万象森羅パラレルショートストーリー4

―――ここは現世と他の世界をつなぐ――
――ある世界の一時(いっとき)のお話です。――


引用索引
万象森羅:設定・キャラクター等を共有して
いろんなストーリーを作っていこうという企画です。

万象森羅 本編 
こちらはお寺のお勤めされているクリエイターともみとゆか様の小説です。

本編



前のお話し


3話 小さな指揮者

私は普段感情を表に出すことはしない。
もっとも、この城で生活するほとんどの時間は1人でいるため見せる相手もいないのだが。
たまにふらりと戻ってくる妖魔にしても、二言三言かわすだけで大体またふらりと出ていってしまう。
時々外に出ることもあるが、一定の距離を出たあたりで、妖魔の張った結界が透明な壁のように城を中心にして
張り巡らされており、そこから先に進めない。
時々入ってくる人間が来るが大体追い返すか氷漬けになる。というかする。

うかつだ。

「ハンターは力だけじゃないから気をつけるんだよ」という言葉が頭の中で反芻する。

ハンターは過酷な環境で生き抜きミッションを達成するため屈強な肉体と精神を必要とする。
種族問わず体格の優れた雄が選抜される。

今考えると、いくつかの違和感はあった。
奴隷はなぜ、叫びながら前へ倒れたのか。
逃げるなら対象者から遠ざかる後ろだ。

奴隷を蹴り転がした後、奴隷の商人が
どうするつもりですか?と聞いていたのは私に対してだったのか?

うかつだった。

指揮者は、この小さな奴隷のほう――

「改めて初めまして。私の名前はノーウィ・リッカ。ちょっと変わったトレジャーハンターよ。」

青いフードを被った、華奢な体をしたトレジャーハンターは、床にうつぶせに倒れている私の頭に向かってそう言った。

「妖魔は世界の魔力の滞りから形成されている物だと思っていたのだけど、
まさか魔力よりも技術力の方が効果があるとは思わなかったわ。正直。クラークは私に感謝することね。」

クラークと呼ばれた男は、嫌そうに答える。

「浄化の叫びは、邪悪を払うものとして上級妖魔クラスにも有効なものです。私の提案には問題はなかった。」

小さな指揮者は、言い訳を聞き流すと、

「問題はなかったかもしれない。でも、問題があったときに対応するのが私の役目で、役には立ったみたいね。
オプションとして追加料金をいただくわ!」

クラークは、不服はないが不満な顔をして無言でうなずくだけだ。

「わかりました。リッカ様の作戦は成功し、このように妖魔の一人を生け捕りにすることができました。
依頼主様はきっとお喜びになられるでしょう。お礼申し上げます。」

「それに、この魔力を制御する首輪は実際に目の前で効果を発揮している。それは事実だ。」

リッカは得意そうな笑みを浮かべると
「当然。これが地の国に伝わる秘匿された(盗んできた)技術よ!この首輪に組み込んだ装置は装着者の内部と外部に魔法制御の力を発揮する」

クラークは参りましたとばかり神妙に答える。

「さすがといわざるを得ません。初めはあなたのようなちんちくりんの若造がと思っていたのですが・・・」

――こいつは、喧嘩を売っているのか、天然なのかわからないな。

「・・・・いやまてよ?リッカ様。私の浄化の叫びを付与した対象がもし首輪をつけていたらそれも制御されてし――」

リッカは電光石火の速さで、クラークが結論を口に出すより早くの言葉を遮り

「ちょっと待ちなさい!あなたは何か?この私の考えた優秀で素晴らしい天才的な作戦にケチをつけるっていうの?
 お代は安くならないわよ?」

クラークが面食らった様子で、
「いえ、そういうわけではありません。契約は契約。お支払いをさせていただきます。ですが、魔術を研究する身としては気になるのです。
 もし術者が首輪をつけていたらそれも制御――」

再びリッカが遮る
「あーあー聞こえなーい!第一これは秘匿された技術。これ以上聞きたいなら別料金よ?」

クラークは、渋々うなずいて自分の研究に対する好奇心を無理やり押し込んだ。

「お取込み中申し訳ない。私をどうする気だ」

ぐったりしているように見えるエトワが感情のない声音で答える。
私はいま置かれている状況を分析する。
何故体が不自由なのか。先ほど2人が話していた通り首輪のせいということだと思う。
それ以外に何かされているとは思えない。
普段の生活において意識したことはなかったが、どうやら自身の体の大半は妖力によって
まかなわれていたのだろう。遮断されて初めて気づくぐらい自然に使っていたようだ。

魔法は使えるか?試してみたがガスが漏れるくらいの微弱な出力しか出ない。この首輪は大分強力な代物の様だ。
それよりも、普段の生活で肉体強化していたことが仇になっている。魔力強化修練のつもりだったが、この場面では非常に致命的だったようだ。

そんな事を考えていると、クラークが答える。
「あなたを依頼主様のところへ連れていきます。それが私の役目です」

私は答える。
「依頼主様?奴隷を売り買いしている商人の皮肉ですか?」

表情を変えずにクラークは答える。
「私はハンターで、依頼主の依頼を遂行するまでです。それ以外は依頼に入っておりませんので」

つまり、引き渡した後は私がどうなろうと知ったことではない。ということか。

リッカが私の両手を掴み、後ろ手に縛りあげる。多少抵抗は試みてみたが、肉体制御のできない私の力ではどうにもならなそうなので、おとなしく縛られるとこにした。

「ふむ。」

リッカは、私が抵抗しない(できない)ことを確認すると仰向けに私を転がす。

「――さて、はじめますか。」

抵抗できない私に始めること――

「身体検査よ」

伝えられた言葉が大広間にこだました。

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