(山下)今日決まりましたよね、
(保坂)え?
(山下)今日、どっかの
(保坂)あ、決まったの?
(山下)どっかのマイナーリーグ
(保坂)無意味だよね、そんなことやってても、で、あの松井も言ってるんだけど、悟りっていうのは一度悟ったら次のステージにあがれるわけじゃないのね、悟りっていうのはある瞬間こうだなって分かるんだけど、こうだなってものが来るんだけど、すぐに消えてしまうんで、あの、また悟れるように何度でも修行、自分を悟れるように自分を修練しなければいけないって道元も言ってるし、松井秀喜も、あの、松井秀喜が何かのインタビューのときに、あっこれだな、バッティングってこれだな、って思う瞬間があるんだけど、すぐにあの人はどっかに行っちゃうんですよね、って言ってたんだよね。で、だからほんとに小説なんかでも、あっこれだなって思うときもあるんだけど、やっぱりそういうのってなかなか持続しなくて、それで、最近ほんとによく、50年とか生きてて実際に何年間考えてたのか分かんないけど、50年とか生きてても、ほんとに、気がついてないことっていっぱいあって、ほんとに、あの、僕今年56ですから、世が世なら、中学校の先生が定年になるような歳なので、だからだいたい中学高校の先生って僕よりも若いんだけど、だからあんな先生の言ってることなんてどうってことないんだけど、みんなやっぱり、生徒はそういうの、やっぱり先生の言葉みたいに覚えてるような人がいるそれがだいたい不思議なんだけど、あのそういうこっちゃなくて、なんだっけ、えっと、その悟り、小説ってこうだとかって思うときに、それを1人で思ってるのに、自分、1人で思ってるのに、他人に分かる言葉に自分の中で変換しようとしてるんだよね、で、それが間違うんだよね。かならず変換しようとする。あの、ほんとに間違いはそこからくる。ついこないだ気がついたんだよねそれ、だから、すごい、あの、一つには他人の言葉がよぎるってのがあって、そういうのって頭の中がどれだけ架空の会話で成り立ってて、文章のようになりたててて、他人によってはそれはもうほんとに分からなくて、分かんないんですけど、僕わりと架空の会話ってのがけっこう流れちゃうので、それで、その苦しみ、たとえば、苦しいことは苦しいことが苦痛じゃない、苦しいことの中に歓びがあるみたいなことを考えたとすると、一番くだらない、マゾっぽいですねみたいな、そういうことじゃないだろ、いやそこまではしゃべんないよ1人で頭ん中で(笑い) そこまでしゃべったらおかしいんだけど、そのマゾっぽいみたいな一瞬こう来て、そういうのをだからそうじゃないって、とくに文章書いてると、そういうのが来ちゃうと完全にここに絡められて行っちゃうんだけど、頭ん中でも、やっぱりそういうくっだらないことを全部こう、切り捨てていかなきゃいけないんで、ほんとはもうちょっとマシなことを考える瞬間があるのに、そのすぐにこう、だって、なんていうかな、その瞬間の、その瞬間に考えた自分が、まあその最新バージョンですよね? 最新バージョンなのに、言葉が、それより古いバージョンの言葉がどんどんどんどん攻めてくるんだよね。そういう感じかな、ちょっと違うんだけどそんな感じ。だから、それね、みんなはね、いや、このことはみなさんも、ほとんど聞いたことないと思うんですよ、僕は聞いた憶えないの、自分で考えて自分1人で考えてるんだから、他人に分かるようになんか考える必要ないんだけど、なんでいちいち細かく、他人に分かる、ある程度、何段階かの人で、こいつには無理かな、みたいなことまで含めて、全部なんでいちいち考える必要がある? そんなこと考えないでいるともっとこう、スッキリなんかいくんじゃないかなっていうのを考えたことないでしょ? ね? そういう風には気がつかなかったでしょ? そうなんですよ。気がつかなかったでしょ?
(山下)いや、はい。いや、あの、ほんまそうですよね、えっと、いや、そうですね。あの、頭によぎってることってそんなにしゃべれないですよね、
(保坂)ああ
(山下)分かるようになんて、他人に、他人にっていうか自分にも
(保坂)うん
(山下)だから、えっと
(保坂)あっそうなんだよ、だから演技とかバッティングとかと全部、演技とかバッティングとかと考えもきっと一緒でさ、しゃべれないんだよね
(山下)しゃべれないですよね
(保坂)それじゃあ当たり前なんだよなでもな。
(山下)あの、それこそそれも保坂さんの本で知ったんですけど、荒川修作っていう人を知って、荒川修作のインタビューをインターネットで探してYouTubeみたいなので見たら、すごい明確な言葉を使ってしゃべってるけど、一切なに言ってんのか分かんないんですよ(笑い)あの、えーっと、えーっと、えーっとって全然しゃべってないのに、あれすごいなって。あれ分かってもらおうって気はあるんですかね? 分かってもらおうって気がたぶんないんやなって思って、う~、僕は今すごく分かってもらおうと思ってしゃべってますけど。で、えっと、そうですね。
(保坂)そうですよね(笑い)いや、ただ、でもなんか、なにかはしたいわけだよね、荒川修作とかだってなにかは、なにかは伝えたかったんだよね、きっとね、決めつけちゃいけないんだけど、だからやっぱり自分のサイズで測っちゃいけないなって気はするんだけど。だから、やっぱり、書いたり他人の前でしゃべったりしてると、ほんとにあの、こないだね京都で、けっきょくあとですごい評判が悪くてブーイングだらけだった山口さんっていう人がいるじゃない?
(山下)はいはい
(保坂)1日20冊本読めちゃうっていう人がいて、で、ただ、そういう、書いたり、なんにも書いてないけど、すごい、理解してるって言い方も浅薄なんだけど、すっごい理解してる人はいる、と思って、書いたりしゃべったりしてるんですよね、で、Amazonのレビューとか、ブログなんかでもそうなんだけど、Amazonのレビューでほんとびっくりするほど、あの、ダーってきちんと書いて、それで書いてる対象の本もアウグスティヌスのなんとかだったり、1人ね、アウグスティヌスの深遠とナントカって岩波文庫が再版されたところでレビュー書いてる人が、たしか、そのレビュー書いてた人、深遠とナントカっていうののレビュー書いてた人なんて2、3人しかいないんで、そんなかですごいびっくりするようなレビュー書いてる人がいるんですけど、その人のところをクリックして見てみると、ものすごい本ばっかり書いてあんの、中世神学、おもに中世神学なのかな、ところがね、それ以上の量をコミックとフィギュア書いてんだよね(笑い)それがね、これがなんか、やっぱりそうなのかみたいな感じがするんだよね(笑い)いやだから、あの、まあいいや。それ以上の個人名を挙げるのはやめよう(笑い)今何時ですか? 9時になっちゃった? なんか時間稼ぎしてたみたいだね。いや、えっと、質問、いいですよ最後。したい? はい
(観客B)あっ、じゃあします。じゃあ今日と関係ないことで、
(保坂)はい
(観客B)今日と関係ない話なんですけど、
(保坂)はい、はい
(観客B)あの、「未明の闘争」で、ちょっと前の何ヶ月かくらい、ずっと公園かどっかの景色というか、だれがなにをやってるか、ずっと2回か3回ぐらい書いてあったかと思うんですけど、最初読んだときに、う~んと、すごい読みづらくて、
(保坂)はあ
(観客B)何回読んでもだれがどこでなにしてるのかよく分からなくて、3回か4回ぐらい書いて、なんかおもしろいのかよく分かんないんだけど、う~ん、おもしろいなって、最終的におもしろいのかなんかよく分かんないけど、何回も読んじゃうなっていうのがあって、で、けっきょくおもしろかったのかどうかよく分からないんですけど、これなんだろうなっていうのをずっと思って、また最近は、アキちゃんとか出てきて別のことを書いてるんですけど、あれが何回か続いたのがなんだったんだろうな、けど読めたなってちょっとモヤモヤっとしてて、保坂さんがどうやって考えて書いてたのかと思ったんですけど
(保坂)あのね、飽きたからなんですよ(笑い)ほんとに
(観客B)それは、それまでの前の話に飽きたってことなんですか? デートをしてる、
(保坂)うん、展開に飽きて、だから、ちょっと違うことをやりたくなって、で、また違う、またそっちに戻ったっていう
(観客B)その公園の話も飽きたからやめたんですか?
(保坂)そうですね、っていうか、うん、どこまでできるのかなって気持ちはあったんだけど、あそこをあれ以上にはなかなかね、できない。そのだれがどこでなに、だれとだれがなにをしててだれとだれがなにをしててどこでなにが起きてってことって、けっこう考えるの大変で、ただ、考えるの大変なんだけど、考えてるのはたのしいんで、だからあれはあれでやった、
(観客B)情景を書くのっていうのは、なんていうんですか、あるものをそのまま書けばいいような気がしてしまうんですけど、
(保坂)はい
(観客B)やっぱ言葉にすると、けっきょく、なんていうんですかね、視点を絞るからむずかしいとか、そういうこと、まあよく分からないんですけど、むずかしいのかなって、けどそういう風に書いてる小説ってあんまり、小説あんまりいっぱい読んではいないんですけど、よく考えたらあんまりこういう風に読んでる小説ないなとは思いました。
(保坂)あの、えっと、まあ、書いてみりゃ分かるっていうのもあれなんだけど、出てこないんだよね、それは個人差もあるし適正もあるんだけど、カフカなんかは一番出てきがちな人でね、その情景が、わりとすぐ出てくるタイプの人なんですね、それはあの視覚記憶の問題とかがあって、だた、それは読む側の問題、読み手が、なんだろう、退屈したらっていうか飽きたらダメなんで、ただ飽きるかなんかとの戦いっていうかね、で、ただ、あれはね、僕としてはね、読みにくいと思って書いてないんだよあれはね、まあそれ以上はなんか言わないことにしておくけど、あれは、その、なんだろう、磯崎憲一郎は、あそこ読んでズバリ言い当てて、……ズバリ言い当ててなんて言われたか忘れちゃったんだけど(笑い)、一つの絵をあちこちあちこち書いたでしょ?っていう、適当に書いていったでしょ?っていう、だからそういうことなんですよ、で、そうやってあのときの山下公園の統一像ができるかっていうと、それはできない、あの、できない、できる統一像を作りたくて書いてるんじゃないので、全然遠近もなにもない、
(山下)あれって、ちょっといいですか? あれ保坂さんが全部想像で書くんですか?
(保坂)えっと、山下公園にきのこをおっきくしたような木があるっていうのはほんと。ほんとだし、赤い靴履いてた女の子もほんと、あれも本当で、ただエロいセーラー服の子はいないんだけど、ただ、セーラー服ってどうだったかなと思ってネットで見てみたら、すっごいエロいのがあってさ
(山下)(笑い)
(保坂)びっくりするようなエロいのがあって、ほんとに、ただ、もう一度見たらなくなっちゃったんだよね
(山下)(笑い)
(保坂)それはもうしっかり目に焼き付けてたんだけど、いやびっくりしたね、こんなにやらしくなるのかなと思って(笑い)
(山下)(笑い)僕だから今の情景の話にあれなんすけど、いや、僕もそう思って、えっと、これちょっと練習せなあかんのちゃうかと思って、僕絵描くの好きで、写生みたいなのは昔ようしてたんです、あの、スケッチみたいな、それをちょっと文章でやろうと思って、ケータイで暇なときにこう、たとえばこういう風景があればそれちょっと文章で書いてみようと思うんですけど、超むずかしい
(保坂)ただね、えっと、動画、ビデオを録画して、口でしゃべるのは比較的簡単なんだよ、文章よりも、でね、僕は感動したのはね、2、3年前に沢尻エリカが話題になってたころに日食があったでしょ?
(山下)はい、はい
(保坂)皆既日食が、あれ沢尻エリカも見に行ってたから、で、そのときに皆既日食をほんとに、実況中継したNHKの科学畑のアナウンサーがいるんですよ、今もよく出てくる、こう丸顔でメガネかけて、あの人が皆既日食で、今なにが起きてるかをその場で全部事細かにしゃべって、あれは感動したんだよね、そういう感じ、関係ない、そういう感じってそういう感じなんだよね
(観客B)ありがとうございます
(保坂)じゃあ、あんま遅くなるとあれなんで、どうもみなさんありがとうございました
(山下)ありがとうございました
(拍手)

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