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意見開陳(予算特別委員会)

杉並区議会自由民主党(6人会派の自民党)は、令和5年度の予算案に反対いたしました。以下は、3月14日に私が行った意見開陳の全文です。

1.冒頭あいさつ

杉並区議会自由民主党の松浦威明です。 

冒頭、現地2月6日未明に発災したトルコ南東部・シリア国境での大地震で、多くの尊い命が失われたことにお悔やみと共に、被災されたすべての皆様にお見舞い申し上げ、一刻も早い復興を祈念いたします。

 また、昨年から引き続き、ロシア連邦が軍事力を行使してウクライナを侵略し続けています。彼らは私たちが今享受している平穏の日々と同じ生活から、ある日突然、戦火の中を生きることになり、既に市民7千人以上が亡くなり、800万人以上が国外へと非難しています。犠牲になられた全ての方々に対し、衷心より哀悼の意を表します。

 改めて令和4年度を振り返りますと、ロシアの戦争に加え、新型コロナウイルス感染症の影響が色濃く残った年でもありました。最近、流行りのウイルスは重症化率が下がったとはいえ、感染拡大の動向は今も不透明な状況が続いております。

このように、災害、戦争、病気、飢餓、また、政治的な抑圧によって、世界にはまだまだ自由と平等を手にする機会を得ることができない者たちが多く存在しているのが現実です。こうした環境においては、常に弱い者が犠牲となり、今この瞬間も多くの子供たちの命が理不尽に奪われています。このことはロシアと隣接する我が国、そして我が区にとっても対岸の火事ではありません。 

 2.意見表明

私はこの世界の現状とこの方々の想いを胸に刻みながら、杉並区議会自由民主党を代表して意見を申し述べます。

本予算案は、大部分が従前の予算案を引き継いでおり、数パーセントに満たない新規予算がそこに付随する、という形をとっております。そこで私どもの会派は、予算審査に当たり、大部分の従前予算と新規予算の双方について、精査し、検討を重ねて慎重に審議を行ってまいりました。そこで、

  • 前半では、大部分の従前予算に関すること。

  • 後半では、その新規予算に関して述べさせて頂きます。

 3.大部分の従前予算について

まず、大部分の従前予算に関する部分ですが、区の経済環境などの認識が甘いのではないかと考えています。

区が半年ごとに発行する「財政のあらまし」では、その冒頭の「区政を取り巻く環境」で政府経済見通しが提示されており、そのすぐ下に区の認識が記載されております。その経済見通しの実質GDP成長率は、

  • 令和3年度が4.4%、

  • 令和4年度が3.2%

となっていますが、これに対して区は、これまでいずれも「楽観すべきではない」、また「厳しい状況が続くと考えるべきだ」との認識を示してきました。

この2年間の、4.4%、3.2%と推移してきた予想成長率ですが、これが令和5年度の政府見通しでは1.5%まで低下することが見込まれています。さらに民間の予想はこれよりも低く、みずほリサーチが1.2%、第一生命研究所が0.9%、野村総研も1%未満としています。この状況下で、前回と変わらない予算案を提示するというのは、むしろこれまでの方針から逸脱しているのではないかと考えてしまうものです。

この件に関連して、現在の税収増についてですが、たとえば、原材料費上昇などによって100円のものが200円に値上がりすれば、消費税収は10円から20円に増えることになりますので、現在の税収増は物価高に起因しており、好景気によって生じている訳ではありません。これについて「税収が増えたから問題ない」、また「経済は思ったより悪くない」などと言っている政治家や政府の役人は、生活必需品をも節約しなければならない低所得者の苦しい生活や、原材料費の上昇で逼迫している中小企業の経営環境など、まったく見えていないのではないかと考えざるを得ないものです。

経済見通しの話に戻しますが、私が冒頭に申し上げたコロナ禍の話と国際情勢の話は今回の予算案と無関係のものではありません。なぜなら、政府や民間が低成長を見込んでいるその根拠は「コロナ対策関連の政府支出の減少」「世界経済の減速」、この二つを挙げているからです。

3-1.コロナ関連対策費用

第一に、コロナ対策関連費についてですが、仮に現在が有事であるならば、経済成長率とは無関係に躊躇なく必要な財源を投入することが重要です。

しかし、政府が緊急対策からの緩和を探るなか、現在はむしろ次の有事に備えるべき段階にきていると考えなければなりません。新型コロナウイルス感染症流行の動向も予断を許さない状況が続いているにも関わらず、本予算案にはウイルスに対する警戒感や政府の方針の変化が反映されているとは思えないものです。

特に重要なのは財政安全保障の観点です。地方自治体は、国とは異なり、通貨発行権がありません。国の場合は有事の際に発行した国債を、日銀買入でインフレに転化することが可能かもしれませんが、地方自治体の場合は堅実に備えていくことが一定程度求められています。 

3-2.世界経済の減速

第二に、世界経済の減速についてですが、世界各国はコロナ禍と隣国ロシアによるウクライナ侵攻に対して、依然として強い警戒感を持っています。また、現材料を輸入に頼る我が国の場合、そのシーレーンである台湾海峡および南シナ海における航路の安全確保は必須条件であり、隣国チャイナによるその安全保障上の不確実性がここに加わることになります。

国際通貨基金(IMF)は今回の日本政府の経済見通しについて、「歴史的に楽観的過ぎる」と厳しく指摘しておりますが、その楽観的といわれる政府の見通しよりも、更に高かった成長率の時代と変わらない予算案を編成することは、財政安全保障の観点が抜け落ちているとしか言いようがないものです。

現在、我が国の経済状況は、緩やかな滑り台を徐々に下り始めた段階にあります。それゆえ、昨年と同じ予算を執行したところで、生じるマイナス幅はさほど大きくないかもしれません。しかしそれを「大したマイナスではない」と毎年言い続け、その滑り台を下りきった頃に、皆がこう言うでしょう。「もっと早いうちに歯止めをかけるべきだった」、と。私はこの様な事態を最も危惧しているのです。

以上の理由により、我が会派は、実質GDP成長率の見通しが1%台まで引き下げられた、このタイミングで、財政安全保障の観点を取り入れ、方向転換する時期にきていると考えるものです。 

4.数パーセントの新規予算について

次に後半のわずかな新規予算に関する部分ですが、これらは二元代表制の観点から見て重大な欠陥を含んでいることを指摘させていただきます。

二元代表制のもとでは、区長が選挙で選ばれ、そして議会も同様、選挙で選ばれた集合体で、どちらも杉並区民の民意を反映していることになります。それでは、もし高校生などに「民意を反映するだけなら、区長だけを選べばいいのではないか」と問われたら、皆さんはどのように答えるでしょうか。おそらく、議会が必要な理由は、

  • 一つに、多元的な民意の反映。区長と区議会では、反映される民意のタイプ、質が異なること。

  • もう一つに、執行機関への監視。区長や行政組織が、適切な行政運営をしているかをチェックすること。

主に、この二つを挙げるのではないでしょうか。

これが地方自治の基本となるわけですが、今回新たに計上された予算の中には、この理念に反するものが多数見受けられます。

4-1.多元的民意の反映

第一に、多元的民意の反映ですが、杉並区の有権者の価値観、考え方、また、利益や不便に感じていることは多種多様になっています。それゆえ有権者は、自分たちに代わって区に要望を伝え、議論するためにその代表者として議員を送り込んでいる、と言えます。

 ①参加型予算

これらの認識があれば、今回の予算に組み込まれた「参加型予算のモデル実施」の70万円は、無意義な事業と言わざるを得ません。この森林環境譲与税基金を財源とした参加型予算については、「区民の、意思を予算編成の一部に反映させるもの」とはっきりと書かれておりますが、その議論をするために議会が用意されているにも関わらず、なぜ、わざわざお金をかけてまで「議会もどき」をつくる必要があるのでしょうか。国会のような一元代表制であればいざ知らず、二元代表制の機能の観点から理解に苦しむものです。

 ②まちづくり対話

これは「多心型まちづくり推進」のうち、対話集会等を含む1,033万円についても同じことが言えます。我々議員は、有権者の票を背負っており、議会での決定は,間接的に民意を反映したものと解釈することができます。

一方、当該事業のように、57万人の区民のうち専門家でもない極僅かな参加者の意見をもって「民意」とするのは、あまりに乱暴な議論と言わざるを得ません。それどころか、区長の施策を正当化するための印籠として、その「民意」が利用される危険性が孕んでいることを指摘させて頂きます。

 ③気候区民会議

この点について、更に懸念されるのが、仮称「気候区民会議」の48万2千円です。この会議は区長が熱心に取り組まれている気候変動問題に争点が限定されており、投票マッチング事業と同様、公平性への疑念と、結論を誘導する危険性を含んでおります。

もし、こうした会議体が区長の方針に「民意」という箔をつける目的で運用されるのであれば、議会はその役割を封じ込められることになり、その時点で二元代表制の理念は根底から崩壊することになるでしょう。

④子どもの権利条例

この議会との対話が不足しているという点では「子どもの貧困対策推進」の1,200万円も同じことです。区政経営計画書によれば、当該予算は「子どもの権利条例制定を念頭に置いたもの」とされていますが、この条例は「子どもが休む権利」などを巡り、既に武蔵野市議会で激しい論争を巻き起こしたものです。杉並区でも同様の展開が予想されますし、事実、私のもとには既に区民から懸念の声が届いております。

家庭での正しい子育てやしつけ、そして教育なくして、子供の権利などあり得ませんので、検討するなら、父母や保護者の子育てにおける第一義的責任を明示した条例を同時に盛り込むべきであると考えます。

⑤性の多様性条例

また、パートナーシップ制度など、いわゆる「性の多様性条例」にかかわる169万7千円についてですが、我々は「性の多様性条例」に反対の立場ですが、その背後には我々に投票した多くの有権者がいることを忘れてはなりません。区長は賛成派の意見はよく聞かれているようですが、私を含め、他にも反対の民意を代表している議員の主張はいずれも無視されているように見受けられます。

私のところには、そっとしておいてほしいと願う当事者から、多くの意見が寄せられています。彼らは過度に権利を拡張されたり、「可哀そうな弱者」といったレッテルを貼られることによって、これまでの平穏な生活が壊されかけていることに不安を感じております。そういった当事者の声を聴くこともなく、イデオロギーの実現を優先しているとしか思えない、拙速な条例制定には反対します。

⑥投票マッチング問題との関係

以上、いくつかの予算に懸念を示しましたが、このうち特に「区の争点を限定した会議体の設置によって民意を吸い上げる手法」の施策について、投票マッチング事業と同じ問題が含まれていることを区長は認識しているのでしょうか。

我が会派は二元代表制の観点から、公選法違反の可能性があることなども含め、要望書や一般質問で再三にわたって問題点を指摘してまいりましたが、それに対して、行政側からは不誠実な答弁しか返ってきませんでした。 

あの時点で投票マッチングが中止されていなければ、杉並区政は、今以上に混乱していたはずです。区長は本事業を導入する時点でその内容を認識していたにも関わらず、何もしなかったことは事実ですし、一般質問の私の答弁を最終的に確認していることも明らかになりました。

加えて、投票マッチング事業が区長の公約を忖度し、区長の公開討論会のイメージを受けた啓発事業であったということも、質疑と議事録の経緯から判明しておりますし、何がどう転んでも「投票マッチングは不適切であり、公開討論会は適切」という事にはならないわけです。即ち、区長は投票マッチング問題を通して、間接的に自身の公約である政策の見通しの甘さに対して、総務省のお墨付きで指摘されたということです。

この投票マッチング事件は、選挙管理委員長と事務局長の2人が辞職の意向を示すという前代未聞の事件となりました。一体、あと何人が岸本区長の犠牲になるのでしょうか。私はそのことが一番危惧するところです。我々政治家は使い捨てであっても構いませんが、区の職員を使い捨てにするようなことは決してあってはならないことです。今後、議会と行政との誠意ある対話を求めるものです。

4-2.行政への牽制機能

議会の役割として、第一に多元的民意の反映を挙げましたが、第二に、行政に対する牽制機能が挙げられます。議会には区民の代表として、行政側を監視し、緊張感を保つという役割がありますが、その点からも、本予算案に反対することは議員の責務であると考えます。

冒頭に述べた通り、本予算案はその大部分が従前の予算案であり、それと比べて、私が個別に反対意見を述べた新規予算は全体のほんのわずかにとどまります。しかし、これは見方を変えれば、問題含みの新規予算によって、区民生活に必要な大部分の予算が人質に取られている、と言うこともできます。

たとえば、議員の責務について「区民の生活を守る」ということに最重点を置くならば、新規施策には目をつむり、本予算案を通すべきだという判断に、絶えず導かれてしまいます。それでは、議員はいつ予算に反対し、いつ牽制機能を発揮するのでしょうか。本予算案のような「抱き合わせ販売方式」を認めた時点で、議会はその存在意義を失うことになるのです。

各論として反対した予算部分は、金額としては、小さいかもしれません。しかし、それをもって「他の大部分にブレーキがかかってもいいのか」といったような論法で応じるのではなく、正々堂々、正面から政策の是非を論じ合うべきと考えています。

これらの理由から、本来であれば予算修正動議で対応したいところですが、総合的に勘案して、議案第20号 令和5年度 杉並区一般会計予算案と、議案第12号は反対とし、それ以外の各特別会計予算案と予算特別委員会に付託された全ての議案については、賛成の意見とします。

5.結び

以上、縷々述べてまいりましたが、予算特別委員会で我が会派から出した意見や要望については真摯に受け止め、今後の区政運営におきまして十分に検討・反映されますよう強く要望いたします。

結びに代えまして、今回の予算特別委員会の審議に当たり、誠意を持って御答弁いただいた区長、教育長はじめ、理事者の方々、また膨大な資料の作成に快く応じてくださった職員の皆さま、そして円滑かつ公平な委員会運営に御尽力された正副委員長に、心からの感謝を申し上げると共に、

皆々様の天壌の窮まり無けむ弥栄を祈念しまして、杉並区議会自由民主党の令和5年度 各会計 歳入歳出 予算案に対する意見開陳といたします。

御清聴ありがとうございました。

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