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「なにも知らないくせに」


「保育士を1年間で辞められたんですね。なにか理由があったのですか?」


面接でよく聞かれること。

あまり思い出したくない、深掘りされたくないことだからデリカシーのない質問だ、と感じながらも、面接官も業務のひとつして聞いているのだから仕方なく受け止めて、いつもこう答える。

「やりたいことがあったからです」

本当はウソになる。
やりたいことを見つけたのは辞めたもっと後からだ。

本当の理由は、
「辛かったからです」である。

ただ、正直に話してしまえば「この人は辛いことがあると、すぐ辞めてしまう。」と印象を与えてしまうだろう。だから、いつも本当の理由は伏せている。

辛いにも限度がある。
毎日残業続き、一つの書類を書き上げるの何度も何度もチェックされ、最低でも1回は必ず何かしらのことを指摘されてやり直し(字が読めない程汚なくて文章も乱雑な男性の先輩保育士はなぜかそのままOK)、考えてきた案はだいたい却下、先輩保育士さんがやっていたことを自分が全く同じようにやると叱られる。掃除や食器洗いなどの細かい雑務も、厳しい目でチェックされていた。

社会経験のない新人だから、業務の全てをチェックするのも当たり前かもしれないが、それが1年中続いていた。はじめの頃は徹夜も苦でもないくらい、まだ園に慣れない子どもたちに笑顔で過ごしてほしくて、図書館に通って大量に絵本を借りて新しい本を毎日読み聞かせたり、早く立派な保育士になりたくて、まだ希望を持っていた。

それが、半年経過しても書類は清書前に必ずチェックが入るし、怒られる、陰口を言われる(聞こえないふり)、社員が1人突然辞めてしまうも、新しい人は一向に雇わない。1歳児23名を社員2名と無資格のパート2名で世話をする。そんな環境下で怪我が発生すると「なぜ防げなかったのか」「ちゃんと見てないからだ」と責められる。

そんな毎日を過ごしていると、だんだんやりがいとか、希望とか、休日の楽しみとか、お金を稼ぐことも、この先の人生も、全部全部どうでもよくなっちゃった。なんのために生きてるんだっけ。なんのために働いてるんだっけ。心を無にして毎日耐えながら早く時間が流れていけばいいのにと思っていた。
石の上にも三年だとか、たった1年で保育なんて理解できないだとか、言われたけれど、胸のうちで「わーーーーーーー、聞こえないーーー、わーー!!!!」と叫びながら、これ以上なにも言われないように聞いてるふりをして、迷うふりをしてみたりして、保育士を辞めた。



なにも知らないくせに。

なにも知らないから聞けるのだろうけど、そう思っちゃった面接の帰り道。🚶‍♀️

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