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犬を飼ったら近所がちょっと綺麗になった話

2021年3月4日、我が家に新しい家族がやってきた。生後3ヶ月のボストンテリアの雌だ。あまりピンとこない方にもジョジョの奇妙な冒険の3部に出てくるイギーといったらわかるかもしれない。白と黒のツートンカラーの鼻がペチャっとした中型犬だ。我が家は僕と妻と長男、長女、次男の5人家族で子供にはそれぞれ春、夏、秋の季節が名前に入っている。新しい家族は4番目に我が家にやってきたのでお冬と名付けた。お冬が家族に加わり四季がコンプリートされてすわりがよくなった。

コロナ禍で僕も妻もリモートワークになったことや、感染予防のために子供を連れての外出が減ったことで、ほとんどの時間を家で過ごすようになった。そのタイミングで妻の第三子の妊娠が発覚し、住環境をより充実させるために転居を決めたのが2020年の夏頃。新しい住居は一戸建てで近くの公園にはドッグランが設置されているという犬を飼うにはもってこいの環境であることに気がついてから、僕は様々な種類の犬を検索しては犬種による性格の違いや飼い方などを学び犬との生活を妄想して楽しんでいた。ある夜、妻にその妄想を伝えたところ、ばっさりと却下され僕の妄想は妄想として処理されることになった。ところがその日を境に子供を寝かしつけた後の夫婦の会話に犬というトピックが追加され、「フレンチブルドックとボストンテリアの見分け方がわからない」「チワワは踏み潰しそうで不安」「ダルメシアンは難聴が多くてかわいそう」などと犬について話すことが増えてきた。後で聞いた話だがどうやら妻は本当は犬を飼いたかったのだけど僕が世話をせず自分の負担が増えることを懸念していたようだった。犬についての話を重ねていくにつれ会話の内容が飼う方へだんだんと傾いていった。話を重ねるにつれ段々と具体性を帯びていき大型犬ではなく、しつけがしやすく、子供と遊ぶのが好きということからボストンテリアがいいということなりGoogleに「ボストンテリア、ブリーダー」と打ちこむこととなった。

検索をした結果、神奈川のブリーダーさんのところに生まれて間もない子犬がいることをがわかり見学にいくことになった。見学で出会った生まれてまもない手のひらサイズの子犬はぬいぐるみのようだったけど、手の上にのせるとプルプルと小刻みに震えていて生温かく、ちゃんと生きているモコモコの存在だった。僕はその手のひらから伝わってくる圧倒的な存在感にすぐさま連れて帰らないといけないという気持ちになった。一緒に連れてきた長男もその愛くるしい生き物にすこし戸惑いながら撫でてみたり話しかけたりして、すっかり虜になっていた。私たちはすぐに飼い始めたかったのだけど、生後57日を満たないと引き取ることができないため1ヶ月後に引き取る約束をして帰宅した。帰りの電車ではすっかりテンションの上がった長男が子犬の可愛さや小ささについてひとしきり喋ったのちに爆睡していた。
お冬が家にくるまでの1ヶ月は新居への引っ越しや、犬を飼うための準備で慌ただしく過ごしていたので、あっという間に時間が過ぎ我が家にやってくる日になった。

お冬がやってきてしばらくはワクチンの接種が済むまで外出することはできず、一緒に散歩ができるまでは室内ですごしていた。日に日に大きくなる子犬に長男はビビり逃げまどうようになり、長女は果敢に世話を焼こうとし犬を戸惑わせ、生まれたばかりの次男はお冬とは関係なく泣きまくり、ただでさえ賑やかな我が家がもっと賑やかになっていった。ワクチン接種が完了した5月ごろからは散歩にいくことができるようになり、朝夜30分の散歩は僕の役割となった。

長男が生まれたばかりの時、一緒に外出をするとお年寄りやマダム達に、道路やスーパーなど色んなところで声をかけられ、いままでコミュニケーショをとったことのない人とのつながりができ、子供が生まれると社会と繋がるなと思ったものだった。また、子供が歩けるようになるとポイ捨てされているゴミや吸い殻を拾って口に入れようとするのを制止するたびに「ゴミをポイ捨てするやつは家族が39度くらいの熱になったり、指のささくれが思った以上に剥けてしまえばいいのに」と呪詛を吐きなかまら街が清潔であることを願うようにもなった。

犬との散歩は赤ん坊以上に声をかけられることが多く、お年寄りやマダム以外にも、ほかの犬の飼い主や若者や子供たちなどからも話しかけられることがあり、より地域の人びととのコミュニケーションが増えた。

散歩のルートは決めておらず毎日別の道を通るようにしているのだけど、最終的に近所のコンビニで翌日の朝食用のパンと牛乳を買うことだけは決まっていた。そのコンビニは店頭のスペースが広々としているし、なにより犬を係留をすることができ散歩の最後によるにはもってこいのコンビニだった。店頭に若者がたむろしていることを除いては。

ある日、いつものようにコンビニの係留ポイントに犬を繋ごうとすると、そのすぐそばに4,5人の若者たちが地面に座り込んでしゃべっていた。お冬は人見知りをしないため、どんな人にでも構ってもらおうとするので、僕はこの若者たちには絡まないでくれと願いながら「待て」と指示をだし、その瞬間は賢く座っている愛犬を外に待たせてコンビニに入店した。

急いで買い物を終わらせて外にでてみると、お冬はその若者のうちの1人に馬乗りになって楽しそうに遊んでいた。ちょっと構ってもらっているくらいは想像していたのだが、パンと牛乳を買う数分のうちに寝転がっている若者の上にに乗り、顔をペロペロ舐めるほど仲良くなっているとは思わなかったので、「あぁぁぁすみません」というなんとも間抜けな声が出てしまった。若者たちはとてもいい子で「いえいえこちらこそ勝手に遊んですみません」と返事をしてくれ、お冬も楽しそうだったのでしばらく遊んでもらうことにした。

それ以降、コンビニで彼らに会うたびにお冬は彼らに構ってもらい、僕は安心してのんびりと買い物をするようになった。お冬もコンビニの前を通ると絶対に寄りたがるようになっていた。だんだんとお互いに慣れてきて僕も彼らと会話をするようになり、若者のうちの1人が犬を飼っていた話をきいたり、お冬に着せている服の話などをしたりと仲良くなっていった。すっかりと慣れたころ、お冬が彼らのもとに向かおうとすると、彼らのうちの1人「ほらワンちゃんが食べちゃわないようにゴミ拾わないと」などと声をかけて吸い殻やゴミを拾い始めた。

コンビニの前に貼ってある「いつも綺麗にご利用いただきありがとうございます」の張り紙は一向に効果がなかったのに、犬と触れ合うことによってコンビニの前のゴミや吸い殻が彼らの中で捨てないといけないものに変わる、彼らの周りの環境がぐっと変化した瞬間をみることができ僕は深い感動を覚えた。それ以来、コンビニの前のゴミが少し減りちょっと綺麗になった。

寒くなってからは彼らも外にでてこなくなったのか会うことがなくなったのだけど、最近暖かくなってきたのでそのうちまた会えるだろうと思いながら今日も愛犬と散歩にでかけるのだった。

犬を飼ったら近所がちょっと綺麗になった話でした。おしまい。

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