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番外編 不幸になりたがっている

わたしは不幸になりたがっているのかもしれない。朝食にくるみパンを食べながらふと思いつく。

朝が苦手だ。ずっとこのまま眠っていたい。
最近はそう思う日が増えた。永遠に眠る。それはすなわち、死だ。眠るように死にたい。

だから、今日みたいに朝ごはんを食べる余裕があるのは非常にまれだ。
ファミマのくるみパンを軽くトーストしてかじる。優しい甘みが口内に広がる。ふと思いつき、冷蔵庫で眠っていたクリームチーズをひとかけら載せてみる。
うん、悪くない。程よい酸味がプラスされ、これもまた良い。
私は少し、しあわせかもと思い始めていた。

そこに急にあらわるもう1人の私。
「だめだめ。私は不幸なんだ。悲しそうにしていろ」
「どうして?朝ごはんに食べたパンが美味しかったら幸せでしょう?」
「いいや。幸せになってはいけない。微笑みをしまえ」
「そうやって私はいつも、可哀想なフリをして。やさしくして欲しいだけでしょ?甘えたいだけなんじゃない?」

2人の私が心の中で葛藤する。
なぜ私は不幸になりたがるんだろう。

思えば、今までも私は幸せを自分で切り捨てる傾向があった。
とても大好きで仲良しな友人。いつも一緒にいた。私と彼女は全ての価値観を共有できると思っていた。
なのに、ある日突然、私は彼女が憎くなる。
理由はわからないが、全ての行動に苛立ち、冷たい態度をとってしまう。

こういうことが続いているうちに、私の友人は激減した。恋人に対してもこの現象が起き、何度も別れを経験した。

今では、私の氷河期を乗り越えたごく少ない友人だけが連絡をくれる。

話が少し逸れた。
なぜ不幸になりたがる。
「悲しい、辛い、不幸。誰かに気づいて欲しいの」
私の中の私がつぶやく。
「仕事が嫌だ。人間関係が嫌だ。もう行きたくない。3ヶ月くらい休職したいの。そして私でも何とか続けられる働き方を探したい」
「だから、私は幸福な顔をしていちゃダメなの。幸せそうにしていたら、誰も私の不調に気づいてくれないから」

きっとこれが本音だ。
憧れて、希望して、まっしぐらに脇見せず目指して、努力して、努力して、努力してきた。
そしてやっとこの職についた。2年目。
私は自分で選んだ仕事が嫌なのだ。
毎日、大勢の人の命を預かる仕事。私のうっかりミスが、誰かを殺すかもしれない仕事。

出来が悪く、要領も悪くて、おっちょこちょいな私には向いてなかったのかもしれない。
人間関係も濃くて、素晴らしい先輩たちを見て、自分の出来なさと勝手に比べて落ち込む。

「だから私は不幸になりたい」

楠木

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